我が身をていして百合をかばう
悲鳴を上げたあと全員が口をつぐんでしまい、ただでさえ物寂しい校舎裏に、取り返しのつかないほど冷え切った沈黙が落ちる。
そこに伊織はチャンスとばかりにでっちあげの事情を並び立てる。
「実はさ、ちょっと前にふたりにほとんど同時に告白されたんだよ。でもどっちも可愛いじゃん? どちらかひとりだけなんて選べなくて、両方に彼女になってもらったんだよな。で、俺って実は女の子同士のイチャイチャでしか興奮できない性癖でさ……」
「はあ……」
かくして伊織はふたりの好意をいいことにイチャイチャしてもらっている……というふうなことをざっと説明してみせた。
説明すればするほど、白崎含めた女子生徒たちの顔色が曇っていく。まあ、伊織も同級生がこんな爛れたやり方で性欲を満たしていると知ったらまず間違いなくドン引きしたので仕方ない。
そんな中で、最初に我に返ったのが宵子だった。
焦ったように伊織へ詰め寄ってくる。
「ちょっ……ちょっと伊織くん!? あなたいったい何を――」
「ごめんなあ、宵子。俺なんかを庇ってくれて。あい……明日華も悪かったな」
「へ!? あ、あたし!?」
「そーそー。それでちょーっとこっちに来てくれるかな、ふたりとも」
訳が分からずオロオロするふたりの手を引いて、先ほどの物陰へと引っ込んだ。
向こうの女子生徒たちに聞こえないように声を落として伊織はまくし立てる。
「頼む! 今は口裏を合わせてくれ! おまえらの関係をバラすことなく、穏便に収めるにはこれしかないんだよ!」
「で、でも、どのみち私たちがキスしていた事実は残るんだけど……」
「そんなの俺の性癖がやべーってインパクトでかき消されるだろ。頃合いを見て俺に見切りを付けたって言えばいいんだから、今はどうか耐えてくれ!」
「いやいやダメじゃん!? それじゃあ早乙女くん、残りの学園生活ずっと『ヤバい性癖のやつ』って汚名を被ることになるんだよ!?」
「俺の学園生活がなんだ! 百合カップルを守るためなら命だって投げ打つわ!」
「な、なにが早乙女くんをそこまで突き動かすの……!?」
そう断言する伊織に、明日華は絶句するのだが――宵子の方は面持ちがひどく固かった。
「どうして伊織くんがそこまでしてくれるの? 私があなたの……幼馴染みだから?」
「それは違う。たとえ宵子と昨日出会ったばかりでも、俺は間違いなくこうしていた」
伊織は胸を張って答える。それが嘘偽らざる本心だった。たしかに宵子は昔馴染みだ。だがそんなこと、些細なことに過ぎなかった。
「俺はどんなときだって、恋する女の子の味方だ!」
「っ……!」
「だからそれ漫画のセリフ……って、ちょっと早乙女くん!?」
言葉を失う宵子と、げんなりとツッコミを入れる明日華。
そんなふたりを物陰へ残し、伊織は元の場所まで戻っていった。困惑を顔に貼り付かせた白崎たちに、ふたたび堂々と宣言する。
「ま、そういうわけだからさ。悪いのは全部、俺の性癖なんだ」
「えっ、え、その……今の話って本当なの? 合意の上?」
「もちろん。ふたりとも俺を庇ってああ言ってくれたんだろうなあ。まったく出来た彼女たちだよ」
「……そうだったんだ」
白崎たちは神妙な顔を見合わせる。
そこでふと、伊織は違和感を覚えるのだ。
(うん……? なんか思ったよりドン引きって感じじゃないな……)
呆れてはいるようだが、嫌悪感のようなものはあまり感じられなかった。
不思議に思っていると、白崎はどこか残念そうにため息をこぼす。
「私てっきり、百瀬さんと合沢さんが……」
そうして彼女が続けたセリフに、伊織たちはそろって首をひねることになる。
「私とクロエちゃんみたく、女の子同士のカップルなのかと思ったんだけどなあ……」
「…………はい?」
本日はあと一回更新します。今日トータル何回更新したのか、さめもよくわかりません。





