色々あったけど儲けた気がする
その日の昼休み。
伊織はまたも校舎裏を訪れていた。木陰でピクニックシートを広げて、宵子や明日華とともに昼食を食べている。
どうやらふたりは放課後だけでなく昼もここで落ち合って、いつもこっそり過ごしていたらしい。
百合カップルの貴重な時間を邪魔するのは忍びなかったが、事態が事態なのでやむなく参加した。
ぱくぱくと弁当を食べる伊織に反して、宵子と明日華の面持ちは硬い。ふたりとも口数が少ないし、箸もあまり動いていなかった。
「ふたりともどうした、食欲がないのか?」
「どうしたもこうしたも……」
「さすがにあれは責任を覚えるっていうか……」
ふたりは顔を見合わせてため息をこぼす。
「早乙女くん、今日はいろんな生徒から生温かい目を向けられていたじゃない。たぶんあれ、今朝のやつが広まっちゃってるんだよ」
「白崎さんが言っていた、同好会の人たちかしらねえ……」
「だと思った。思った以上にメンバーがいるみたいだな」
しかもそれが他学年にも広まっているらしく、伊織は行く先々で『あれが噂になってるヤバい性癖の……』なんて目で見られていた。大地にも『おまえ何かやらかしたのか』と訝しがられたが、正直に理由を話せるはずもない。
「なのに平気なの? 早乙女くん、朝はかなり落ち込んでたじゃん」
「まあ、あの時は多少凹んだけどさ」
早合点して汚名を被ったものの、それがまったくの徒労だったとわかったときはがっくりときた。
しかしよくよく考えてみれば、プラスマイナスで断然プラスだと気付いたのだ。
「おかげで、この学校には他にも多くの百合カップルがいるって分かったし……つまり女子は全員等しく百合女子の可能性があるってことじゃん? もうこんなのシュレディンガーの百合だよ。捗りすぎる……」
「転んでもただでは起きないタイプなんだねー……」
しみじみと幸せを噛みしめる伊織に、明日華は苦笑するばかりだった。
宵子も少し目を丸くして、小首をそっとかしげてみせる。
「明日華から聞いたけど、本当に筋金入りの百合愛好家なのね……いつの間にそんな風になったわけ?」
「自覚したのは中学くらいからかなあ。宵子とあんまり話さなくなった頃か」
「……ふうん、そうなの」
「あはは、幼馴染みがこんなになってて幻滅したか?」
「そんなことないわ」
宵子はゆっくりとかぶりを振る。社交辞令かと思いきや……ひどく真剣な眼差しを伊織へ向けた。
「あなたは変わらないわね。優しくて、強くて……昔の伊織くんと同じよ」
「そ、そうか?」
あまりに素直な褒め言葉に伊織はうろたえるしかない。宵子はすこし顔を伏せて、ぽつぽつと続けた。
「これでも私だって、明日華と付き合い始めて悩んだこともあったんだから。こんなのおかしいことなんじゃないかとか、間違ってるんじゃないかとか……でもね?」
宵子はそっと顔を上げる。
そこには硬い表情などではなく――柔らかな微笑みが浮かんでいた。
「伊織くんが私たちのことを否定せず、味方してくれて……本当にうれしかった。ありがとう」
「なんだよ、急に改まって……俺は百合のために一肌脱いだだけだっての」
「ふふ、照れちゃって。そんなところも変わらないのね。昨日はごめんなさいね、急に縛ったりなんかして」
「い、いや、あれは俺も悪かったし……」
伊織はごにょごにょと言葉を濁す。
本日はあと二回更新します。
明日からは二回更新で最後までぽつぽつ続けていきたいと思います。お暇つぶしになれば幸いです。





