百合が目の前でイチャイチャする
家が隣同士なので、疎遠になってからも私服を見かける機会は何度もあった。だがこんなにおめかしした姿を見るのは初めてで。
ぼんやり見惚れてしまう伊織に何を思ったか、宵子は不安げに眉を寄せてみせる。
「ど、どうかしら……変じゃない?」
「えっ!? そ、そんなことないよ。すっごくかわいい!」
「へ」
おもわず本音をぶちまけると、宵子は一瞬目を丸くした。しかしすぐにしゅるしゅると顔を赤くして、俯き加減にぽつりと言う。
「…………あ、ありがとう」
「ねーねー、いおりん。よーちゃんはもちろん可愛いとしてあたしはどう?」
「も、もちろん、かわいいと思います……」
「やったねー! よーちゃんとおそろい!」
「きゃっ……! あ、明日華ったら、もう……」
明日華は宵子に飛びついて、きゃっきゃと無邪気にはしゃぐのだった。
そんな仲睦まじいふたりを前にして、伊織はこぶしをぎゅっと握りしめて静かに打ち震えるしかない。
もはや『帰る』という選択肢はかなり劣勢となっていた。
(こ、こんな可愛い子……しかもふたりとデートできるなんて男の夢では……!?)
どちらもめいっぱいおめかししているのが一目で分かるし、しかもそれは間違いなく伊織のためだ。待ち合わせ時間よりずっと早く来てくれたのだって、デートを楽しみにしてくれたからだろう。
(ふたりを放って帰るなんて、俺はなんてバカな真似をしようとして――)
なんて考えていると、明日華が宵子の髪を撫でてふんわりと笑う。
「それよりよーちゃん、このリボンって前にあたしがあげたやつ?」
「あら、よくわかったわね」
宵子も笑みを深めて、明日華の腰回りをそっと撫でる。
「明日華もそのスカートも、私と出掛けたときに買ったものよね」
「うん! だってよーちゃんに選んでもらった一着だもん。勝負服ってやつだよね」
「ふふ、私も一緒よ。明日華にもらったものだから、特別な今日付けなくちゃって思ったの」
ふたりはくすくすと笑い合う。傍目から見るとただの仲良しの女友達だ。
だがしかし伊織くらいの至近距離ならば、彼女らが互いを見つめる瞳には色濃いハートマークが浮かんでいることに気付かされただろう。
「んふふー……よーちゃん、だーい好き」
「私も好きよ、明日華」
ふたりは雑踏に紛れるほどの小声でそう囁き、互いの小指をそっと絡ませた。
そこには溢れんばかりの愛情が込められていて――ふたりは小さくうなずくと同時、ぱっと分かれて伊織の右腕と左腕にそれぞれ飛びついた。
「そういうわけだから行きましょうか、伊織くん」
「今日はあたしたちとたくさんデートしよーね♡」
「やっぱり俺、帰っていいですかねえ……!?」
第三者の目から見れば両手に花、しかし伊織からしてみれば百合の間に挟まる地獄のポジショニングだった。
伊織は全力で抵抗するのだが、さすがは息ぴったりのラブラブ百合カップル。がっちり容赦のない拘束はどれだけもがいても抜け出せなくて。
結局引きずられるようにして、百合の間に挟まるデートが幕を開けることとなった。





