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確かめたいこと

 ゲートをくぐるとすぐ、アーチ型の水槽が出迎えてくれた。薄明かりに照らされて色とりどりの魚たちが優雅に泳ぎ、雰囲気は抜群だ。

 

「わー! 綺麗だねー!」

「もう、はしゃぎすぎよ明日華」

 

 きゃっきゃと喜んで明日華は水槽に飛びついた。宵子も彼女に続いたので、ようやく伊織の両手が空く。

 

(今なら逃げられる……? いや、ダメだ。休み明けが怖い……)

 

 一期一会の相手ならまだしも、どちらも同じクラスの女子生徒だ。下手を打てば今以上にまずいアプローチが飛んでくるのは必至だろう。

 伊織はこのデートから逃げることなく、立ち向かわねばならない。

 

(となると、俺がやるべきことは……ふたりをイチャイチャさせるだけだ!)

 

 伊織のことなど忘れるほど、互いに夢中になってもらえればいい。

 ふたりはイチャイチャできて、伊織もそんなふたりが見れれば満足だ。みんな幸せで円満解決。これでいこう。むしろこれ以外のルートなどありえない。


 伊織は胸の前で拳をぎゅっと握る。

 そんな彼の決意など知るよしもなく、ふたりは水槽に顔を近付けてわいわいとはしゃいでいた。

 あちこちに人差し指を向けて喜ぶ明日華のことを、微笑ましそうに見守る宵子。まるで姉妹のような関係だが――。

 

「かわいいねー。ねえねえ、よーちゃんはどんなお魚が好き?」

「えっ、そうねえ……あそこのマンタとか可愛いと思うけど」

「そっかー、よーちゃんらしいねえ。あっ、ちょうどこっちに来てくれたよ。よーちゃんおいで。ここからのがよく見えるよ」

「あ、ありがとう。あっ、ハリセンボンも来た!」

 

 いつの間にか水槽にべったり張り付く方と、ニコニコ見守る方が入れ替わっていた。

 あまりに自然なポジション変えに、思わず伊織は目を丸くする。

 ふたりを邪魔しないように、こっそり明日華にだけ声をかけてみた。

 

「ひょっとして……明日華って兄弟がいたりする?」

「うん、妹がいるよー。でもなんで?」

「なんていうか、面倒見がいいからさ」

 

 宵子を見守る目は、完全に姉とか保護者のぬくもりだった。

 ちなみに宵子は一人っ子だ。伊織に姉がいることを、昔はよく羨ましがっていたのを覚えている。

 そう言うと、明日華はにっと笑みを深めて耳打ちする。

 

「よーちゃんはあたしのこと、大事にしてくれるでしょ。だからあたしもよーちゃんのこと、大事に大事に甘やかすの。よーちゃんはいつも気を張っててしっかりしてるけど、ほんとは甘えん坊さんなんだから」

「おお……いい関係だなあ」

 

 お互い支え合って助け合って、自然に寄り添う。

 百合カップルだけに限らず、いい恋人関係だと素直に思えた。

 感嘆の声をこぼすと、明日華は目を細めて得意げに胸を張る。

 

「むふふー、そうでしょそうでしょ。いおりんのことも特別に甘やかしてあげるよ?」

「それは遠慮しておきます」

「もう、素直じゃないんだから。よーちゃんもそういうところあるけどねー」

「宵子、なあ……」

 

 そこで伊織はさらに声をひそめて宵子の様子をうかがう。

 今も水槽に夢中で、こちらの様子など気に求めていないようだった。その隙に、ずっと気になっていたことを尋ねてみる。

 

「宵子が俺のことを好きだった、って……あれ、本当なのか?」

「うん、そーみたいだよ?」

 

 明日華はやけにあっさりと打ち明ける。

 そんなに軽く言ってもいいのかと伊織が不安になるくらいだった。

 しかし明日華はうーんと唸って首をひねる。


「でもなんか分かんないけど、一度は諦めちゃったんだって。いおりん何かしたの?」

「いや……たしかに中学に上がるくらいから距離ができたけど。まったく心あたりがないな……」

 

 こうしてデートに誘うくらいなのだから、今の好意は本物だろう。

 だが一度諦めたというのが非常に気にかかる。


(えええ……何かやったかなあ、俺。気付いたら宵子がよそよそしくなってたことしか覚えてないんだけど……)

 

 思春期だし、そういうこともあるだろうと納得していたのだが……いったい何があったというのか。

 うんうん悩む伊織の肩をぽんっと叩き、明日華は明るく言う。

 

「まあでも、よーちゃんがいおりんを諦めたおかげで、あたしと付き合うことになったんだし? いわば恋のキューピッド様だよねー。マジでありがとね、いおりん!」

「な、なるほど……俺が過去に何かやらかしたおかげで百合カップルがこの世に生まれたのか……! 過去の俺、グッジョブ!」

「いおりんのそういうブレないところ好きだよー」

 

 明日華はからからと笑う。

 そんな折、館内にアナウンスが響き渡った。

 イルカショーの開始が近いことを告げる内容で、宵子がハッと顔を上げる。

 

「あっ、ごめんなさい。もうこんな時間ね。イルカショーに早く行きましょう」

「うんっ。さ、行こうね、いおりん♪」

「だから俺を挟むなっての……」

 

 また左右を挟まれて、伊織は渋々連行される。

 帰りたい思いは変わらないが……宵子の方をちらっと見てしまう。

 

「? なによ」

「いや、別に……」

 

 怪訝そうな顔をされて伊織はサッと視線を逸らすが、内心少しドキドキしていた。

  

(ほんとに、俺のことを好きだったのか……)

続きは明日更新します。明日更新分の三話でいったんの区切りとします。

ニッチな話ではありますが、最後までお付き合いいただければ幸いです!

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やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにグイグイいく
連載中のラブコメです。本作と同じ学校が舞台。
― 新着の感想 ―
[良い点] よかムードでデート進行中 でも宵子を気にしすぎはだめなんじゃないかとw [一言] ハリセンボンは普段膨らんでないからな~w さあ イルカショーでずぶ濡れになるがいいw
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