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短編

5000兆太郎

作者: 相浦アキラ

 昔々……

 あるところにおじいさんとおばあさんがいました。

 二人はセックスをしました。

 そしておばあさんは妊娠して無事に出産しました。ちなみに無痛分娩でした。

 産まれたのは玉のようにかわいい男の子でした。


 初めての子供に舞い上がっていたおじいさんとおばあさんは「5000兆年生きて欲しい」「5000兆光年くらい大きくなって欲しい」という願いを込めて男の子に「5000兆太郎」と名付けました。


 名付けてしまいました。


 そう……名付けてしまったのです。


 5000兆太郎は「おめえ名前通りマジに5000兆光年くらいデカくなる気か?」ってくらい、バクバクと何でも食べてしまいます。その胃袋はさながらブラックホールのようでした。

 始めこそ喜んでいたおじいさんとおばあさんですが、やがて普通にドン引きするようになりました。


 やがて5000兆太郎の暴飲暴食っぷりに、おじいさんとおばあさんの僅かな蓄えはすぐに底をついてしまいました。


「ごめんよ……5000兆太郎……もうお金が無いからご飯を食べさせてやれないんだよ……」


 涙目で謝るおばあさんに、5000兆太郎はブチ切れました。


「てめーら勝手に産んどいて食わせる飯がねーってのはどういう了見だ?」


 5000兆太郎は目につく物を手当たり次第に食べていきました。


「5000兆太郎や……壁を食べるのはやめておくれ……」


「5000兆太郎……床を食べるのはやめておくれ……」


「うるせーんだよ!」


 おじいさんとおばあさんが注意しても、5000兆太郎は聞く耳を持ちません。


 やがて5000兆太郎はコンクリート打ち放ちの壁も、板状断熱材も、生垣のイヌマキも……全て食べ尽くしてしまいました。

 こうしておじいさんとおばあさんの家は跡形もなく消えてしまいました。


 そしてついに……残されたおじいさんとおばあさんも5000兆太郎に食べられてしまいました。

 それでも5000兆太郎の食欲は留まるところを知りませんでした。


「腹が減ったなああああああああああ」


 5000兆太郎は公園の丘を平らげました。

 それでも5000兆太郎はお腹がすいていました。


 5000兆太郎は山を平らげました。

 それでも5000兆太郎はお腹がすいていました。


 仕方ないので5000兆太郎は自分の町を食べました。人口5万人程の急行駅がある閑静なベッドタウンは、5000兆太郎に食べ尽くされて大きなクレーターになってしまいました。

 そして5000兆太郎の町があった鹿児島県も、九州沖縄も、四国も、本州も、北海道も、日本全土が5000兆太郎に食べられてしまいました。

 かつて日本があった三日月型の大穴に、日本海側と太平洋側から滝のように海水が注いでくる様は、まるでモーセの海割りみたいでした。

 そして日本海は無くなって太平洋になってしまいました。


 5000兆太郎が太平洋にぷかぷかと浮かびながら海水を吸い込んで大渦を作っていると、妙な殺気がしてきました。

 第七艦隊の仇を討たんと意気込む第五艦隊と第三艦隊でした。

 哨戒ヘリという名の蝿を大きな指でつまんですり潰し、海水に浸して踊り食いした5000兆太郎へと、トムキャットと爆装ホーネットがひし形編隊を組んでやってきました。


「うるせえなあ……そんなに俺に喰われてえか」


 5000兆太郎は海水を吹いて蚊蜻蛉を全て打ち落としました。

 続けて5000兆太郎が本気で海水を吸い込むと、原子力空母とステルス駆逐艦の群れも全て5000兆太郎の胃袋に流れ込み、一瞬で消化されてしまいました。

 それでも5000兆太郎はお腹がすいていました。


「腹が減ったなああああああああああ」


 太平洋を粗方飲み干した5000兆太郎は、時折地殻を抉って食べながらも、ズシズシとかつて海底だった大地を揺らしながらユーラシア大陸を目指しました。


 その間も無数の核ミサイルがしし座流星群のように5000兆太郎へと降り注ぎます。

 

「これで攻撃してるつもりなのか?」


 5000兆太郎は全く痛くはありませんでしたが、それでも攻撃されるのは舐められてるみたいで腹が立ちました。

 ミサイルの弾道から発射基地を特定し、優先的に破壊していきます。


 するとミサイルの雨はすぐに止まりました。


 やがて……ユーラシア大陸は全て5000兆太郎の餌食となりました。

 続けて5000兆太郎はオーストラリア大陸、南極大陸、北極の氷山へとその食指を伸ばしていきます。


 アフリカ大陸、南アメリカ大陸も食べ尽くし、残るは北アメリカ大陸です。


 5000兆太郎は北上を開始しました。

 米軍は通常兵器も大量破壊兵器もクソミソにして、ヤケクソで5000兆太郎へと投げつけました。

 それでも5000兆太郎は止まりません。


 そして大統領が作ったばかりのメキシコ国境の壁も、ロッキー山脈も、自由の女神も、ラシュモア山にある大統領の彫像も、ハリウッドのあの看板も……全て5000兆太郎に咀嚼され、胃袋へと流し込まれました。


 ……こうして人類は滅亡しました。

 いや……これは議論の余地があるかも知れません。

 5000兆太郎を人類にカウントした場合、人類は滅亡したとは言えないからです。

 まあとりあえず確定しているのは、「5000兆太郎を人類にカウントしないなら、人類は完全に滅亡した」という事です。


「腹が減ったなああああああああああ」


 それでも5000兆太郎はお腹がすいていました。


 5000兆太郎は平らになったアメリカ大陸に爪を立てて、大きく抉りました。

 すると真っ赤なマントルが噴き出てきました。

 5000兆太郎はゆで方が足りなかったゆで卵の黄身を啜るように、マントルをチューチューと吸って行きます。


 地殻を食べ尽くし、マントルを吸いつくすと、ついに地球は無くなってしまいました。

 おのずと5000兆太郎は宇宙空間に放り出されていました。


 肥大化した5000兆太郎の重力に引かれて、月と人工衛星がでたらめな公転をしています。

 それらに手を伸ばして一瞬で平らげると、5000兆太郎は宇宙空間を泳いで一度太陽系の外側に行きました。

 惑星を食べる為です。


 まず……5000兆太郎は冥王星を食べました。

 冥王星は惑星ではなくなってしまいましたが、5000兆太郎は細かいことは気にしませんでした。


 海王星、天王星、土星、木星、火星、金星、水星と食べて行きます。

 そしてついに真っ白に輝く太陽です。


 ドラ〇ンボールのOPみたいに迸ってくる太陽フレアを口で受け止めて食べながら、5000兆太郎は太陽に辿り着きました。

 ちなみに私は個人的にブ〇編が好きです。ブ〇編でしっかり綺麗に終わっているのがドラゴンボールのいい所だと思います。


 ……ごめんなさい話が逸れましたね。

 そうやって私の話が逸れている間にも、5000兆太郎は太陽を食べていました。

 太陽はガスで出来ているので、食べるというより吸い込む感じで5000兆太郎は太陽を胃袋に流し込んで行きました。

 そして10秒くらいで5000兆太郎は太陽を平らげてしまいました。

 ……こうして太陽系は完全に滅亡しました。

 

「腹が減ったなああああああああああ」


 ヘリウムを食べた影響で5000兆太郎の声は「お前……声ヤベえだろ! 今なら『もの〇け姫』原キーで歌えんじゃね?」ってくらい上ずっていました。


 それからも5000兆太郎は目につく天体を片っ端から食べて行きました。

 銀河系も、名前知らない星雲も、ダークマターも、天の川も食べ尽くしました。

 

 やがて宇宙空間にあんなに瞬いていた無数の星が全て無くなってしまった頃、


「あああ……腹いっぱいだ……もう喰いきれねえ」


 ようやく5000兆太郎は満腹になりました。

 5000兆太郎は宇宙そのものを食べ尽くし、その名の通り全長5000兆光年にまで成長していたのです。

 1光年というのは光の速度で1年間進んだ距離の事です。

 だから5000兆光年というのは、光の速度で5000兆光年進んだ距離の事です。

 そのくらいアホかってくらいヤバいデカさまで5000兆太郎は成長してしまったのでした。


 ……そして5000兆太郎は安らかな眠りにつきました。


 5000兆太郎はその名の通り、きっと5000兆歳まで生きることでしょう。

 5000兆太郎が5000兆歳になった時、宇宙が終わってしまうのか。

 それとも新しい宇宙が始まるのか。


 それは誰にも分かりません。



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