ふたりの出会い
おかげで伊織はたじろぐしかない。
「えっ……俺なんかが聞いてもいいのか?」
「もちろん。他言しないって言うならね」
「言わない言わない! 誓う!」
「ならよろしい」
明日華は勿体ぶったようにうなずいてみせる。
そうして周囲をそっと見回した。あたりには同じ大月学園の生徒がちらほらと見えるが、距離が離れているしこちらの会話は聞こえないだろう。
それを確認して、明日華は声をひそめて打ち明ける。
「実はあたしたち、付き合ってること誰にも言ってないんだよね」
「えっ、友達とか家族にも……?」
「うん、そう。知ってるのはそうだねえ……早乙女くんだけだよ」
そこで彼女はすこし目尻を下げて笑ってみせた。
どこか寂しげなその表情に、伊織は胸が締め付けられる思いがした。
(そっか……こういうのって打ち明けるの勇気がいるもんな)
理解が深まりつつあるとはいえ、いまだ差別は残っている。ふたりが静かにこっそりと愛を育むことを決めたのにも頷ける話だ。
そうなってくると、ますますそこに土足で踏み込んだ自分の罪深さが浮き彫りになってくる。
「なんかもう……ほんとにごめん、俺なんかが秘密を暴いちゃって」
「いいよいいよ、今考えたらあれは事故だしね。学校でイチャイチャしてたあたしたちにも非があるし……こっちこそ、昨日は縛ったり怒鳴ったりしてごめんね?」
「そ、そんな、合沢さんが謝ることじゃないって! 悪いのは全部俺だから!」
「あはは、じゃあおあいこってことで」
頭を下げる伊織に、明日華はあっけらかんと言ってウィンクしてみせた。
そうして手の指を祈るように組んで、ニコニコと続ける。
「だから私、よーちゃんとのそういう話、誰かに聞いてもらいたいなーって、ずーっと思ってたんだよね。早乙女くんなら大丈夫だろうし、漫画のお礼がてら教えてあげる」
「う、うん。心して聞かせてもらうよ」
「ふふん、いい心がけだわ。それでね、あれは忘れもしない、今年の二月で――」
明日華はそのまま宵子との出会いを語りはじめる。
こう見えて、明日華は読書をよく嗜むらしい。とはいえ派手めな見た目のせいで、そんな話ができる友達がなかなかできず、ひとりで図書館に通うことが多かった。
それが今年の二月ごろ。粉雪のちらつく寒い日曜に、図書館の隅で偶然にも宵子と出会ったのだという。
「お互い同じ学校の子だっていうのは知ってたから、その日はちょっとだけおしゃべりしたの。どんな本が好きかとか、学校の話とか、そんなありきたりなこと」
それから、ふたりは急速に仲を深めていった。
宵子が明日華に勉強を教えたり、明日華が宵子に似合う服を選んであげたり。
読書だけでなく、いろんな趣味や考え方がぴたりと合うことに気付いて、互いが唯一無二の相手になるまでそう時間はかからなかった。
「それでね、二年に上がる前に、よーちゃんの家にお泊まりしたの。よーちゃんのお部屋で、一緒のベッドで眠って……あたし全然寝付けなかったんだ」
胸がドキドキして、隣で眠る宵子のことが気になって仕方がなかった。
それで、その気持ちが友情ではなく、恋だと気付いた。
「で、あたし我慢がならなくなってさ。ぽつっと言っちゃったんだよね。『よーちゃん、好きだよ』って」
「そ、それで……?」
「寝てたと思ってたよーちゃんが起きてきてね。『私も』って言ってくれたの。どっっちも同じ『好き』だってすぐにわかったよ。それで、えっと……」
明日華はすこし頬を赤く染め、視線をさまよわせながらぽつりと言う。
「そこで人生で初めて、ちゅーしちゃって……って、えっ、なに、どうしたの早乙女くん、急にお腹押さえてしゃがみこんじゃって!?」
「いや、大丈夫……あまりの尊さに、ちょっと目眩がしただけだから……」
植え込みの陰にしゃがみこみ、息も絶え絶えに呻く伊織だった。
わりとオーソドックスな百合エピソードだ。これまでにも似たような小説や漫画を読んだ気がしなくもない。だがしかし、当事者の口から臨場感たっぷりに語られることの破壊力たるや、凄まじいものがあった。
本日はあと四回更新します。お暇つぶしになれば幸いです。





