エピローグ・百合に挟まる=死
その次の日。
ふんだんに日差しが入る、清潔感あふれる病室にて。
まっさらなベッドの上で伊織は遠い目をして言う。
「急性胃潰瘍で、二週間の入院だってさ……」
「な、なんかもう……」
「ごめんなさい……」
そんな伊織に、見舞いに来た宵子と明日華が小さくなって頭を下げた。
百合に挟まりたくない思いと、ふたりと付き合いたい欲求がせめぎあった結果、それがすさまじいストレスとなって伊織の胃を襲ったのである。
経緯を説明すると医者や両親にはドン引きされたし、姉には大爆笑された。
もう本当に散々だが……いっそもう、伊織は晴れ晴れとした思いだった。
「やっぱり俺には無理なんだよ……百合の間に挟まるなんてさ。これは百合の神様が下した罰なんだよ、うん」
「悟りを開いちゃってるわね、この人……」
「一周回って、さらに極まった感があるね……」
宵子と明日華は顔を見合わせて、ひそひそと言葉を交わす。
入院理由が理由のため、今日はずいぶん控えめだ。グイグイと伊織に迫るそぶりもない。
だから伊織はホッとして、準備しておいたセリフを口にする。
「そういうわけだ。俺はふたりと付き合えない。身が持たないからな」
「そのセリフをモテ自慢とかじゃなく、本当に体が持たない意味で使う人、たぶんなかなかいないよ……」
明日華が弱々しくツッコミを入れる。
ともあれ健康がかかっているとなれば、ふたりがこれ以上伊織に固執することもなくなるはずで――。
「……嫌よ」
「へ?」
ふと見れば、宵子はまっすぐ伊織の顔を見つめていた。その目は真剣そのものだ。
「無理矢理迫ったのは悪かったわ。でも、それで諦めたくないの。伊織くんだって、私たちのこと好きなんでしょ?」
「うっ……それは、その……」
伊織はそっと目を逸らす。
彼女らに好意を寄せていることは、さすがの伊織も自覚している。だがしかし、それを認めることはできなかった。たぶん、このままだと本当に死ぬ。
曖昧な苦笑を浮かべて、かぶりを振るだけだ。
「いやでも、俺も病院送りにはなりたくないし……ごめん」
「伊織くん……」
宵子は切なげに眉を寄せて、それっきり黙り込んでしまう。
伊織も胸が痛んだが、これ以外に道はない。彼女らのことはすっぱり諦めるしか――。
「あ、じゃあこうしようよ」
しかし、そこで明日華がぽんっと手を叩いてみせた。
「毎日少しずつ毒を飲んで毒の効かない体を作るっていうの、よく漫画であるじゃん。いおりんにもそうしたらいいんじゃない?」
「つまり……私たちの百合を毎日少しずつ接種させて……慣れさせるの?」
「そういうこと!」
「えっ……えっ?」
それはもう調教というやつではないのか。
戸惑う伊織にもかまわず、宵子と明日華はきゃっきゃとはしゃぐ。
「最初はやっぱり手を繋ぐところからよね。伊織くんを挟んで恋人つなぎ」
「そーそー! それからゆくゆくはファーストキスも……あっ、どっちが初めて貰っちゃおうか。じゃんけん?」
「私はどっちでもいいけど……ちゃんと伊織くんとした分だけ、私ともしてくれないと拗ねちゃうからね……?」
「当たり前じゃーん。あたしたちは平等にラブラブだよ♡」
宵子を抱き寄せて、明日華はすりすりと頬擦りする。しかしふと伊織のことを見て、明るく尋ねてくるのだった。
「あ、でもこういうのは本人の意思確認も大事だよね。いおりんはどう思う? ファーストキス、どっちとしたい?」
「だーかーらー……」
伊織は全身の震えを抑えきれなかった。万感の思いで、ここが病室であることも忘れて、叫ぶ。
「俺を百合で挟むんじゃねええええ!!」
それからふたりは言葉の通り、伊織にじわじわと百合を摂取させてくることになる。
手を繋いで歩くことを強要したり、縄で縛って自分たちのイチャイチャを見せつけたり。
おまけに加減を理解したのか、伊織が倒れるギリギリを狙って攻めてきたので――ある日伊織はふたりと手を繋いで帰ることにまったく違和感を覚えなくなっている自分に気付き、大いに絶望したという。
これにて完結です。さくっと読める中編を目指しました。
多くのブクマや評価、ご感想、まことにありがとうございました!
また変な話を書くと思いますので、その際はお暇つぶしになれば幸いです。
ふか田さめたろう





