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六股令嬢の二番煎じは全力で辞退したい

六股令嬢の二番煎じは全力で辞退したい

作者: 小枝

乙女ゲームものを書いてみたくなったのですが、なんだか斜め方向へいったように感じます。

ドッキドキの初投稿です。

 私の名はリリアン=シャーウッド。

 シャーウッド伯爵家の長女に生まれた。上には兄が二人、下には弟妹が一人ずついる。

 領地は農耕と牧畜を主産業としており、有り体に言えば田舎なんだけど、緑豊かな土地で私は好き。



 そこで私は九歳までのびのびと暮らしていた。変化が起きたのは十歳の誕生日。


 突然王都の教会から司祭様がやってきて、私が「浄化の乙女」だという御告げがあった、ついては王都の教会で適性を確かめた後に浄化の術を学んでもらう、と告げたのだ。


 驚いた。そりゃあもう、家族全員とても驚いたわね。

 でも同時に、「そういうことか」とも思ったの。

 何故かと言うと、物心ついた頃から私には何となく具合の悪い人が分かったから。そして私が具合の悪い箇所に手を当てるか相手と手を繋ぐかして「痛いの痛いの飛んでいけ」と言うと、皆不思議と「痛みが和らいだ」とか「身体が温まってきた」とか言ってくれたから。

 でもそれって、言い方は悪いけれど気休めみたいなモノかな〜って思ってた。

 だって皆様、こんな経験は無い?転んでしまって泣きそうになったときに、お母様が「痛いの痛いの飛んで行け〜!さあ、もう大丈夫よ」って言ってくれたら、不思議と痛みが気にならなくなる、なんてこと。

 でも、どうやら気休めではなかったらしい。なんてこった。


 それから一週間後には、王都に向けて馬車で旅立った。領地の幼年学校の友人達とちゃんとお別れができたのは幸いだった。

 それでも私はまだ暢気に構えていた。収穫期や羊の毛刈りの季節には帰郷できるかな〜、(おお)兄さまも王立学園の長期休暇には帰ってくるものね、なんて。



 ―――結論から言うと、甘かったわ。



 教会に着いたらまず浄化能力の適性を調べられた。まあ大方の予想通り適性有りだったので、浄化術を学ぶことになった。

 なったんだけど、浄化術っていうのは教会の秘術みたいな扱いらしく、半ば強制的に私もシスター見習いにさせられてしまった。

 ちなみにシスターであっても婚姻を結ぶことは可能だし、将来的に還俗しても構わない、とのことだったので、まあそれなら…とお父様も許可してくださった。

 私自身、結婚の何たるかはよく分かっていなかったけれど、花嫁姿に淡い憧れはあったから、少しホッとしたのを覚えている。


 それで、浄化術に加えて教会の教義だの御作法だのを学ばされ。幼年学校の課程も途中だったから、その内容も。

 そうしたら、五年間全く帰郷できなかった。収穫期や毛刈りの季節どころか、新年の祝いでさえ!


 救いだったのは、家族との面会は可能だったこと。

 王都の学園に通われていた大兄さまは休日によく顔を出してくれたし、お父様も王都に来る機会があれば必ず教会に立ち寄ってくださった。

 領地の暮らしは恋しかったけれど、離れていても家族が心を寄せてくれたから頑張れたのだと今でも思う。




 *****




 そして十五歳になった今年。私が王都に来る切っ掛けとなった御告げを受けられた大司教様が、私にこう仰った。



「次の春に王立学園に入学し、然るべき浄化を行いなさい」


「………は?」



 何それ。やけにフワッとした指示なのね。「然るべき」って何なの、「然るべき」って。

 でもそれが神様の御告げなんですって。

 カミサマカミサマ、蒙昧(もうまい)な地上の民には、もっと具体的な指示が欲しいですー。


 でも学園に通えるのは嬉しかった。大兄さまが卒業した、そして今は(ちい)兄さまが通っている学園に憧れていたから。




 *****




 そして迎えた春。


 神様の御告げがあったくらいだから、学園の門をくぐるまでは「瘴気が渦巻くような恐ろしいことになってるのではないか」とヒヤヒヤしていたけれど、そんなことはなくて拍子抜けした。

 ただ、時折妙な甘い香りが微かにするときがあって、なんとなく苦手だな、とは思ったけれど。でも長い教会暮らしで年頃の令嬢らしい化粧品やら香水やらとは無縁だったから、そんなものかな〜なんて思っていた。


 でも御告げにあった「然るべき浄化」が全く分からない。

 お目付役…もといサポート役として一緒に入学した、大司教様の甥である助祭のドミニクに相談したけれど、彼も見当がつかないと言う。うーん、困った。

 大司教様は「神はこのためにお前を『浄化の乙女』としてお選び給うたのだ」なんて仰っていたけれど、このままでは何もできそうにない。




 ―――しかしそれは杞憂だった。


 入学から僅か一週間後、私はとんでもない事態に遭遇してしまった。




 *****




 晴れた日の昼休みの中庭で、私はドミニクとお互いが得た情報を交換していた。



「第一学年校舎は大体見て周ったけど、特に瘴気や邪気は感じなかったな」


「昨日は裏庭を見てみたけど、特に何も…あ、野良猫が仔猫を産んだみたいで、可愛かったよ」


「それは関係ないよな?そして後で何処か教えろよ」




「リリー?リリーじゃないか」



 突然掛けられた声に顔を上げると、そこには小兄さまがいた。

 小兄さまの姿を見た私は、思わず目を見開いた。



「小兄さ、ま……!?」



 何だ。何なんだ。

 小兄さまに何かねっとりしたものが纏わり付いている。

 そのねっとりした「何か」は、学園内で時折漂う甘い香りを放っていた。



「何だよ、その顔は。久々の再会だというのに、つれないなぁ」



 小兄さまがおどけて肩をすくめたけれど、なんて返したらいいのか分からない。分からないけれど、とにかくこれは良くないモノだ!



「(ねぇドミニク、『アレ』…見える?)」


「(見えません…が、何となく嫌な気配がします)」



 ドミニクが敬語になったのは、私を「リリアン」ではなく「浄化の乙女」として接している証。それ即ちお仕事モードだ。

 私の脳内では危険信号が鳴り響いていた。きっとドミニクも同じはず。



(とにかく、早く浄化しなきゃ!)



 私は小兄さまを浄化するべく手を取ろうとしたけれど、小兄さまの背後から近付いてきた集団に気付き、私の手は中途半端に浮いたままとなった。



(ねっとりの集団が近寄ってくる…!?)




 集団の先頭に立つ、見事なまでのプラチナ・ブロンドの背の高い男子生徒が、小兄さまに声を掛けた。



「ダスティン、そちらの御令嬢は?」


「殿下。私の妹のリリアンですよ」


「ああ、前に話していたな。今年入学する妹御がいると」



 小兄さまに声を掛けたのは、どうやら王族であるらしい。

 何で王族があんなねっとりしたモノを纏っているの!



「リリアン、第一王子であらせられるオズワルド殿下だ。御挨拶しなさい」


「しゃ、シャーウッド伯爵長女のリリアン=シャーウッドと申します。第一王子殿下におかれましては、御機嫌麗しゅう」


「やあ、そんなに畏まらなくていいよ。学園の中なんだしね。第一王子のオズワルド=ユージーン=エドワーズだ。よろしく、リリアン嬢」



 久々のカーテシー、そして王族への挨拶に緊張する私に、そう言って気さくに笑いかけたオズワルド殿下。

 親近感を抱かせるような笑顔なんだけど……例のねっとりが全てを台無しにする!


 そして殿下を囲むように立つ、同じく「ねっとり」を纏わり付かせた男子学生の皆様は、それぞれ宰相様の御子息、騎士団長様の御子息、大手商会を営む子爵家の御子息、とんでもないことに副司教様の御子息もいらっしゃった。おいおい…。ドミニクも絶句していた。



「まあ〜、貴女ダスティーの妹さんなんだねぇ。言われてみれば、瞳の色がおんなじだぁ〜」



 ねっとり集団の背後から、間延びした甘ったるい声が響いた。

 背の高い彼等の隙間からぴょこんと飛び出すストロベリー・ブロンド。小柄で真ん丸な瞳が愛らしい少女だ。

 ふと気付けば、ねっとり集団が「愛しくて堪らない!」って表情で彼女を見つめていた。それこそねっとりと。



「あの、小兄さま…こちらの方は…?」


「あっ、自己紹介してなかったね!私、シャーロット=ホフマン。ダスティー達と同学年だから、貴女の一つ先輩だよぉ。学園生活で分からないことがあれば、何でも聞いてねぇ〜」


 ホフマン家って…確か男爵家だっけ?

 第一王子を筆頭に有力貴族家の御子息を侍らせてるから、てっきり高位貴族家の御令嬢、ややもすれば留学中の他国の王族かと思ったよ!




「リリアンちゃんと仲良くなりたいなぁ。よろしくねぇ〜」



 そう言ってシャーロット嬢は両手で私の手を取った。




(―――!?!?!?)



 得体の知れないモノが全身を舐め回している。

 そうとしか表現できない悪寒が駆け巡った。

 制服が長袖でよかった、そんなことを思った。一瞬で鳥肌が立ったから。



 そして―――立ち(のぼ)る、むせ返るような甘い香り!


 あの甘い香りは、そして「ねっとり」の元凶は、この人だ!



(ヤバいヤバいヤバい!どうしたらいいの!?)



 硬直した私に、シャーロット嬢は不思議そうに小首を傾げる。そして私の背後に視線を移した。



「そっちの人はぁ?リリアンちゃんのお友達?」



 今度はドミニクに目を付けられた!

 ちらっとドミニクに視線をやれば、何かを耐えるような、何かに抗っているような、そんな表情で硬直している。



「あの…か、彼、は……」







「オズワルド殿下、そして皆様方、御機嫌よう」



 突如、私の背後から堂々とした女性の声が割って入った。

 振り向けば、収穫期の麦畑を思わせる鮮やかなブロンドヘアーの御令嬢がいた。



「…やあ、エミリア」



 先程の人懐こい笑顔は何処へやら、苦々しげな表情で(いら)えたオズワルド殿下。塩対応にも程があるわね。

 すると、ブロンドヘアーの御令嬢…エミリア嬢から、焦げ付くようなチリッとした気配を感じた。シャーロット嬢の「ねっとり」とはまた別物の、嫌な気配。



「そちらの方々は新入生ですか?ぜひ御挨拶させてくださいませ」


「ああ〜っ、エミリア様!今リリアンちゃん達は私とお話ししてたんですよぉ〜!」


「貴女には聞いていなくてよ、シャーロットさん」



(あ…煙が燻るような気配が増していく…)



 オズワルド殿下が苛つきを滲ませた声で許可を出した。



「…構わん。それが済んだらさっさと立ち去れ」


「有り難うございます、オズワルド殿下」



 彼女はオズワルド殿下から私達へ向き合い、優雅なカーテシーを披露した。



「ルービンスタイン公爵が長女、エミリア=ルービンスタインですわ。どうぞお見知り置きを」



 ルービンスタイン公爵と言ったら、この国でも指折りの上位貴族じゃないの!

 慌てて私も返礼をした。



「御丁寧な挨拶、痛み入ります。新入生の、リリアン=シャーウッドと申します。こちらの、ダスティン=シャーウッドの妹です。よろしくお願いします、ルービンスタイン様」


「新入生のドミニク=セガールと申します。よろしくお願いします、ルービンスタイン様」


「まあ、こちらこそ『御丁寧に』有り難うございますわ。どうぞ、家名ではなくエミリアとお呼びになってね」



 そう言って微笑む姿は淑女の鑑のようだ。でも「御丁寧に」って強調されたけど、私が何か気に障ることでも言ったのかな……いや、どうやらシャーロット嬢への当て擦りみたいだ。シャーロット嬢がむくれてるもの。



「エミリア様ったら、酷いっ…私は、堅苦しいのは抜きにして、皆と仲良くしたいだけなのにっ…」



 そう言って緩く握った拳を胸元に引き寄せ、目を潤ませたシャーロット嬢。うん、どこからどう見てもあざとい。


 すると面白い程にねっとり集団がオロオロし、そしてエミリア様を睨みつけた。汚らわしいものを見るような…蛇蝎でも見つけたような…親の仇と出会ったような…とにかく貴族子息が貴族令嬢に向ける類のものではない。ただの同級生としてもありえない。



(何なの、この異様な光景は…)



 小兄さまが私を庇うように一歩前に踏み出した。



「エミリア嬢、私の妹にまで、シャーリーのように難癖をつけるつもりか」


「とんでもない。妹君へは、私が何かをお教えする必要は無いようにお見受けします」



 ということは、シャーロット嬢へはある訳ね。



「エミリア様ったら、そんな言い方しなくても…私がまだ貴族のルールに馴染めないからって…」


「馴染めていないようなので、何度も教えているのですよ、シャーロットさん」



 エミリア様がシャーロット嬢へ向き直った。

 と同時に、焦げ臭い気配の正体が分かった。エミリア様から黒いもやのようなモノが立ち(のぼ)っていた。



「いくら学園内における生徒間の立場は平等であると謳っていても、最低限の礼儀やマナーは弁えてください。婚約者がいる男性と無闇に親しくしてはなりませんよ」



 そういえば、ここにいるねっとり集団はどれも名家の御子息揃いだ。婚約者がいても全くおかしくない。

 小兄さまも少し前に婚約が決まったと聞いている。



「ハッ、己が殿下の寵愛を受けられないからといって嫉妬か!見苦しい!」



 誰かが発した一言で、エミリア様が纏う黒いもやが一気に噴出した。これ、本当にヤバいやつ!今すぐ浄化しないといけないヤツ!邪悪なものに乗っ取られるから!


 しかし、エミリア様は耐えられた。瞼を閉じ、奥歯を噛み締め、そしてフーッと長い息を吐かれた。黒いもやは勢いを弱めた。

 ―――なんて凄まじい精神力だろう。



「…オズワルド殿下。御自分の御立場、そして周囲への影響を、今一度御考えください。皆様方も、もう少し御自分の婚約者と真摯に向き合ってくださいませ」


「…エミリア、挨拶が済んだなら疾く立ち去れ。そう言っただろう」



 絞り出すようなエミリア様の言葉もオズワルド殿下には響かなかったようで、殿下はエミリア様に退場を促した。



「…そうでしたわね。失礼いたします」



 それでも気丈に、背筋を伸ばして優雅に一礼し、エミリア様は行ってしまわれた。





「…君達、嫌なものを見せて済まなかったね」



 オズワルド殿下が困ったように眉を下げて笑った。

 いやー…「嫌なもの」には違いなかったけれど…。


 背景を知らない私でも、なんとなーく分かる。「嫌なものを見せて済まなかった」なんて、殿下が言っていい台詞ではない。



「…私、やっぱり皆と一緒にいたらいけないのかなぁ…」



 泣き出しそうな声でシャーロット嬢が呟くと、すぐさまねっとり集団が「そんなことはない」と口を揃えた。



「でも…オズや皆に迷惑かけちゃうんじゃ…」



 ―――第一王子殿下すら愛称呼びしてるの!?


 目を白黒させる私とドミニクを尻目に、ねっとり集団は口々に「迷惑なんかじゃない」だの「僕が君といたいんだ」だの、思い思いの言葉で慰め始めた。

「本当に…?」とシャーロット嬢が問えば、今度は「本当だとも!」とユニゾンした。



「誰が何と言おうとも、君は胸を張ってありのままの自分でいればいい。私達が君を何者からも守るから」



 オズワルド殿下が真摯な表情でシャーロット嬢を見つめた。

 言っていることは格好いいんだけど…けどなぁ…。



「オズ…皆…。嬉しい!皆、ありがとうっ」



 涙のカケラを一粒目尻に浮かばせ、満面の笑みを浮かべたシャーロット嬢。

 と同時に、甘い香りが強く湧き立つ。ねっとりがより濃厚になり、殿下や御令息方にますます強く絡みついた。


 ―――気持ち悪くて堪らない。





 どうしたらいいのか分からないまま硬直していると、午後の授業の予鈴が鳴り響いた。天の救けだ!



「もうこんな時間か。二人共、学園生活を楽しんでくれ。さあ行こうか、皆」



 優等生の微笑みで、オズワルド殿下は私達に背を向け、シャーロット嬢及びねっとり集団が随伴した。


 と、小兄さまが振り返り、私の耳元で囁いた。



「(リリー、もう浄化の力は使えるようになったのか?)」


「(小兄さま?)」



 小兄さまは、この異様さに気付いていたの!?

 惑わされているフリをしていただけだったのね!?



「(是非ともエミリア嬢を浄化してやってほしい。あの捩じくれた心根を、シャーリーのように美しくしてほしいんだ)」



 違ったー!!!頭の中、春のお花畑かー!!!



「頼んだぞ」と私の肩に手を乗せて、小兄さまは殿下たちの後を追って行った。




 彼等の姿が見えなくなったところで、私は腰を抜かしてしまった。

 ドミニクに救護室へ運んでもらったところで、彼も立ち上がれなくなってしまい、二人共、陽に当たり過ぎて気分が悪くなったということにして、午後の授業は休んでしまった。



「小兄さま…一体どうしたら…」


「俺は…大司教様に何て言えばいいのか、わっかんねーよ…」




 *****




 それから一週間かけて、私とドミニクはオズワルド殿下及びその周辺に関わる噂を集めた。

 そこから客観的事実を抽出すると、以下のようになった。




・元々、オズワルド殿下はエミリア様と婚約していた。


・シャーロット嬢は男爵の私生児であり、母親が亡くなったことで男爵家に引き取られた。その時、学園入学の3ヶ月前。


・シャーロット嬢が転びそうになったのをオズワルド殿下が助けたのがきっかけで知り合い、徐々に親交を深めていった。


・オズワルド殿下のみならず、将来の側近である御学友の面々も、シャーロット嬢に深く傾倒しているようである。


・「ねっとり集団」は、シャーロット嬢と親交を深めると同時に、それぞれの婚約者を疎むようになった。


・一部で、エミリア様を中心とした「ねっとり集団」の婚約者達がシャーロット嬢を虐めている、という噂があるが、真偽の程は定かではない。





「…シャーロット嬢は、魅了の術を使ってるんじゃないかと、私は思ってる。ドミニクはどう思う?」


「魅了の術については資料が少ないし、俺は気配しか感じ取れなかったから何とも言えんが…恐らくそうだと思う。アレはヤバいぞ」



 どれくらいヤバいかというと、「アレは悪いモノだ」と分かっていても頭がグラグラして引き込まれそうになると。

 だからあの時、何かに耐えるような表情をしてたんだ。ドミニク、本当に危なかったんじゃん!

 



「それと、エミリア様だな。アレは俺にも見えた」


「エミリア様の嫉妬心が邪気を引き寄せてる。それがますます嫉妬心を掻き立てる。悪魔の餌食になる前に祓わないと。いくらエミリア様の心が強くても、もう、本当にギリギリだと思うの」


「狂ってないのがおかしいくらいだぞ…」


「だよね…」



 でも、いくらエミリア様の邪気を浄化しても、オズワルド殿下がシャーロット嬢に魅了されている限り、嫉妬心が消えることはないだろう。

 魅了の術に捕らわれた六人を、一日も早く浄化しなければならない。




「…でも、どうやって…?」


「どうやるも何も、アレだろ。相手の手を握って、なんなら瞳を覗き、込ん、で……」


「そう!それを!どうしろっていうのよ!」



 私の浄化の術は、相手と手を繋がないと効果がない。その状態で瞳を覗き込むと、より効果が高まる。



「あれだけ深く術中にかかっていたら、私の力でも完全に浄化するには付きっ切りで三日はかかりそう。

 わざわざ禁術扱いの魅了の術を使って殿下方を侍らせているシャーロット嬢が、術の対象が他の女と手を繋いで見つめ合うのを一時間でも許すと思う?

 それに…」


「それに?」




「彼女が何て呼ばれてるか、ドミニクも聞いたでしょう!?

 『常識知らずの恥知らず』とか『六股女』とか『ヒロイン気取り』なら可愛い方で、『アバズレ』やら『商売女』やら、『今は六股、末は百股』だの、『◯◯◯(ピーッ)』とか『♪♪♪(うっふ〜ん)』とか『♨︎♨︎♨︎(バキューン)』とか!(※)


 今私が殿下方に近付いて手を握ろうとしたら、彼女の二番煎じ扱いされるのは間違いないじゃないのぉぉぉっ!!!」


※伏字処理済みです。




 私は頭を掻き毟った。ドミニクは哀れな生き物を見るような視線を私に向けた。



「嫌!私、そんなの嫌よ!」


「落ち着け、リリアン」


「何が浄化の乙女よ!端から見れば痴女真っしぐらじゃないの!」


「頑張れ、カミサマの思し召しだろ」


「そんなこと言うならドミニクが代わってよ!」


「やー……遠慮しとくわー」


「裏切り者ぉぉぉぉぉ!!!」




 神様なんていやしない。そうに違いない。

 でなきゃ何で「浄化の乙女」が驚異の六股御令嬢の真似をしなくちゃならないの。




「どうしたらいいのよぉぉぉ〜〜〜……」



 私の嘆きは、春の穏やかな青空に吸い込まれていった。神様の御許まで届いただろうか。




「…『然るべき浄化』ってヤツだな」




 私の嘆きに対する返答は、ドミニクの無情な一言だけだった。





リリアンの明日はどっちだ!?


最後までお読みいただき有り難うございました。

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