27.第七王子の劣等感(王子視点)
〜第七王子視点〜
「〜♪」
機嫌よくアルバートの腕に抱き着いて歩く僕………オリヴァー・エゼルウェルド。どうしてこんなことになったかと言うと_________
それは今日、あのアルバート・ノルマンディが僕に会いに来たことから始まった。いつもは1週間に数回程度しか来ない城の図書館。でもここ最近の僕は、毎日のように通っていた。
そして、柄にもなくアルバート・ノルマンディがいつ来るのかとそわそわしながら本を読むのだ。
今日もいつも通り本を読んでいると、いきなりアルバート・ノルマンディが顔を覗き込みながら話しかけてきた。しかも花束を持っていた。
花束を持ったアルバート・ノルマンディは、それはそれは王子様のように格好良くて、まるで白馬の王子様が迎えに来てくれたのかと思った。あ、僕は別にそんなの憧れてないけどな!
聞いたらこれは僕に渡す花束だったらしい。少し気があるのかと期待してしまったけど、花は黄色だし御礼だった。当たり前だけど。
アルバート・ノルマンディは、前に僕に案内の続きをしてもらう約束をしたから来てくれたらしい。まさか本当に会いに来るなんてな。まぁ、それならと思ってとりあえず、騎士団の訓練場を案内してやった。あんなに美形だと模擬戦なんて見慣れていないからだろうけど、すごく楽しそうだった。
模擬戦はとても緊迫した様子で始まったが、相手の騎士が兄上に斬りかかることによって均衡は絶たれた。
とは言っても、僕は兄上の剣技はこれでもかというほど見慣れている。今はそれよりも、隣にいるアルバート・ノルマンディを見つめたい気持ちでいっぱいだった。
やっぱりすごい美形だ。なんで僕たち兄弟に関わるのか分からないほどに。主張の少ない顔立ちに、細いけれどがっしりとした体格、低くて色気のある声。どれを取っても、今まで見たことないくらい格好良かった。
僕1人に構っている暇なんてないんだろうな。兄上たちはみんな何かの才を持っているけど、僕には何も無いし。今だって恐らく、兄上の剣技に見惚れているのだろう。
『凄かったな……剣技は美しかったし、一般騎士にも慕われていて尊敬するよ。』
僕の目の前でこんなことを言うのだから。
悔しい、兄上たちに勝てない自分が恨めしい。
でも僕には自信なんて無いし、劣等感だって消えない。
「………そうですね。それなら、兄上のところに行って、話してきたらどうですか?きっと僕と話しているより楽しいと思いますよ。」
耐えきれなくなった僕は、得意の作り笑顔でこう言い、その場から逃げてしまった。
_____________
『オリヴァー!』
僕たちが2日前に別れた長い廊下を進んだ奥…、
廊下の行き止まりの人目のない場所まで僕はひたすらに走った。やっぱり、と言えばそうだけど、アルバートさんは追いかけてきていた。
アルバートさんに声をかけられるけれど、顔を合わせられない。あんな風に言いたいことだけ言って逃げたことが気まずい。
ただ、その代わりとでもいうように、ぽつりぽつりと話し始めた。
「なんで追ってきたんですか…、兄上のことをあんなに気に入っていたのに。」
僕の目の前で兄上を褒めちぎって、
『お前が悲しそうな顔をしてたから…。レオナルドは関係ないだろう?』
なのにそんなことを言うのか。
勢いよく振り返ったと共に、ぶわっと顔が赤くなる感覚がした。とうとう感情を抑えきれなくなった僕は、思っていたことをぶちまけた。
「兄上は、僕と違って優秀なんです…!だから、貴方が僕より兄上を好きになるのだって当然のこと…、なのに、…こんな、醜い……嫉妬なんて、」
「お前のせいでめちゃくちゃなんだ…!こんな感情、一生知らずに生きていくと思ってたのに…!!」
そう、嫉妬。くだらない嫉妬だったんだ。僕はきっと人一倍劣等感が強くて、才能もなくて、誰からも認めてもらえなくて。
せっかく仲良くなれたアルバートが、兄上に惹かれて、離れていくことが怖かったのかもしれない。だって僕は、アルバートが好きだから。
………………でも、もう嫌われたか。こんなに汚くて醜い感情、僕自身も見てられない。
ああ、駄目だ。涙が。泣くな、これ以上面倒くさいと思われるのだけは嫌だ。
そうやって僕が下を向いて我慢していると、ふわりとあたたかな温もりに包まれた。
初めは何が起こったか分からなかったけど、数秒後にぎょっとして腕の中でじたばたし始めた。
「なっ、いきなり何するんだ…!!やめろってば!………っ〜〜〜!離せ………!!」
なんとか離れようとアルバートの胸板を叩いてみるが、ビクともしない。体格差のせいか。同情ならやめてほしい。
そう考えていると耳元に顔が近付いてくる気配がした。吐息がかかったことに驚いて、びくりと肩が跳ねた。だけど、そんなこともお構い無しに、アルバートは話しかけてきた。
『オリヴァー……よく聞け。お前はレオナルドにも負けないくらい素敵で、優秀で、大切だ。だからもう、そんなこと言うな……』
アルバートは、ゆっくり、語りかけるようにそう言った。僕はその言葉がずっと胸の中を支配して少し息苦しかった。
そんな言葉を聞いてしまえば、もう我慢できなくて。
抵抗するのは止めて、アルバートの胸に顔を埋めた。アルバートの匂いに、少し落ち着いた。
『オリヴァー…分かったか?俺はお前が大切だから、もう____』
「わ、分かった!分かったから、もう、なにも言うな………」
もう1度言おうとしたアルバート。聞こえてなかった訳じゃないのに。というか、よくこんな恥ずかしいこと2回も言えるよな。僕、いま絶対赤くなってるだろ……泣き止んだのは良かったけど。
しばらくして、言いたいことはまとまった。だけど離れるかタイミングが掴めずに(離れるのが名残惜しかったのもあるが)そのままじっとしていたら……アルバートはそっと僕を離して、じっと僕の目を見つめた。
それに決心がついた僕は、アルバートの腕に抱き着きながら言った。
「…もうあんなこと言わない。それと、本人がそう言うなら、もう僕は遠慮しないからな…!」
そうだ。本人が僕のこと大切だって言ってるんだぞ?僕が自信を持たなくてどうするんだよ!
『…っオリヴァー!?』
「…なんだよ、僕のこと大切なんだろ。僕は嫉妬深くてめんどくさいからな!それでもいいのかよ」
ぷくっと頬を膨らませて僕は言う。
本当は誰かに甘えたかった、ワガママを聞いて欲しかった。
『不安になるなら何度でも言ってやる。そういう所も全部ひっくるめてオリヴァーのことが大切なんだ。』
アルバートは本当に、僕の欲しいものを全部くれる。僕は嬉しくなって、より力を込めてアルバートの腕に抱きついて言った。
「…それなら、僕の人生めちゃくちゃにした責任とれよな!」
僕は満更でもなさそうなアルバートと、廊下を歩いていくのだった。




