朝から百合トークで盛り上がる
そんなわけで、伊織は明日華と一緒に登校することになった。
徒歩で二十分ほどの距離なので、遅刻ギリギリのとき以外は歩いて行く。
高校に入って一年とちょっと。もはや通い慣れた道のりを、まさか明日華のような美少女と並んで歩く日が来るとは思いもしなかった。
(宵子の恋人だって知らなきゃ、テンション上がってただろなあ……)
真実を知った今、申し訳なさしか感じない。
「でも、俺のことを監視するって言っても、いつまで続けるつもりなんだ?」
「もちろんあたしたちの気が済むまで……の、つもりだったんだけど」
「けど?」
明日華はすこし言いよどんでから、上目遣いに伊織をうかがう。
「早乙女くん、やっぱり本気で言ってるようにしか見えないし……ほんとにあたしたちのこと、黙っててくれるつもりなの?」
「お望みとあらば墓まで持ってくよ」
それに伊織はどんっと胸を叩いて応えてみせた。
「俺は恋する女の子の味方だ。全力で応援しても、悲しませるような真似はしないって約束するよ」
「いいこと言ってるけど……それもあの百合漫画の引用じゃん!?」
「引用の何が悪い!? なんせあの漫画は俺のバイブルだからな!」
「ついに開き直ったし……」
どこかげんなりとため息をこぼす明日華だった。伊織の貸した漫画をパラパラとめくり、唇を尖らせてぽつりとこぼす。
「でもまあ、たしかにいい漫画だったとは思うけどね……」
「だろ!? あっ、ちなみに二巻以降も一応持ってきてるけど」
「貸して」
即答だった。
紙袋に詰まった漫画本五冊を渡すと、明日華はホクホクとした顔をする。
「ありがと。あたしこういう百合漫画って初めて読んだけど、ほんとにドキドキしたなあ」
「わかる……特に図書館のシーンとか本当に最高だよな」
「わかりすぎる……」
黒髪の主人公と派手めの女の子のふたりが、図書館で同じ本に手を伸ばして出会うシーンは一巻の見せ場とも言える神シーンだ。
伊織はともかくとして、明日華もしみじみと噛みしめるようにしてうなずいてみせる。
セリフを覚えるくらいだし、よほど気に入ってくれたのだろう。
(よっし! 大地はふざけたこと言ってたけど、合沢さんはわかる人だな!)
手応えにグッと拳をにぎる伊織だが、一方で明日華はほうっとため息をこぼし、はにかみながら言う。
「実はさ、あたしとよーちゃんが初めて会ったのも図書館だったの。だからシンパシーっていうの? 余計にグッときちゃったんだよねえ」
「なっ……!」
その言葉に、伊織は衝撃を受けてしまう。
彼女の言葉が本当なら、文字通り漫画から飛び出したようなシチュエーションだ。気にならないわけはない。
おもわずゴクリと喉を鳴らし、おずおずと聞いていた。
「あ、合沢さんは、その……どうして宵子と付き合い出したんだ?」
「へ」
それに明日華がきょとんと目を丸くする。立ち止まって、まじまじと伊織の顔を見つめてきて――そこで伊織はハッとする。あまりにデリカシーに欠けていると気付いたからだ。
「あっ!? いや、ごめん! プライベートなこと聞いちゃ――」
「聞いてくれるの!?」
「え……?」
明日華は目をキラキラさせて、伊織の手をぎゅっと握った。
今日あと5回くらい更新するかもしれません。お暇つぶしになりましたら幸いです。





