校舎裏で見たもの
転機はその日の放課後。
伊織がとぼとぼと、校舎の裏を歩いていたときのことだ。
「あーあ、災難だなあ……」
大きめの段ボールを抱えて、盛大なため息をこぼす。段ボールの中身は割れたデッサン人形だ。
六時間目が美術だったのだが、そのとき先生が誤って壊してしまった。その処分を頼まれて、ゴミ捨て場まで向かっている最中なのだ。
おまけに破片の片付けまで付き合わされて、すっかり日も暮れかけてしまっていた。校舎裏は日当たりも悪いし他の生徒の人影もないし、物寂しさがさらに伊織の足を重くする。
それもこれも、日直だったのが運の尽きだ。
「タイミングが悪いよなあ……でも、トータルで見ると、今日はいい日だったかも」
ため息をつきつつも、今日を振り返って結局ニヤニヤしてしまう。
なにしろあの合沢明日華と話ができたのだ。しかも伊織がイチオシの百合漫画を貸すことにも成功した。
これを機に仲良くなれるかもしれなくて……気が早いとわかっていても、バラ色の学園生活の妄想が止まらない。
「彼氏がいるって噂らしいけど、もしもワンチャンあったら……うん?」
角を曲がろうとしたところで、伊織はピタリと足を止める。
この先は日向になっているものの、面した教室はクラブでも使われないような特別教室だったり物置だったりする区画だ。
だからしんと静かなはずなのに――人の声がかすかに聞こえていた。
(あー、この辺人が来ないからたまにカップルがイチャついてるって話があったよなあ……)
物陰から様子を伺いつつ、伊織は渋い顔をする。
美少女同士のイチャイチャなら全力で応援するが、リア充男女カップルに出くわすなんて気まずいだけだ。
さすがに出て行く勇気はなく、引き返そうかと迷っていると――。
「んっ……」
かすかに艶っぽい声が聞こえてきて、伊織はビクリと凍りつく。
まぎれもない濡場だ。
童貞には刺激が強いものの……伊織は顔が真っ青になるのを感じだ。
(あ、合沢さん……!?)
今の声が、合沢明日華のものに思えてならなかったのだ。
大地がまことしやかに囁いていた『彼氏がいる』という噂が脳裏をよぎる。
(ま、まさか本当に……!?)
焦燥と不安がごちゃ混ぜになって、伊織は先ほどためらったのも忘れ、そっと物陰から声のする方を覗いてしまう。
そして、雷に打たれたような衝撃が伊織を襲った。
はたしてそこにいたのは合沢明日華、その人だった。
そして彼女を校舎の壁に押し付けて、唇を合わせていたのは――。
(………………宵子?)
明日華と犬猿の仲であるはずの、百瀬宵子だった。
本日はきりの良いところまで、あと三回更新予定です。
ブクマや評価、まことにありがとうございます!励みになりますので応援いただけると嬉しいです。





