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万年筆

作者: 赤笠

 思い立ったアイディアを書き出そうと万年筆を手に取る。鉛筆を持つ者を児童、シャープペンを持つ者を生徒若しくは学生、ボールペンを持つ者を社会人と呼ぶ世の中、面倒で高そうな万年筆などと言う骨董品をわざわざ手に取る。

 実際、鉛筆やシャープペンの様に消すことが出来ず、ボールペンの様に手間いらずに非ず、平均的に手間もコストもかかりその上不便極まりない道具であるが、それで私は万年筆を手に取る。

 缶のペン立てに立った、無骨なステンレスのボディに黄金に輝く真鍮のクリップ、特徴的な菱形のペン先を持つ万年筆、SHEAFFERタルガ(恐らく1980年代にアメリカで作られた物と考えられる)をあえて選んで手に取る。

 ノック式ボールペンと比べ、ぱっと書き出せない様な嵌合式のキャップを外し、近くのネタ帳兼日記兼メモ帳のツバメノートを引っ張る。すると、紙面に触れたペン先はまるでアイススケートの如く踊り出す。uniのジェットストリームボールペンと比べても尚滑らかな滑り心地。あまりに滑りが良過ぎて丁寧な字を書くのが困難な程の暴力的な書き味、これが私の脳みそと紙面を刹那のラグも無く繋ぎ、一つも取り残し無くアイディアを出力してくれる。

 消す事の出来ないのでやや空間を開け気味に、後で書き足し・挿入が出来るように幅を取りながら万年筆(タルガ)を踊らしてゆく。一仕切り書きたい事を書き終われば文字を見返す。そうすると、ややくすんだ青のインクは字の書くテンポを濃淡で示し、一部は赤みがかった顔(レッドフラッシュ)を見せてくれる。その字が如何に下手で、走り書きで、大きさがバラバラであろうが、そこには味のある字となってくれている。シャープペンで書かれていれば変に字が潰れ、薄くて読み辛く、グチャグチャな字で、ボールペンで書いていれば汚く、細部の線の酷さが目立ち、無駄に大仰なトメハネが目に付く様な字であろうがである。

 書き出した分を確認すると、今度は過去に書いた文字が気になって来る。インクの煮詰まり加減、濃淡の出方、今日の字と比べてどうだろうかと見返し、ふと過去の自分の文から物事を思い出したり、過去のアイディアの続きが思いつく。

 万年筆で書く事は書くと言う行為を楽しくする。楽しい事は習慣や新たな発見を生み出す種である。

 だから、私は万年筆を手に取る。

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