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19/31

病み上がりの登校

 それから三日後の朝。

 げっそりやつれた伊織が登校すると、大地が目を丸くして迎えてくれた。

 

「おっ、ようやく登校できるようになったんだな。大丈夫か、伊織」

「おう……なんとかな」

「なんか学校で倒れたって聞いたぞ? すっかり弱ってるみたいだし大変だったんだなあ……」

 

 大地は気遣わしげに伊織の顔を覗き込む。

 三日前の昼休み、伊織は意識を失って保健室に運ばれた。それから目を覚まして這うようにして早退したのだが、今日までずっと寝込んでしまった。

 高熱にも悩まされたし、気絶して悪夢を見て飛び起きて、また気絶して……というループをくらって、健康には自信のあった伊織もすっかり参ったというわけだ。

 そう説明すると、大地はますます青い顔をする。

 

「それヤバい病気なんじゃないのかよ……病院には行ったのか?」

「いや、原因はわかってるんだ……」

 

 伊織は力なくかぶりを振って、ため息をこぼす。

 

「たぶん、心労なんだよな……」

「ええ……百合にしか興味のない変態お気楽野郎だと思ってたけど、おまえもおまえで悩んでたんだな……俺でよかったら話を聞くぞ」

「いや、もう大丈夫。たぶん悪い夢を見たんだと思うから」

「はあ……?」

 

 ゆっくりかぶりを振る伊織に、大地は怪訝な顔をしてみせた。

 たっぷり三日もの間悩みに悩んでうなされて、出した結論がそれだった。

 

 百合カップルに男が挟まれる。

 

 そんなことが現実に起こるはずないのである。

 

(ないない。あんなお似合いの百合カップルが、俺のことを気に入るだって? 下世話なエロ漫画じゃあるまいし、あるわけないってーの)

 

 おそらく質のいい百合を摂取しすぎた結果、変な夢を見ただけだ。

 そう結論付けて――というより自分に言い聞かせる形でしみじみうなずく伊織の肩を、大地がぽんぽんと叩く。


「まあともかく元気出せよ。おまえが休んでる間、すげーことがあったんだぜ」

「はあ? なんの話だよ」

「きっとおまえなら歓喜すると思うぜ。実はさ――」

 

 大地が続けようとした、そのときだ。

 

「おっはよー、いおりん!」

「うおっ!?」

 

 元気のいい声とともに、伊織の背中がばしっと叩かれた。

 慌てて振り返るとそこには明日華がニコニコと立っていて――伊織はひゅっと息を呑んだ。

 

「あ、合沢さん……?」

「三日も休んで心配したんだよ。もう大丈夫なの、いおりん」


 明日華は眉をへにゃりと下げて、上目遣いに伊織の顔を覗き込んでくる。

 鼻と鼻との間はわずか十センチほど。先日と同じ甘い匂いが鼻腔をかすめ、ときめきを覚えるより先に伊織はバッと飛び退いて距離を取った。

 

「と、とりあえずまず聞かせて欲しいんだけど……」

「なあに、いおりん」

「その『いおりん』って何だよ!?」

「早乙女伊織でしょ、だからいおりん」

 

 明日華は平然と答えてみせた。

 

「よーちゃんのこともあだ名で呼んでるし、いおりんだけ名字呼びは仲間外れみたいでダメかなーって。かわいいっしょ?」

「なんか急にグイグイくるな……って、『よーちゃん』?」


 明日華が口にした言葉に、伊織はふと首をかしげる。

 教室では明日華と付き合っていることどころか、仲のいいことすら隠していたはず。

 

「こら、ダメよ。明日香」

 

 そんなふうに訝しんでいると、宵子が慌てたようにやってくる。

 先日までの犬猿のふりはどこへやら。明日華に向ける目は少しばかり苦々しいものの、それも聞き分けの悪い子供を見るような優しいものだ。

 

「病み上がりの人にそんな乱暴しちゃいけないわ。もっと気遣わないと」

「ううー……だって久々に会えて嬉しかったんだもん」

 

 それに明日華は唇を尖らせる。

 ふたりのやり取りに伊織は目を丸くするしかないのだが、教室内の他の生徒たちはいたって普通の反応だ。むしろどこか微笑ましげに見ている者が多くて――。

 

「え、なにこれ……?」

「ほら、驚くだろ。百瀬さんと合沢さん、急に仲良くなったんだと」


 そんななか、大地がコソコソと伊織に耳打ちした。

本日はあと一回更新予定です。

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やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにグイグイいく
連載中のラブコメです。本作と同じ学校が舞台。
― 新着の感想 ―
[良い点] ガチで死にかけてる...だとっ!!!wwwww
[良い点] 悪夢だったのかw そこまで嫌がらなくてもいいと思うけどなんか原因があるのかな? [一言] 何か評価の方法が変わっててちゃんとポイント入ってるか判らない・・・ 入ってますよね?w
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