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百合の間に挟まる男にだけはなりたくない

 薄暗い部屋の中、ひそやかな声が響いていた。

 

「ふっ、ん」

「あ、や……ん」

 

 艶めく声を上げるのはふたりの少女たちだ。

 ひとりは癖ひとつない黒髪を腰まで伸ばした華奢な少女。もうひとりは肩までの髪を明るい色に染めた肉感的な少女。


 ふたりとも下着のみを身につけており、肌を惜しげもなく晒している。

 そうして彼女らは薄暗い部屋の中――ベッドの上で丸くなり、触れ合うだけのキスを交わしていた。


 きゅっと目をつむり、指を絡めて手をつなぎながら、子猫がじゃれ合うようにして唇を合わせて、やわく噛み、離してまた合わせて……その繰り返しだ。


 息継ぎの合間に漏れる笑い声は柔らかく、愛情に満ちている。

 肌はじっとりと汗ばんで、カーテンの隙間から差し込む光を受けてきらきらと輝いていた。


 少女らはうっとりと秘め事に浸る。

 それを邪魔する者はもちろん誰もいない。

 ただし――それを見守る者がいた。

 

「んぐーーーー!?」

 

 いや、正しく言えば『見せ付けられていた』。


 少女らと同じ年頃の少年だ。

 ベッドの前に置かれた椅子に縛り付けられ、猿轡を施されている。それでも必死の形相で呻き声を上げ、足をバタつかせてなんとかして拘束から逃げ出そうと足掻いていた。


 顔立ちはそこそこ整った方だが、決死の形相をしているために色々と台無しである。

 そんな少年にわざと見せつけるようにして、少女らはイチャつき続けた。わざとリップ音を響かせてみたり、相手の肌を撫でてみたり。


 第三者が見たら『すごいプレイだなー……』と、ちょっと引くような場面だった。

 

「ぷはっ」

 

 しばらくしてから、少女らは唇を離してみせた。

 黒髪の少女がくすくすと笑い、相手の少女の髪を優しく撫でる。

 

「ふふ、明日華もずいぶんキスが上手くなったわね。とってもよかったわよ」

「ほんとに!? でもなあ……よーちゃんには負けるよ。ほんとにあたしと付き合うまで、誰とも経験なかったの?」

「あら、本当よ」

 

 『よーちゃん』と呼ばれた少女はすこし心外だとばかりに眉を寄せ、相手の少女――明日華(あすか)の背中にそっと指を這わせる。その指が肩甲骨をゆっくりなぞると、それに合わせて明日華はくすぐったそうな声を上げた。

 

「好きな子を気持ちよくさせたいから、頑張って覚えたんじゃない。明日華は素直で可愛いものね。すぐにイイところが分かるから研究しがいがあるのよ」

「もう! よーちゃんのエッチ! 私だって……そりゃ!」

「ひゃうっ!? だ、だから耳はダメだって何度も言って――!」

 

 明日華は目をきらんと光らせて宵子に飛びかかる。

 しばし少女らはベッドの上でくすぐり合って笑い合った。


 その間も、もちろん少年はバタバタと暴れていて――明日華がそれに気付き、起き上がって小首をかしげる。

 

「あっ、いおりんのことすっかり忘れてた。もうほどいてあげてもいいかな?」

「そうね。伊織くんもそろそろ観念したでしょうし」

 

 ふたりはうなずき合って、少年のさるぐつわをまず外してやる。

 

「ぷはっ……! よ、宵子(よいこ)、明日華……! も、もうこんなことはやめるんだ……!」

「嫌よ。ねえ、明日華」

「だよねえ、よーちゃん」

 

 宵子と明日華は目配せしてにっこり笑う。まるで獲物をいたぶる猛獣のような目だ。

 そんな少女らにねっとりと見つめられ、少年はぐっと喉を詰まらせた。

 

「ねえ。素直になりなさいよ、伊織くん。私たちと一緒に『イイこと』がしたくなってきたでしょう? 混ざりたくなったんじゃないの?」

「いおりんなら……許してあげるよ♡ あたしとよーちゃんのこと、好きにしてもいいんだよ♡」

 

 下着姿のまま、少女らは少年の頰や指先に触れて誘惑する。

 完全なる据え膳状態だ。九割の男はここで陥落して、彼女らとくんずほぐれつよろしくやる道を選ぶことだろう。


 しかし、彼――早乙女伊織(さおとめいおり)は違っていた。ぐったりと俯きながら、震えた声を絞り出す。

 

「ふ……」

「ふ?」

「ふ、ふっ……ふざけんなあああ!!」

「うわっ」

 

 叫ぶと同時、伊織は力任せに拘束から抜け出した。

 そのまま無防備な少女らに飛びかかり、獣のような情欲をぶつける――かと思いきや。

 

「百合カップルは男なんかにかまわず、百合カップルだけでイチャイチャしてればいいんだよ畜生ォオオオ!!」

 

 彼は全速力で走りだし、部屋の窓から飛び立った。

 幸い部屋は一階だ。広い庭にゴロゴロと転がってから、伊織は脇目も振らず逃げていく。


 その後ろ姿を見送って、宵子と明日華はため息をこぼしてみせた。

 

「あーあ、また逃げられちゃったね」

「ほんとにしぶとい人ねえ……追いかける?」

「うん! よーちゃん家がいおりん家の隣で好都合だよ。絶対落としてみせよーね、よーちゃん!」

「そうね。私と明日華にかかればイチコロよ」

 

 ふたりはそっと窓を閉め、素早く制服を着込んで伊織のことを追いかけていった。

 

 

 

 

 これは百合カップルの間に挟まりたくなくて、必死になって抗う少年の物語。

本日はあと三回更新します。

ストックが三十本ほどあるのでのんびり投下していきます。お付き合いいただければ幸いです。

少しでもお気に召しましたら、ブクマや評価で応援ください。ご感想も大歓迎です。

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やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにグイグイいく
連載中のラブコメです。本作と同じ学校が舞台。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いwwとにかくこの発想はなかったwww [気になる点] 18禁付かないギリギリを攻めすぎだなぁ...
[一言] 【第三者が見たら『すごいプレイだなー……』と、ちょっと引くような場面だった。】いや、大分引く場面だと思います(笑)
2020/03/01 13:19 退会済み
管理
[一言] が、ガイア!!!!
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