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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕と猫

作者: お化け屋敷

 我が家には猫が住み着いている。

 猫は、僕が物心ついたときには既に家に住み着いていた。


 祖母は「ミケ」と言ってかわいがっていた。祖母は僕が就職浪人になっても、「農家でもすりゃええ」と励ましてくれた、優しい人だった。そして一番猫をかわいがっていた。

 その祖母は、今年の夏に猫を抱きかかえたまま縁側で眠るようにして亡くなった。


 僕の父と母は、猫を「シロ」と言っていた。母は猫が嫌いだった。そして父は母に嫌われるのを恐れてか、猫を家から追い出す係だった。だから両親は猫に嫌われていた。

 祖母が無くなった後、「仕事に通うのが不便な実家が嫌だ」と、両親は山奥の実家から、地方都市の中心部にできた高層マンションに、引っ越していった。

 父は僕に「一緒に住もう」と言ってくれたが、僕は実家が好きだったので、両親と離れて暮らすことにした。

 そして両親の引っ越したマンションだが、両親が入居してから直ぐに火事を起こして、燃えてしまった。両親は、火事に巻き込まれ亡くなってしまった。


 僕の家には親戚は無い。つまり、僕は天涯孤独となってしまったのだ。僕に残されたのは、両親の残してくれたお金と、山奥にある古びた実家、そして黒い(・・)猫だけだった。


 僕は猫を「クロ」と呼んで。小さな頃は、違った名前を呼んでいた気がするが、その時の名前は思い出せない。だから今は猫の名前はクロなのだ。


 クロが何時から実家に住み着いたか、なぜ祖母と両親は、黒猫を「ミケ」や「シロ」と呼んでいたかなど、知りたいことが多かったが、その答えを聞く前に家族は全員亡くなってしまった。


 天涯孤独となった僕だが、元から人付き合いは余り得意じゃ無かった。子供時代の友人とはとっくに疎遠となっていたし、大学自体には友人と呼べる人も少なかった。

 山の中の一軒家なので、ご近所も付き合いも無い。山奥の実家はスマートフォンの電波すらなかなか届かないので、数少ない友人とメールやSNSでのやり取りすらほとんどできなかった…いやしなかった。

 つまり、僕は一人で暮らすことが苦にならないタイプだったのだ。だから僕は、家族が残してくれた預金を削りながら、家の前の畑で野菜を作り、半分自給自足のスローライフで暮らしていくようになった。


「クロ、今日は狩りに失敗したのか?」


 クロは飼い猫では無いので、基本的に餌は与えていない。クロは、実家に住み着いているが、自分で狩りをして生きていた。只、実家は山奥なので、冬は雪のためクロは狩りができない。だから冬だけクロは飼い猫となる。

 クロは冬の間餌を貰っていることのお礼なのか、時々狩った得物を玄関に置いていく。


 僕が小学生の間、クロはバッタを玄関に置いていった。


 僕が中学生になった頃、クロはネズミや蛙を置いていくようになった。多分、この行為が母の気に障ったのだろう、クロは母に叱られて、家を追い出された。

 母に叱られたクロは、暫くは狩りで仕留めた得物を玄関に放置しなくなった。その代わり祖母や僕に、直接狩りの成果を見せに来るようになった。


 僕が高校生になった時には、クロは雀や鳩、キジを見せに来るようになった。クロとしては狩りの成果を揉めて欲しかったのだろうが、高校生だった僕は、クロに「見せに来なくていいよ」と言ってしまった。それからクロは狩りの成果を見せに来なくなってしまった。生前の祖母の話では、僕が東京の大学に通っている間、クロは祖母にも得物を見せに来なかった。


 そして、僕が天涯孤独となってから、クロは再び狩りの獲物を置いていくようになった。まるで、自分が僕を養ってやると言わんばかりに、毎日玄関に狩りの獲物が置かれていた。

 置かれている狩りの獲物だが、最初はキジだった。そして次の日は、猪が置かれていた。その次の日は、鹿が玄関に置かれていた。

 そして今日僕が玄関を開けると、そこには僕の身長ほどの大きさのツキノワグマが横たわっていた。


「そう言えば、TVで最近この辺りで熊が出るって言ってたな」


 喉を割かれて死んでいる熊を見て、僕はそう呟いた。

 熊の前に、クロは自慢げに座っていた。


「クロ、僕は君が狩った獣は食べないよ」


 僕がそう言って聞かせると、クロは項垂れた様子で山に入っていった。


 次の日から、クロは獣を持ってくることはしなくなった。その代わり、時々山でクロが熊や猪、鹿が話をする様になった。


 僕には猫や獣の言葉は分からないが、クロは山の獣たちのボスに、そして山の獣たちはクロの子分となった様に感じた。


 ★☆★☆


 その年の冬、実家の周りは雪が降り積もり、道も雪に埋もれてしまい、外出が困難な状況になってしまった。勿論クロは雪が降ると実家にやって来て、囲炉裏の前で寛ぐようになってしまった。冬の間の飼い猫クロの誕生であった。


 実家は雪が積もると、下界と隔絶されてしまう。両親が生きていた時は、除雪車が道を空けてくれたが、僕しか居なくなってしまったので、除雪車が来なくなってしまった。だから僕は冬の間、クロと一緒に雪に埋もれた実家で暮らすことに決めた。野菜は雪の下に残っており、米も調味料もある。薪も十分な量を準備してあるので、僕が春まで生きて行くには困らなかった。


「クロ、一緒にTVでも見よう」


 簡単な夕食を終えると、僕はクロを抱きかかえて、唯一の情報源ともいえるTVを付けた。電波状況が悪いのでスマフォはほとんど役に立たない。TVだけは、アンテナが山の上にあるので見ることが可能だった。


『大変です、突然巨大な怪獣が東京湾から出現しました』


 TVを付けると、怪獣映画をやっていた。


「年末だからって、こんな古い怪獣映画をやるなよ」


 別なチャンネルに切り替えると、そのチャンネルでも『大変です、突然巨大な怪獣が東京湾から出現しました』とアナウンサーが喋っていた。


「えっ、本物の怪獣?」


 僕は驚いてTVに釘付けになった。何しろ本物の怪獣が暴れ回っているのだ、TV局も命を賭けて報道していた。怪獣は、防衛隊の戦闘機や戦車の攻撃を物ともせず破壊の限りを尽くしていた。次第にTVには台風の予測進路のように、怪獣の予想進路が表示されル様になった。


「クロ、怪獣の予想進路が正解なら、このままだと明日にはこの家の辺りまであの怪獣がやって来るぞ」


 東京湾から僕の家の間には日本有数の山脈がそびえていた。台風ですら、その山脈を乗り越えられずいるのに、怪獣が山脈を越えてくるとは僕には信じられなかった。


 次第に吹雪が酷くなり、TVは映らなくなってしまった。どうやら途中でアンテナの線が切れてしまったようだ。明日明るくなるまで、外に出て修理することは不可能だ。


「うーん、本当にあの山を越えて怪獣はやって来るのかな?クロは、どう思う?」


「にゃっ?」


 クロは僕の問いかけに、「何を困っているの」って感じで鳴いた。


「TVに映っている怪獣が、こっちに向かってくるらしいんだ。防衛隊も怪獣を倒せないみたいだし、このままだとこの家が壊されちゃうかもしれないんだ…って、僕は猫に何を言っているんだろうね」


 僕はクロに向かって話しているうちに、「馬鹿な事をしている」と思ってしまった。


「どうせ雪のせいで、ここから逃げることはできない。それに怪獣もこの大雪じゃやってこれないだろう。TVも見れなくなったし、さっさと寝てしまおう」


 僕はクロを抱きかかえて布団に潜り込んだ。


「明日は吹雪がやんでくれると嬉しいな」


 僕はクロを抱きかかえて眠りについた。


 深夜、巨大な怪獣の声を聞いたような気がするが、僕が目覚める事は無かった。


 ★☆★☆


 次の日は、冬の日本海側としては珍しく快晴であった。昨日の吹雪のお陰で家は雪に埋まってしまったので、今日は除雪して家を掘り起こさなければならない。


「クロ?」


 僕と一緒に寝ていたはずのクロは、布団から消えていた。この豪雪の中、クロが外に出たとは思え無かったが、僕は玄関を開けた。


「えっ?」


 玄関を開けると、玄関の前だけ雪が消えており、目の前には昨日TVに映っていた怪獣の顔があった。どうやら怪獣は僕の家の前に寝っ転がっている様だった。玄関から周囲を見渡すと、怪獣が何かとと戦った様な跡が残っていた。。


「怪獣くん、どうして君はそこに寝てるんだ?」


 余りにも非常識な光景に、僕は恐怖心が消えていた。そして、人の言葉など理解するはずも無い怪獣に質問してしまった。


「ギャオ」


 怪獣は僕の声で目を覚ますと、返事と思われる鳴き声をだした。その鳴き声で、実家の屋根の雪が吹き飛び、僕は玄関に押し戻されてしまった。

 そこでようやく僕は自分が危険な状態にいる事を認識した。このまま怪獣が暴れ出せば、僕は家ごと叩き潰されてしまうだろう。だから僕は逃げだそうと考えた。


「シャーッ」


 僕が玄関から飛び出そうとした時、怪獣との間にクロが飛び込んで来た。クロは怪獣を威嚇するように毛を逆立てた鳴いた。


「ギャ、ギャオン」


 怪獣は、クロの剣幕に驚いたのか、慌てて跳ね起きた。その怪獣の動きで、目の前の山に雪崩が発生した。このままでは僕の家は雪崩で潰されてしまう。


「ニャーッ」


 クロが鳴き声で怪獣に命令(・・)すると、怪獣は雪崩から僕の家を守ってくれた。


「ウニャー」


 雪崩から家を助けてくれた怪獣は、クロの命令で、山間を流れる渓谷に降りて、そのまま立ち去っていった。


「クロ、お前は一体何をやったんだ?」


「ナーン」


 僕の問いかけにクロは、「頑張ったから褒めて」という風に頭を足に擦り付けてきた。


「クロは、あれを子分にしたのか?」


 クロの頭と喉を撫でながら、僕はそう聞いた。勿論クロから返事が来るとは思っていなかった。


「ニャ」


 しかし、クロは「当然でしょ」という感じで鳴いて返事を返した。


「…クロ、子分にする子は良く選んでくれ」


 僕はそう言ってクロを抱きかかえると、家の中に戻った。


お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。

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