百合カップルを全力支援
宵子も明日華もきょとんとする。やがて宵子の方がおずおずと首を傾げてみせた。
「他言するつもりはないって……なんで……?」
「なんでってそりゃ……ふたりはこのこと、隠して置きたいんだろ」
「まあ……そうだけど」
宵子は少し視線を外し、ぽつりと言う。
伊織の予想通りだ。
教室では不仲を装っていたのも、わざわざこんなところでこっそりと会っていたのも、周囲に恋人だとバレたくなかったからだろう。何より百合作品ではよくある展開だから、伊織もピンときたのだ。
近年では同性愛者に対する理解が深まりつつある。しかしやはりまだ、そうした個性を持っているというただそれだけで、差別する者も多いのもまた事実で――。
ふたりが恋人であることを隠そうとするのにも頷ける。
そして、その関係をいたずらに壊す権利など、伊織はおろか世界中の誰にもないのだ。
「ふたりが秘密にしたいなら、俺もそれに従う。どうか信じてほしい」
「伊織くん……」
宵子はうろたえ、視線を彷徨わせる。伊織を信じるべきか迷っているのだろう。
「信じろ、って……そんなの無理に決まってるでしょ!」
悲鳴のような声を上げるのは明日華の方だった。
キッと目をつりあげて伊織をねめつける。
「あんただって、本当は気持ち悪いとか思ってるに違いないわ……! どうせ裏で馬鹿にするつもりなんでしょ! 女の子同士で恋人とか……おかしいとか言うんでしょ!」
「そんなことない」
その悲痛な叫び声に、伊織はゆっくりと首を横に振った。
そうした差別意識を抱く人間もいるだろう。だがしかし、伊織は違う。
「人が人を好きになることの、何がおかしいって言うんだよ。それは単なる恋愛に過ぎないだろ」
「なっ……」
明日華は目を丸くして言葉を失う。
「それってまさか、本気で言ってるの……?」
「もちろん」
おずおずとしたその問いかけに、伊織は堂々とうなずいた。明日華はそれで完全に勢いを失ってしまう。揺れる瞳で伊織を見つめるだけだ。
どうやら今のセリフがかなり心に刺さったらしい。
(まあこれ、合沢さんに渡した百合漫画のセリフなんだけどな!)
完全に、人の褌で相撲を取ってしまった。
しかしこれは伊織の本心だ。恋愛は自由。誰が誰と付き合っても責められるいわれはない。ただし浮気は除く。
その想いが伝わったのだろうか。黙り込んでいた宵子が、重いため息をこぼしてかぶりを振る。
「わかったわ。今のところは……伊織くん、あなたのことを信じましょう」
「よーちゃん!?」
「あ、ありがとう。宵子」
「ただし……」
ホッと胸をなでおろす伊織に、宵子は人差し指を突きつける。
「本当に秘密を守るつもりがあるのか、しばらくあなたの動向を監視させてもらうわ。かまわないわね?」
「もちろん。そもそもこれは覗き見した俺が悪いんだし……」
むしろ、その程度で許されていいのか自信がない。
しょげる伊織をよそに、明日華は慌てたように宵子の袖を引く。
「ちょっとちょっと、よーちゃん、いいの……? 早乙女くんを信じちゃっても」
「すこし不安はあるけど……この人のことは昔から知っているから大丈夫よ。人を貶めて喜ぶようなタイプじゃないわ」
「だからってそんな……は?」
不安げに眉を寄せていた明日華が、途端に真顔になった。そのままずいっと宵子に詰め寄って睨みを効かせ。
「昔から知ってるって、何? そういえばふたりとも下の名前で呼び合ってるけど、どういう関係なの?」
「えっと、平たくいえばお隣さんの幼馴染で……」
「はあ!? 何それズルい! あたしもよーちゃんの幼馴染になるし!」
「なりたくてなるようなものでもないと思うのだけど……」
「むううう……よーちゃんのケチ!」
「えっ、えっ!? わ、わかった。わかったわ。今日から明日華も幼馴染だから。ね?」
宵子はタジタジになりつつ、どうにかこうにか明日華の機嫌を治そうとする。
力関係は宵子の方が上と見せかけて、けっこう明日華にもしたたかな一面があるらしい。
「すごい……百合、尊い……」
男の自分がこの場にいることに大きな罪悪感を覚えつつも、伊織は目の前の光景をしっかり網膜に焼き付けたという。
続きは明日更新します。明日も複数回更新予定。
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