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百合に挟まりたくない理由を述べよ

 その日の放課後。

 三日前と同じ校舎裏で、明日華はにこやかに言う。


「そういうわけで……いおりん、あたしたちと付き合おうよ!」

「ごめんなさい!!」

 

 それを伊織は、九十度のお辞儀とともに丁重に断った。

 腹から全力の声を出したせいか、背後に広がる雑木林から何匹もの鳥たちが飛び立って夕暮れ空に消えていった。

 明日華は最初きょとんと目を丸くしていたものの、すぐに不満そうに唇を尖らせる。

 

「えー、なんでよ。いおりん彼女募集中なんでしょ?」

「それ以前の問題だ」


 伊織はギロリと明日華を睨みつけた。

 美少女ふたりから好意を寄せられる。男にとっては夢のようなシチュエーションだ。

 だがそれが百合カップルとなると、伊織にとっては悪夢そのものになってしまう。

 

「百合カップルは百合カップルだけでイチャついてればいいんだよ! 男なんか眼中に入れるな! ふざけるのも大概にしろよ!?」

「えー、あたしは本気も本気だもーん」

 

 軽い調子で言ってのける明日華だった。

 そんな彼女の横で、宵子は固い面持ちで顎を撫でる。

 

「伊織くんが休んでいる間、個人的に調べてみたのだけど……百合を好む人たちは、百合作品に男性が介入することを良しとしないんですってね。『百合に挟まる男は殺していい』って主張をネットでよく見たわ」

「そう、それ! さすが宵子は話がわかる!」

 

 伊織は水を得たように勢い付く。しかし宵子は真っ直ぐな目でこちらをじっと見つめるのだ。

 

「でもそれって、漫画とかゲームの話よね?」

「……へ?」

「あのね、伊織くん。これは現実の話なのよ。フィクションと現実は違うの」

 

 宵子は真面目な顔で、こんこんと諭すように言う。おかげで伊織はうっと言葉を詰まらせる。旗色がまずい。

 

「とりあえず一つ一つ整理していきましょう。私たちと付き合うことの何が嫌なの?」

「そ、それはもちろん……」


 百合に男が挟まるなんてありえない。

 伊織の主張はそれに尽きるのだが、その程度のものでは宵子が納得するはずないとすぐに分かった。

 たじろぎつつも、真剣に言葉を選ぶ。なぜ百合に男が挟まるのを忌避するのか。

 

「ほら、男が介入すると、それはもう百合じゃなくて三角関係じゃん。俺は百合を壊すのが嫌っていうか、なんていうか」

「私たちは普通のカップルよ。百合なんてレッテルはあなたが勝手に張り付けたものでしょ。それは失礼な話だと思わない?」

「うっ……いやほら、そうじゃなくて、三角関係ってギスギスするもんじゃん! それが嫌なんだよ!」

「あら、私たちが伊織くんを取り合って喧嘩するとでも? 大丈夫よ。その程度のことで私と明日華の仲が拗れるわけないでしょ。ちゃんと仲良く平等にイチャイチャするからご心配なく。ねえ、明日華」

「もちのろんだよ。三人仲良くイチャイチャすれば問題ないし」

「ぐっ……そ、そもそも三人で付き合うこと自体がおかしいだろ!?」

「あら、少し前まで同性愛だって異端の存在だったわ。それが人々の認識が少しずつ変わった結果、だんだんと認められつつあるの。三人以上で愛を育むことだって、きっとそのうち当たり前のことになるんじゃないかしら。『おかしい』なんて頭ごなしに否定するのは考えが浅いわよ」

「ぐっ、うっ、う……!」

 

 淡々と並べ立てられて、伊織はもう何の反論も浮かばなくなってしまう。そこを好機と見てか、宵子はさらに追撃する。

 

「そもそも『恋する女の子を応援したい』なんて言っていた人が、女の子の好意をないがしろにしていいの? もっと真摯に向き合うべきなんじゃなくって?」

「くそっ、ああ言えばこう言うし、全部ド正論にしか聞こえないし……!?」

「ふふーん、よーちゃんは学年成績いつも五本の指に入るもんね。頭いいんだから」

 

 我がことのように胸を張る明日華だった。

本日はキリのいいところまであと二回更新します。

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やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにグイグイいく
連載中のラブコメです。本作と同じ学校が舞台。
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