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電脳組対四課―Hacking Soul Shadow―  作者: 刹那美吹
第一章 クローンは同じ夢を見るのか?
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第十四話 クローンの悲劇

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 バージル課長と後部座席に座り、覆面パトカーは現地へ向かう。フリーウェイに乗ると一例に並ぶ一課の覆面パトカーに、捜査員を乗せたバス。特殊部隊まで出動しているようだ。そして山が見えてきた所で、フリーウェイを降りて一般道で山へ向かう。


 山の麓を走りつづら折りの道を登っていく。木々は強い日差しを遮り深緑を味わうのも悪くない。遠くに見える小さな家々を見て絶景に魅入っていた。車は幾つものカーブを越えて、やっと見えてきたのは白い四角い建物だった。窓が一切無く中の様子が全く分からない。


 建物と隣接するように大きな駐車場があり、バスが数台停められる広さがある。監視カメラが設置されており、既に警察が来たことを知っているかもしれない。

 特殊部隊が入り口を囲む中、捜査員がインターホンを鳴らす。すると扉が開き令状を見せると、なだれ込むように中に入っていく。


「行くぞ、フェニクス」


「あぁ、何があるんだろうな」


 バージル課長と共に車を降りて、建物の中に入っていく。外と同じく中も白い壁が続き、開けっ放しのセキュリティードアを抜けると、目の前に広がるのは沢山置かれているリクライニングソファーだった。薄暗い明かりに照らされて、ここからメタバースへダイブインするのだろう。


 すると地下への階段を捜査員が見つける。明かりは灯るが深くて暗い闇に包まれるかのように、捜査員はその大きな口に飲み込まれていく。


「おい、何だよ、あれ?」


 と大きな声を出してバージル課長は指差した。その指差す先には透明な円柱の容器が縦になって並べられている。その中にはフェイスマンが緑色の液体に浸されているが水中で息をしているようだ。ここで眠っていたのかと彼らを見るフェニクスだが、ある者を見つけてしまう。


「おい、フェニクスこれって」


「何でだっ……、何でなんだよ」


 同じように円柱の中で眠るのは、緑色の液体に浸された子供の姿のフェニクスだった。フェニクスは白衣を着た研究員の胸ぐらを掴み、何故、似た子供が眠っているのかと問う。


「彼女はコールドスリープ状態でした。長年、眠り続けていたんです」


「ちょっと待て、女の子なのか?」


 フェニクスと子供の頃を良く知るバージル課長は、顔を見合わせてその女の子を見ている。似ているというよりクローンと言った方が早い。性別は違うがフェニクスから作ったクローンなのではないかと、研究員に問うと現状は複雑だった。


「彼女がオリジナルですよ」


 女の子はフェニクスのクローンではなかった。それどころかオリジナルだった。何故、女の子は眠っているのかという疑問と、何故、クローンが作られたのかという疑問。その他さまざまな疑問が交錯する。


「俺が女の子のクローンなのか?」


「はい、あなたは彼女のパーツとして作られました。けれど研究員の一人が赤子のあなたを連れだして逃げ出しました。発見した頃には警察の監視下に置かれてしまい、パーツの移植ができなかったんです」


「俺を連れだしたのは誰だ?」


「あなたを連れ出した研究員は、ハイバラと言い行方不明になっています」


 オリジナルは二歳の時に難病を発症し、コールドスリープに入ったそうだ。そのまま月日は経つが、医学は難病を治せるまでに至らなかった。だからコールドスリープで寝ていたそうだ。


 フェニクスはまたクローンを作れば良かったのでは? と道徳に反する考えを口に出すところだった。一つの命を助けるために一つの命が犠牲になる。それは今の世の中でも認められていない。


 だが人類連合の許可があれば別だ。お偉いさんたちの都合の良い方へ、法律は曲げられている。自身が年老いた時にパーツが必要だからとかいう発想だろう。


 だがフェニクスを作ったのに、何故、次を作らないのか疑問が湧く、一人も二人も同じではないのかという考えが、脳裏にこびりついて離れない。訊くべきか訊かぬべきかで悩むフェニクスは、肩を叩くバージル課長にやっと気がついた。


「こいつらは人間のクローニングで逮捕だ。ドラッグに関わっている件でも検挙したい。来るか?」


「いや、俺はまだ調べたいことがある」


 と言うと、バージル課長は捜査員が集まる部屋の奥へと消えていった。フェニクスは屈み込み女の子の顔を間近で見ると、研究員に質問し始める。それはフェイスマンのことだ。


「フェイスマンは拒絶反応を示さない特殊な肉体なのだろう。何故、使わなかった?」


「もちろん使いましたよ。だから彼女は目を覚まします。ですからあなたに彼女を託したい。お願いします」


 フェニクスのオリジナルである女の子は息をしている。コールドスリープから出され緑色の液体の中で眠っている。研究員たちはフェイスマン計画が無事に成功したことが分かると、女の子の肉体に臓器移植をしたそうだ。これで女の子の病は治ったという。


 フェイスマンが誰なのか答えが欲しい。まさに神としか思えない。一から創られたのか、偶然の産物なのか、オリジナルが存在するのか分からないが、人類からしたら有難いことだ。だがパーツにされる彼らの身になって考えれば酷い話しである。


「女の子の両親は生きているのか?」


「ここに来た男性は、フェイスマンと彼女を託して、どこかへ行ってしまいました」


 二人を連れてきたのは誰だろう。フェイスマンが女の子の病を治す鍵だと知っている人物だ。だが実験を続ける中で、フェイスマンのオリジナルは亡くなってしまう。


 研究員はクローンを作るも拒絶反応が出てしまったらしい。完全なコピーを作れるようになるまで時間を要してしまう。やがて肉体からの出産ではなくて機械である機械子宮(マザーズ・クレイドル)が2050年10月に発明されると、拒絶反応を起こさないフェイスマンの誕生に成功する。


 あまりにも時間を費やし過ぎたが、一般人で脳再格納(ブレイン・ユニオン)を行い、安全だと分かると、やっと女の子の病を治すことに成功したそうだ。


 すると緑の液体が抜けて、圧縮された空気が抜ける音がする。自動で蓋が開き、女の子を容器から取り出して抱きかかえると、フェニクスはその軽さに驚いた。二歳ってこんなにも軽いのかと、こんなにも小さいのかと、壊さないように慎重に扱った。


「何で俺は男なんだ? 何故、性別を変えた?」


「そのまま作っても同じ病を発症します。よって強い肉体を得るには、男性の臓器が良いとAIが判断しました」


「それで俺は男なわけか……」


 容器の隣に用意された服を手に持って、バスタオルで身体を包み込む。起こさないように静かに立ち上がると、施設の外へ出て車の後部座席に座る。これからどうするかとそんなことを考えながら、小さな自分を見ているような不思議な感覚を覚えた。


 フェニクスは自分自身を振り返った。教会で暮らしていた記憶はあるが、赤子の頃となれば施設のことなんか覚えていないのが普通だ。フェニクスを連れだした女性に会いたいと思う。命の恩人でもあるその女性は何者なのだろうか?


「これをどうぞ」


 と言われ、フェニクスは研究員からメモリチップを受け取る。

 彼は研究員だが、おとり捜査員のようだ。彼がここを見つけ通報したのだろう。



 車に戻るとバージル課長がやってきて後部座席に乗り込んだ。眉根を寄せた顔をしてこちらを見ると、一瞬、目を見開くが乗り込んで扉を閉めた。


「お前、嬢ちゃんを連れて行くのか?」


「あぁ、俺に託された。俺のオリジナルでもあるからな。育てる義務があるように感じたんだ」


「まだ子供だろう。お前に育てられるのか?」


「分からない……、まぁ、やってみるしかないだろう」


 すると捜査員が戻ってきて、車両に乗り込むのだが、不思議なことに研究者の姿が見えない。白衣を来た者が一人も見当たらないことに、フェニクスはバージル課長を見て訊いてみる。


「研究員はどうした? 証拠がなかったのか?」


「いや、証拠は出た。出たんだが上からの指示で何もするなとだとさ」


「何だよ、それ、確かに魅力的な研究ではある。脳再格納(ブレイン・ユニオン)ができるのだからな」


 車は走り出し今度は下り坂が続く、ここまで来て目撃したのにも関わらず、収穫なしはキツいだろう。帰りが長く感じるのはそのせいだろう。

 フェニクスは渡されたメモリチップを再生する。


『父さんだよ。母さんよ。


 これを見る頃には、病は治っていることだろう。

 二歳だからまだ分からないと思うが、もし迎えに行けなかったら、

 大人になった時に見てくれればいい。


 二歳の時に病を発症し、余命一年と宣告された。

 直ぐに研究所へ運び、実験段階だったコールドスリープに入れたんだ。

 世界の医学が病を治せるようになるまで、寝て待てるようにね。


 そして遺伝子工学の権威であるリーガル博士が創り上げた奇跡の生命体、

 レシピエントを譲り受け治療に役立てばと思ったんだ。


 早く元気になって走り回る姿を見せてくれ』


 フェイスマンは創られた生命だった。だが残念なことにオリジナルは他界。レシピエントのクローンが作られるが拒絶反応が出てしまう。それはクローンを母体から誕生させていたからだろう。


 母体の中で、母親に似るように変異が起こっていたんだ。

 そして、機械子宮(マザーズ・クレイドル)が発明されると、拒絶反応のないフェイスマンが大量に作られた。


 もしもリーガル博士の実験結果が残されているのなら、フェイスガールも作られるかもしれない。だが戦争によりあらゆるデータが灰になってしまった。


「なぁ、GODのフェイスマンの顔とメッセージの件はどうなった?」


「女の子は治ったというメッセージだとさ」


「ってことは、両親が施設に来るってことか……、調べなくていいのか?」


「駄目だ。一切の調査を禁止された。ちくしょーめが」


 手応えはあった。だが証拠は得られなかった。残念だろうなとバージル課長を見る。上の指示には絶対だ。このまま研究所は人類連合の研究員に引き継がれ、人類連合に関係する者たちだけがフェイスマンを扱うのかもしれない。


 こうしてフェイスマンと謎のメッセージの件は幕を下ろすことになる。

 命の恩人である、フェニクスを逃がしてくれたハイバラが母親かもしれない。そんな淡い夢を見た。


 彼らは筒の中で成長し眠ったまま人生を終える。クローンは同じ夢を見るのか? そもそも夢を見るのだろうか?

 ここで一章完結となります。

 ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました。

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