百合に挟まるお試し期間
そんなふたりのやり取りを見て、伊織はぽかんとするしかない。
(は……? 宵子は、昔から俺を好きだった……ってこと?)
どれだけ鈍感なラノベ主人公でも、今の会話の流れならそれくらい余裕で気付けてしまうだろう。
(それで一度は諦めたって……なんで!? 俺、自分で言うのもなんだけど浮いた話のひとつもこれまでなかったのに!?)
彼女ができた試しもなければ、特定の女子といい感じになった試しもない。初恋といえば……まあ、それも結局実らず今に至る。
つまり宵子が仮に昔から伊織のことを好きだったとしても『諦める』理由がまったくわからなかった。
愛想を尽かしたとか、急に嫌いになったのなら『諦める』なんて言葉は使わないだろうし――。
「あ、あの、宵子、今の話は――」
「忘れなさい。いいわね」
「あっ、はい。わかりました」
ぐいっと顔を近付けて凄まれて、伊織は大人しく首を縦に振った。宵子の顔からは表情が完全に抜け落ちており、有無を言わせぬ迫力があった。
とはいえ今の話を仮に忘れたとしても、やっぱり伊織はかぶりを振るしかない。
「いやでも、やっぱりお断りだ。俺のことなんてかまわず、宵子は合沢さんと平和なお付き合いを続けてくれ」
「その明日華も、あなたのことを気に入っているっていうのに?」
「何と言われようが、俺は百合に混ざるつもりは毛頭ない。諦めてくれ」
きっぱり断りを入れて、伊織はくるりと背を向ける。
百合に混ざるつもりはない。これはまぎれもない本音だ。
だがしかし、ふたりの告白を断るのは非常に胸が苦しかった。
(だってふたりとも可愛いし、今後の人生でこんなモテ期絶対二度とないだろうし……!)
断腸の思いで歯を食いしばっていると、控えめにそっと袖を引かれた。おそるおそる目をやれば、そこでは宵子が不安そうに眉を寄せ、伊織の袖をつまんでいた。置いていかれた子犬のような目をして問うことには――。
「……ほんとにダメなの?」
「ぐっ……ギャップで落としにかかるのやめてくれませんかねえ!?」
しっかり者の子にそういうふうに甘えられて、クリティカルヒットしない男はいない。伊織も今のはかなり危なかった。
それでもしっかり耐えていると、明日華が顎を撫でて唸る。
「むーん。このままじゃ話が進まないねえ……あっ、そうだ」
そこで明日華は閃いたとばかりに人差し指をぴんと立て、にこやかに言ってみせる。
「そんじゃひとまずお試し期間ってことで! 試しにデートしてみよーよ」
「ますます危ない訪問販売じみてきたな……」
押しに負けたが最後で、クーリングオフは無理そうだった。
そんな見え透いた罠に引っかかる道理はない。伊織は毅然とした態度で、その誘いを突っぱねるのだが――。
「俺は絶対行かないぞ。おまえら百合カップルで好きにデートすれば――」
「一緒にデートしたら、あたしたちがイチャイチャするところが間近で見れちゃうよ?」
「よろこんでお供します!」
「私が言うのもなんだけど、伊織くんってば悪い女に引っかかりそうで心配だわ……」
宵子は頬に手を当てて、悩ましげなため息をこぼしてみせた。
続きはまた明日更新します。今週中には終わりそうですが、お暇つぶしになれば幸いです。
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