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ナンパされてる女の子のスマートな助け方講座 ~そのいち~

作者: 自転車に乗ってるときの向かい風を許さない会 

面白くないとか言わないでください。私は言葉攻めでは興奮しません。

 《さて、皆さん。おはようございます。本日講師を務めさせていただく山田・ヌウェンムルワ三世です。講義の内容は題名の通り、街中でナンパされたり、輩に絡まれて困っているおにゃのこをどうやって、スマートにかっこよく助けるか、についてです。かっこよく助けてみたい、でも臭いセリフとか言って痛い奴だと思われるのも嫌、そういった方向けとなっておりますのでご理解いただけると幸いです。

 さて早速お手本の映像をもとに学んでいきましょう。この映像は、私、山田・ヌウェンムルワ三世自身の実体験に基づいて作成された再現動画となっております。多少の演出はありますが、おおむね事実でございますので、そのつもりでご覧ください。

 講義形式ですが、ポイントとなるところで動画を止めながら解説を挟んでいこうと思います。準備はいいですか?さあ、講義スタートです!


再生

 俺は仕事終わりに、さびれた屋外の喫煙所で煙草を吸うのが好きだ。ここ数年、煙草の値段は上がり続けているが辞められない。ちっちゃな棒に火をつけて毒煙を空に向かって吐く。今日みたいな寒空に上っていく煙を見つめるのが好きなのだ。自分というちっぽけな存在が、ここに確かに生きていると知らせる狼煙みたいで辞められない。中二病みたいだから誰にも言ったことないけどな。

 今日は繁華街のそばにある喫煙所で一服している。俺以外に吸ってるやつはいないし、灰皿に他人の吸い殻もない。単に人気のない場所なのか、世の流れに流されて辞めていったのか。喫煙者は生き辛い世の中になったものだ。

 物思いにふけりながら周りを見ていると、繁華街の前なだけあっていろんな人が現れる。仕事帰りのサラリーマン、塾帰りの受験生、飲み屋をはしごする酔っ払いの三人組・・・それから、ぽつんとたたずむ女性が一人。ボーイッシュなスタイルの服だけど、しっかりおめかししているところを見ると、デート前といったところか。きっと誰かを待っているのだろう。時折携帯を確認しながら、周りを見回している。道行く人は誰も彼女を気にしないが、時には夜に紛れて下世話な輩がやってくるものだ。金髪でチェーンをじゃらじゃら鳴らしてる男と、目が隠れるくらいに前髪を下ろして首にタトゥーが見える黒髪の男の二人組が女の子の方に寄っていく、ナンパという奴だ。


「お姉さん、今日一人なん?よかったらさあ、俺らとミドリムシバーガー食べに行かん?」

「最近できたんだけどさあ、おもろいって噂なんよねえ」


「一人じゃないし、行きません。私、彼氏と待ち合わせしてるんで。安いナンパはどっか行ってください。」


「いいじゃん、そんなこと言わずにさあ、これからの時代ミドリムシを愛していかないとやってけないかもしれないじゃん?その第一歩としてさ、今日挑戦してみようや。」

「せやせや、何事も人生は挑戦やでえ。」


「いやです。私、すでにミドリムシ愛してますから結構です。」


「それならなおさら一緒に行ったら楽しいやん。おっけー、今夜はミドリムシバーガーとボルボックスジュースで決定―!」


 そういって、金髪ナンパ野郎が女のこの手をつかむ。


「ちょっと、離して下さい。いやだって言ってるじゃないですか。」


 ナンパがエスカレートしてきた。話しかけるだけなら止めはしないがそこまで行くと行き過ぎだ。しゃしゃりすぎたナンパ野郎を撃退するのは彼氏殿の役目だろうが、周りを見回してみたが見当たらないし、周りのやつらは見てるだけで手を出そうとはしない。我関せずが日本人の国民性だもんな。こうなっちまったら仕方がない。漢、山田・ヌウェンムルワ三世、女の子を守るために一肌脱ぎます!

 煙草の火を消し、自分の中のスイッチを入れ、大股で三人に近づく。正義のヒーローに煙草は似合わない。


一時停止

 「おいおい、ちょっといいかい、あんちゃん。嫌がってる女に無理やりってのは感心しねーなあ。」


って言えたら気持ちいいけどなあ、さすがにこの年になると恥かしさが勝っちゃう。お前どこ目線で物言うてんねんって関西弁で突っ込みたくなっやうもんなあ。でもこのまま放っておくのも嫌やしなあ。』

 そんな風に皆さん思ったことがあるでしょう。そういう時に有効な方法を今回の講座では全三回にわたってお伝えしようというのです。

ぜひ参考にしてみてください。


再生

 煙草の火を消し、自分の中のスイッチを入れ、大股で三人に近づく。正義のヒーローに煙草は似合わない。


「そこの金髪でガタイのいいお兄さんとタトゥーの渋い男前さん、今夜あいてるかい?よかったらあたしと一緒に、バーに行かない?」


「何?おっさん誰?俺ら取り込み中なんだよ、雰囲気のいい男女邪魔すんなって古事記にも書いてるだろーが、すっこんでろ加齢臭一歩手前爺が。」


 金髪のほうがあたしの胸ぐらをつかんでくる。向こうの方が上背がある分ちょいと怖い。でも、引き下がってなるものかと畳みかける。


「お兄さん、そんな女の子で満足なの?あたしならもっと満足させてあげられると思うけど。今晩どう?二人一緒でもいいわよ。」


 言いながら上目遣いに自分のベルトを緩める。夜のお誘いってやつだ。


一時停止

 はい、皆さん、これが一つ目の助け方です。「オネエになる」を今回の講義では中心に解説していこうと思います。人間はよくわからないもの、未知の物に恐怖を示す傾向があります。その心理を利用し、女性が好きな男性に、弾性が好きな男性をぶつける。至極単純な方法です。たいていの場合、ナンパ組をビビらせ、こちらのペースに引き込むことが出来ます。いきなりズボンおろしてパンツを見せるのもいいでよう。とにかく先制攻撃として相手のペースを乱すことを意識してみてください。それでは第一ステップの解説は以上です。

次のステップに移りましょう!


再生

 

「何言ってんだこいつ、気持ち悪いこと言ってんじゃねーよおっさん。俺たちは女の子に用があるの、ゲイは家に帰ってセオドアバックウェルの妄想でもしてろ。」


「そんな冷たいこと言わないでよーん、あたし最近飢えてるのよ。お願い一晩だけでいいから、連絡先交換しようととか言わないから、都合のいい雌でいるから。」


 言いながら左手で金髪のお尻をなでながら右手でネクタイを緩め、自分の胸元を開いていく。もちろんしなだれかかるのも忘れずに。


「お前、生物学的にメスじゃねーんだから俺らの守備範囲外なんだよ。お前と一晩過ごすくらいならテナガザルの密輸入に手を貸すわ。」


 

「こいつ気持ち悪いよ、おいケン、相手にすんな。わけわかんないこと言ってるぞ。テナガザルなんて日本じゃ需要ないこと忘れてるよ。」


 お尻からゆっくりと前側に左手を滑らせる。耳元に顔を近づけ、唾液を口内に絡めながらゆっくりと囁く。

「そんなこと言わずにお願いよ、人生何事も挑戦でしょ。あたしナマコみたいってよく言われるのよ。味わってみたくない?」


 

「ナマコって襲われたら自分の内臓吐き出して逃げるじゃん。いやだよ汚い。」

 

 さすがに嫌だったのか突き飛ばされた。


「そういう生物の生存戦略的なたとえでナマコって言ったんじゃねーよ、ナマコってぬるぬるしてるしかなりコリコリしてるでしょ?どの部分とかは野暮だから言わないけど、そういう特徴があたしにもあるってことよ。てかわかりなさいよ、この意気地なし。」


「おい、もういこーぜ。こいつキモすぎるよ。ちょっとぼかして配慮してる風なのがよりきもいよ。挑戦しない方がいいこともあるって学べただけでも、一歩進めたから今日はもう帰ろうぜケン。」


「いや、こんなわけわからん奴にビビッて逃げるようじゃ、俺のプライドが許さん。田中雄二、お前も男なら腹くくれ。」


 どうやら金髪のほうがケン、黒髪のほうが田中雄二というらしい。なんでフルネームで呼んでるんだケン君。


一時停止

 

 今回のパターンでは、田中雄二をビビらすことには成功していますがケン君は全くビビっていません。こういう場合でも慌てることは禁物です。相手のペースに乗らないこと、これがナンパを撃退する上で一番大切です。


再生


「わあーったよ。ケン、お前がそう言いだしたら何言っても止まんねもんな。今日はボルボックスジュースで祝杯を上げようぜ、相棒!」


 なんなんこの空気。なんでちょっといい話みたいになってんだよ。お前らただナンパしてきただけだろうが。青春の一コマみたいな空気醸し出してるんじゃないよ。それともこういう新手のナンパ法なのか?忘れてた青春の頃の熱い気持ちを思い出させてガードが緩むのを狙うみたいな?こいつらどこに演技力使ってんだよ。


「あのー、盛り上がってるところ悪いですけど、私、男ですよ。立派なエクスカリバー生えてるんで。」


 女の子だと思ったらついてた件について。うそでしょ、もしついてるとしたら、得しかないやん。


「いやいや、何言ってんの。お姉さん、胸もあるし声も高いし嘘は良くないよ。」


「あんた、あたしの同業者ってこと?女の恰好してナンパされるの待ってた卑怯者なのね。あたしみたいに自分のあるがままの姿で男にアピールしなさいよ。」


 絶対女性だと思うけど、とりあえず彼女?の思い描くシナリオに乗ってみる。


「ケン、田中雄二はいいことを思いついたぞ、そこのおっさんと女の子を戦わせるんだ。本当の女の子なら絶対に負けるし、そもそも戦わないかもしれない。もし男ならオネエ同士のキャットファイトが見れるわけだ。最高じゃないか?」


 一人称が田中雄二なことが気になって内容が入ってこねーよ。


「田中雄二、お前の言う通りかもしれん。どっちに転んでも俺たちには良いな。おい、女、本当に女装してるならこのおっさんと殴り合ってみろよ。できないなら俺たちとミドリムシバーガーを食べに行こう。自分の言葉に嘘はねえよなあ?」


 まずいな、どう見てもあの子は女の子だ。顔が青ざめてる。たぶん、俺の真似してオネエになればケン君と田中雄二が興味を失うと思ったんだろうけど、オネエを名乗るにはかわいすぎる。こうなると打開策は一つかな。


「あんたみたいな、オネエがいるせいであたしみたいな負け組が出来るのよ。ちょっとかわいいからって調子乗んじゃないわよ。このあばずれめええええ。」


 叫びながら女の子に突進する。ちょいと服が汚れるかもしれないが、今はそんなこと言ってられない。ラグビー部よろしくタックルで倒しに行く。


「おい、おっさん。怪我させんなよ。」


 女の子を抱きかかえるように体制を変え、自分の体が下になるように体を地面に投げ出す。二人組に声が届かないように、女の子にささやく。


「思いっきり俺を殴れ、蹴ってもいい。やられる演技は任せろ。」


「いいんですか、私、新手黒帯なんですけど。ナンパ野郎を叩きのめしたら、警察とか怖いなって思ってたからやらなかっただけなんですけど、おじさんがそういうならボコしますね。」


「うん?ちょっともう一回言ってもらっ…


 素早く起き上がった彼女が俺の顔面に正拳突きを入れてきた。青ざめてたのは恐怖じゃなくて暴力沙汰にしたくなかったからかい。そんな力あるなら、さっさと撃退しとけよ。


「ちょっ待てよ。いったん落ち…


 今度はあごにクリーンヒット。立ち上がろうとした瞬間に右足一閃。大昔に劇でスタントマンみたいなことやってたから衝撃を逃がすことはできたが。それでも痛すぎる。

 それから五分くらいだろうか、一方的にシバかれる俺氏。起き上がって何か言おうとするたびにさえぎるかの如く、お姉さんの手足が鞭のように飛んでくる。ほら、ケン君と田中雄二もドン引きだよ。お姉さん強すぎだよ。俺smの趣味は少ししかないんだから手加減してくれや。


「お、おい、田中雄二。次にああなるのは俺たちかもしれんぞ。おっさん虫の息やで。」

「お姉さん、俺らが悪かったって。ミドリムシバーガーはもういいから、俺らもう行かないといけないからさ。じ、じゃあね。」


 お姉さんが振り返ると二人組は危険を感じたのか一目散に逃げていく。俺の存在なんなん?マジで火中の栗を拾うとはこのことや。


「おじさん、警察とか辞めてね、先にタックルしてきたのそっちだから、正当防衛だからね。」


 そう吐き捨てて、お姉さまは駅の方に去っていった。後に残ったのは口の中に血の味がするくたびれたおっさん一人だけ。ヒーローになるには難しかったみたいやわ。


停止


はい、今回の講義動画は以上になります!いかがでしたか?ナンパから助けたと思ったら、厄介ごとに首を突っ込んだだけというね、まあなんとも救いようのない展開でした。しかし、皆さんに忘れてほしくないのはこのような事例はごく少数だということです。日本の武道経験がある女性は全体の10%ほどですから安心してください。

 それでは最後の解説に参ります。えー、女の子にやられる役になって、ナンパを撃退しようという作戦でした。あのような状況においては悪くない選択肢だったといえるでしょう。しかし、ベストな選択肢は女の子がオネエだとカマをかける前にさらに畳みかけることでした。オネエ路線で貫くのもいいと思いますし、別方向で相手の不意を突くのもいいと思います。最初のステップから言っておりますが、大切なのは相手のペースをかき乱すこと。具体的な方法としては、よろめいたふりして相手の首筋をなめに行くとか、急に意味のない文字の羅列を叫んでみるとか、フリスクとかガムを持ってるなら口に入れて薬で頭がおかしくなった人を演じるとか、何でもいいです。とにかく、相手をビビらせる、暴力以外の方法で。これがナンパを撃退する極意です。これだけ覚えて帰ってくれればいいです。

 おっとと、もっと解説をしたいのはやまやまなのですが、お時間となりましたので、今日はここまで!それから残念なお知らせなのですが、全三回の放送と申しましたが、大人の事情により今回が最初で最後となります。理由につきましては、当番組公式ツイッターから飛べる公式サイトに載っている公式アンケートに公式的に載っておりますので、興味のある方は是非!それでは皆さんさよーならー^^》



 一通りの動画の編集を終え、出来を確認する。いいんじゃないか。これなら学芸祭のコンテスト作品として披露しても恥ずかしくない。みんなの演技もナレーションもかなり仕上がってる。

 眠い目をこすりながら時計を見ると深夜3時。今から寝たら明日起きれなそうだ。徹夜を決意したのはいいものの、正直暇だ。

 こういう一人きりの静かな夜には無性に毒煙を上げたくなる。今日はもう一本だけ煙草を吸おう。ベランダに出ると街を見下ろせる。毎日坂を上ってでも高台に住んでよかったと思えるのはこういうひと時があるからだ。学芸祭のコンテストまであと三日、はやる気持ちと期待をこめて、火をつける。夜はまだまだ長そうだ。

煙草とか吸ったことないし、吸う気もないけどなんかかっこいいよね。

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