9.王子たちのお茶会会議(王子視点あり)
〜第二王子視点〜
憂鬱な気持ちを隠しながら父上の前へ出る。
「お久しぶりです、国王陛下」
頭を下げて挨拶をする。
「ふん、顔を上げずに聞け」
本来ならここで面をあげろと言われ、顔を見せながら話を聞くはずなのだが。父上は僕の顔が嫌いなのでわざと顔を上げさせない。
「……何かの間違いじゃないのかと思ったが。お前に、ノルマンディ家の次男から会食の誘いが来ている」
……?……?…………!?
《会食》
父上の口から出たのは僕には聞きなれない言葉で、しばらく固まった。
僕に、会食のお誘い。
ノルマンディ家というと、美形ばかりの家だった様な気がする。家庭教師の質は悪かったけど、本を読むのが好きだったからなんとなくは知っている。
だけど次男となると、社交界でも全く顔を見せていない人物だったはず。そんな人が何故僕に?
「誘いは勿論受けるだろう?お前ごときが断ってノルマンディ家に恥をかかせるつもりか?」
父上のその言葉でハッとした。色々と考えていたが全て僕には関係の無いことだ。相手が誰であろうと断る権利すら無いのだから。
僕が誘いを断ってしまうと、醜い第二王子にすら誘いを受けてもらえなかったとして、ノルマンディ家には恥と映るだろう。
「……分かりました。誘いをお受けすると伝えてください」
「うむ。さあ、これで用は済んだ。はやく下がってくれ、顔は見せずにな」
そう言われた僕は顔を見せないように下を向いたまま、国王陛下の謁見の間を後にした。
そして先程までいた部屋に戻ると。
「あ、兄様が帰ってきたけど」
第十王子であるアイザックがそう言うと、部屋にいた王子たちがいっせいにこちらを見た。
「兄上兄上!父上は何の用だったんだ!?」
ずずいっと顔を近付けて聞いてくるレオナルド。
「レオナルド、顔が近い。」
「あ!!ごめん兄上!」
顔が近いと言うと素直に離れてくれるところは可愛いよなぁと思う。
「俺も気になります。兄上は何を言われたんですか?」
「あ、アレクサンダーまで……。実は、ノルマンディ家の次男から会食の誘いが僕に来てたらしくて、会食……することになった」
そう言うと弟たちは目をこれでもかと見開いて、
「「「えぇぇぇぇ!?!」」」
と大声で叫んだ。
「こらお前たち。うるさいぞ。」
父上に聞こえていたら怒られそうなので、軽く注意を入れておく。
「ご、ごめんなさい。でも兄さん、会食の誘いなんて、初めてじゃないですか」
いつも穏やかなマシューでも流石に今回は驚いている様だ。マシューの言う通り、会食は顔を隠すことが出来ないから今まで誘ってくる人はいなかった。
「兄者に誘いなんて、我は嬉しいぞ……!」
ブラッドリーは自分のことの様に喜んでくれている。というか兄者って……、ブラッドリーは昔から、古代文明とかに憧れる節がある。
おそらく歴史書にあった、ジャポンという国のニンジャという者の真似だろう。
「ブラッドリー。喜ぶことじゃない。どう考えたって裏があるに決まってる。」
アレクサンダーの言うことはもっともだ。普通の神経をしていたら僕に近付こうだなんて思わないだろう。
「そうだな、……金目当てかな」
思い当たったことを言ってみると、会食がものすごく虚しいもののように感じた。
「金目当てなら放っておけばいいのでは?どうせ顔を見たら金なんていらないから帰してくれーってなりますよ。向こうが誘ったクセにね、」
流石オリヴァー。そんな意見をスラスラと述べる弟に、僕よりも頭いいんじゃないか?なんてことを考える。実際オリヴァーは僕たちよりも世渡り上手だ。似た顔をしているのに。
「それもそうだな。どうせいつもの様に、醜い王子をからかいたいだけだろう。」
僕がそう言うと、この話は終わりになった。
いつもと何も変わらない日々に安堵し、一口飲んだ紅茶は甘い香りがして、ほっと息をついたのだった。