10.王子とご対面
それから数日たった会食の日________
よし、とうとうこの日がやってきたぞ。
第二王子の、アンドリュー・エゼルウェルド様と会食をする日だ。
今日の俺は気合いが入っている。あんなにも綺麗な人と顔を見合わせるなら、少しでも見た目に気を使わないとな。一応正装をして、髪を整える。少しだけ薄く化粧をして(肌に粉をはたいたり、目にラインを引いたりした)準備は完了だ。
鏡の前に立つと、やっぱり俺には薄顔の男にしか見えなかったが、使用人たちやエドがすごく格好いいと言ってくれたのでそう思うことにする。
ガタ……
俺は王城に向かう馬車で、どきどきと緊張しながらその時を待っていた。
そして、馬車の音がなくなったと思うと、前にいる使用人から「つきました」と声がした。
そろりと馬車から足を下ろすと、目の前には俺の家の3倍はある大きな城が。とにかくでかい。
そしてそこから下に目線を移動させると、俺を迎えてくれようとしていたのだろう、数人の身なりのよさそうな使用人とそれを束ねる執事長のような男が見えた。
「え、あ、貴方がアルバート・ノルマンディ様でございますか……!?」
かなりどもっている。それに顔も赤い。もしかして俺の顔を見て?ああ、醜い王子に会食を申し込むなんて、俺の顔も醜いんじゃないかと思っていたわけだ。
なるほど、残念だったな。俺は上流貴族の中でも見ないほどの美形だ。(母さん談)
『ああ、そうだ。案内してもらえるか』
「も、勿論でございます!」
そう言うと執事長は俺を城に入れ、長い廊下を歩いていき、1つの部屋の前で止まった。ディナー室に行くのかと思ったが、もっと小さめの個室の様だ。
コンコン
「……アンドリュー殿下、アルバート・ノルマンディ様をお連れいたしました」
執事長は感情のない声でそう言う。本当に仕事だから仕方なくって感じだな。
「入れ」
一言だけだったが、とても綺麗な声だと思った。資料室で見たあの顔にぴったりだ。
「……では、お入りください。私はこれで」
え、えぇ?ここで失礼しちゃうのか?俺に1人で入らせるのか?まぁ顔を見たくないからなんだろうけどそれは無くないか?
ま、まぁいいか。邪魔者がいなくなったと考えよう。王子と2人きり……ん?良いのか、仮にも一国の王子と個室で2人きりなんて。
暗殺とかされたらどうするんだ。俺はしないけどな!!もしかすると王は王子たちのことをすごく虐げてるんじゃないか?
と考えをまとめた所で、ずっと待たせる訳にもいかないので、キィ…と扉を開けて入る。
「失礼致します」
……!サファイアのように美しい髪の色と、空に広がる夜のように深いラピスラズリの瞳。長い睫毛を瞬かせ、こちらを向くその仕草。
………………綺麗だ。それ以外に褒める言葉が出てこないくらいに。
相手も俺の顔をじっと見つめている。そんな空間に酔いしれて、いつまでも見つめ合う2人。しかしそんな空間が長く続くはずもなく。
ハッと意識を戻した俺は、挨拶もしていないことに気付き、青ざめながらも
「お初にお目にかかります。ノルマンディ家次男、アルバート・ノルマンディと申します。」
と挨拶をした。
「……っ、アンドリュー・エゼルウェルドだ。……公の場ではないし、そんなに固くならなくてもいい」
挨拶をしていなかったことに怒るかと思ったが、意外と気にしないらしい。そもそも公の場に出ることがあまり無いのかもしれない。
挨拶を終えた俺たちは、椅子に腰を下ろした。