お泊まり
今日は親がいないということで、美穂ちゃんのうちにお泊まりだ。
美穂ちゃんの家は大きくも小さくもない一軒家でここで虐待が行われるなんて想像できない。
「おじゃましまーす」
中に入ると自分の家とは違う匂いに少し落ち着く。
人の家の匂いは結構好きだ。
「私の部屋2階だから」
少し急な茶色の階段を上がると、細長い廊下に扉が4つ付いていた。
美穂ちゃんは左側にある一番手前の扉を開けると、ペタペタとその中に入っていき私も後につづく。
部屋はあまり女の子みたいな感じはせず、ものが少なく、本がたくさん入った大きな本棚だけが存在感を主張していた。その中でも、半分以上が岩波文庫だ。
「もう、先にお風呂に入っちゃおうか。」
「そうだね」
私たちは変わりばんこにお風呂に入った。
お風呂から上がった美穂ちゃんはうさぎがプリントされた半袖のTシャツに、下は紺色のジャージを履いていて、長い髪からはうっすらとシャンプーの香りが漂ってくる。
美穂ちゃんはすっぴんでも美人だ。一つ一つのパーツが整っていて、綺麗に配置されている。私は自分の一重瞼も嫌いではないが、美穂ちゃんみたいな切長の二重瞼もいいなって思う時がある。
「なに?」
ずっと見ていると、美穂ちゃんがこちらを不思議そうに見つめ、私は慌てて本棚の方に目を逸らした。
そこで、私は本棚の一番下にある一つの本が目に入った。
その本は『自殺の方法』と書かれていた
「あっ、それは自殺した人の体験談や、楽な自殺の方法が書いてあるの。知ってた?一番楽な自殺方法は首吊りなんだって。サスペンスドラマとかだと絞殺される時って苦しそうだけど、首吊りなら上から首が引っ張られるから、角度的に一瞬で意識を失えるらしいんだよ」
美穂ちゃんは目をキラキラさせながら、嬉しそうに早口で喋った。
美穂ちゃんは私と喋ってる時はいつも明るいのだが、たまにとても不安になる時がある。初めて会った時もリスカしてたし、こうやって自殺の方法を調べたり。まるで、別にいつ死んでもいいと思ってるような。
「死なないでね」
私は美穂ちゃんの手をギュッと握ると
「死ぬときは、さつきも誘うから安心して」
と美穂ちゃんもギュッと握り返してきた