17.王子と雑談する
長らく更新せずに申し訳ありません。
作者の都合になるのですが、学期末のテストがありまして更新できませんでした。久しぶりの投稿にはなりますが良ければ読んでいってください。
歩き始めて少しした頃、無言に耐えきれなくなった俺が口を開く。
『オリヴァー殿下は、よく図書館に来られるのですか?』
ありきたりな質問だが、醜いと言われている王子が王城を歩くことは大変なことではないか?
「ああ、そうですね。とくに本を読むわけでは無いのですが、まぁ……人脈作りのために。」
『人脈作り……ですか。』
貴族とのパイプを作ってるってことか?へぇ、すごいな。意識高い系王族じゃん。
『それは素晴らしい、貴族間では大事ですからね。』
尊敬の念を込めてニコリと微笑む。
するとオリヴァー殿下が少し顔を下げて、
「そんなことはありませんよ。……私はこの顔ですし、人脈を作るには自分から話しかけるしかありませんから。王子であっても、何の意味もありません。肩書きよりも醜さが勝ってしまう。」
儚げな顔でそう言った。
そうだよな。この世界は美醜至上主義みたいなところがあるし、王子相手であっても失礼な態度をとる人が多い。階級や肩書きの意味も無くなってしまう。オリヴァー殿下もやっぱり苦労してきたみたいだ。
『……じゃあもしかして、……失礼な言い方ですが、私の案内を申し出たのも貴族に恩を売るためですか?』
そう言うとオリヴァー殿下は目を見開いて、2、3回ぱちぱちと瞬きをした。おそらくここまでストレートに聞いてくる人はいなかったのだろう。
そして顔に苦笑いを浮かべ、肯定した。
「はは、恥ずかしながらその通りです。貴方はノルマンディ家の方ですから……。」
うちってそんなに重要な家なのか??知らなかったんだけど。
そんな俺の気持ちを見透かしたようにオリヴァー殿下は続きを話し始める。
「ノルマンディ家は美形が多く、王にまで進言できるほどの身分です。ですが、美形が多い家だからこそ、私のような醜い者はお嫌いだと思っていました。」
『あぁ……父上や母上は嫌いとまでは言いませんが、苦手ではあると思いますよ。実際のところ平気なのは私だけですから。』
俺は大丈夫ですアピールをしておく。そう簡単にはいかないだろうが、この人なら受け入れてくれる感を出しておこう。
「ぇ……」
小さく声がしたと思うと、驚いた顔をしたオリヴァー殿下がバッと自分の口を塞いだ。そして息を落ち着かせたあとゆっくりと手を解いた。
「私のような顔が、平気……なのですか?」
怪訝そうな表情でそう尋ねてくるオリヴァー殿下に、俺は出来る限りの優しい顔で答えた。
『ええ。……オリヴァー殿下のお顔も、好ましく思いますよ。』
俺がそう言うと、歩いていたオリヴァー殿下が立ち止まり、焦ったようにザッと後ろに下がった。その顔は少し赤いようにも見える。
「ぁ、ありがとう、ございます……その、お世辞、でも、嬉しい……です?」
なんで疑問形?
そう思ったのが顔に出ていたのか、王子は目線を下げてぼそぼそと付け足す。
「そういうこと……を、あまり言われ慣れていないので、どう返せばいいか分からなくて、……すみません……。」
オリヴァー殿下、か、可愛いな……。
『いえ、私の方こそ。でも思っていることは本心ですよ。』
先程まで顔を赤くして下を向いていた王子がいきなりハッと顔を上げて、声を荒らげて俺に言った。
「っ、ろ、廊下の真ん中でそんな事を言うと、王子を口説いていると思われますよ!そんな噂がたったら……嫌でしょう?」
『いえ、私は別に構いませんけど?』
俺が間髪入れずに答えると、オリヴァー殿下はピシッと固まった。
「え、い、良いんですか……?私なんかと……こ、恋人だとか、言われても……」
いやそんな噂、俺が嬉しいだけなんだよな。
『ええ。どちらかと言うと、そんな噂が立てば私が殿下に迷惑をかけてしまうのでは?』
だって王子だぞ?俺みたいなのと関係があるなんてそれこそ社交界で笑いもんだわ!
「いや、それはないですよ……そ、そんなに美形なんですから、自慢こそ出来ても迷惑だなんて」
そ、そうか、今の俺って美青年なんだった……。じゃあもしオリヴァー殿下のパートナーとして社交界に出たりしたら、オリヴァー殿下はいつも見下してきてる奴らにマウントとれるってことか。
前世でも誰の彼女が1番かわいいかとかあったしな……。美醜至上主義の世界だし美形のパートナー連れてる奴が最強ってことだろ。
『はは、ありがとうございます。オリヴァー殿下にそんなことを言っていただけるなら、この顔も悪くはありませんね。』
当たり障りない返事で好感度を上げていきたい。やっぱりスマートな男は格好良いからな。
「そんな、貴方の顔を見れば誰だって思います。誰でも言ってくれると思いますよ………………私じゃなくても。」
ああ……まぁそれはそうだろうな。けどなんとも思ってないおじさんとかに言われても……。
『他の誰でもないオリヴァー殿下に言われたから嬉しいんですよ。』
うん。これが素直な気持ちだな。
王子は(俺から見た)美形だし、そんな人に褒めてもらえると、やっぱり嬉しいよな。
「…………そ、そう、ですか」
王子はそれっきり黙り込んでしまった。……ガツガツいきすぎたか?うおぉ……引かれてたらどうしよう……。
「あの、案内をすると言っておきながら話し込んでしまって申し訳ありません」
申し訳なさそうに王子が言う。あ、そういえばそんな話してたな。もう夕方?……案内とか完全に忘れてた。
『はは、少し話しすぎましたね。そうですね……また来るので、その時に案内してくれますか?』
さりげなく次の約束を取り付ける。
基本的に第二王子の時みたいにしないと王子には会えないから、今日会えたチャンスを逃すわけにはいかない。
「ま、また会っていただけるのですか……。なら次来られた時には、必ず案内しますね。」
うんうん、次が楽しみだなぁ。あ、そうだ。そういえば言いたいことがあったんだった。
俺は去り際にオリヴァー殿下の耳元でこう言った。
『……次会うときは、ぜひ貴方の素を見せてくださいね。』
バッとオリヴァー殿下が驚いた顔でこっちを見る。なんでバレたとでも言いたそうな顔をしているが、今回は何も言わないでおく。
『では私はこれで。』
放心状態の王子を置いて王城を出る。案内がなかったとは言え、通った道を覚えておいて正解だったな。あれはうちの馬車だろう。
俺は馬車に乗り込んで家に帰った。