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前世持ちの戦士が蘇ったら一国の王女だった話

作者: 七瀬 夢

金属と金属のぶつかり合う音があちこちで響く。ここは戦場。鋼の鎧を纏った男たちが命を懸けて戦っている。戦友ラウルは自分の父の名誉の為に。私は主君ベルメールの勝利の為に。一人また一人と倒していき、私の頰に返り血が重なる。どこからともなく叫び声や呻き声が聞こえる。だだっ広い草原での戦だった。

「こうしてお前と戦うのが最後になるとは思いたくない」

ラウルは私と背中合わせになって言った。

「ああ、私もまたお前と共に戦いたい」

私は口角を上げてそう言った。

「ならばこの戦、負けるわけにはいかぬ」

「ああ、そうともよ」

剣を握り直して立ち向かう。ラウルは西の軍勢に。私は東の軍勢に。人の波に飛び込むように剣を高く上げて突っ込んだ。波をかき分け、人を投げ倒し、血しぶきと怒号の中を進んでいく。人間の重みを感じ、押し返されそうになるのを踏ん張って耐え攻撃する、その繰り返しだった。

ふと嫌な予感がして右を見た。主君の方を、我らの戦いを眺める王の椅子を。そして反射的に叫んだ。

「王よ!」

玉座に座っているはずの王はその椅子を奪われ、その腕は敵軍に掴まれていた。その敵の顔は知っている。強敵と名高いリアム。その特徴的な赤髪の上にどす黒い血がまとわりついていた。

私の声に気付いたのか、ラウルも玉座を見た。二人で頷き合い、互いの敵を押しのけて玉座へと駆ける。

「その手を離せ!リアム!」

玉座の前まで駆けた私が叫び、リアムは振り向く。その冷め切った目に背筋が伸びた。

リアムは何も言わず、玉座を下された王に跨る。

「イブ……!」

王は懇願するように私の名前を呼び、全てを悟ったように目を伏せた。いけないーー。

そこからの記憶はほぼ無いに等しい。剣を手放し、リアムを跳ね除けた。その刹那自分の首に痛みが走る。驚いた顔のリアムの首にラウルの剣が当てられ、王は再び私の名を言う。私は薄れゆく意識の中で大勢の歓声を聞いた。きっと我が軍は勝ったのだ。誰かが敵の王の首をとったのだ。

「イブ!イブ……!」

視界には戦友と王の顔が映る。そんなに悲しげな顔をしないでほしい。私は幸せなのです。こうして王のために友と戦えることが。こうして深い眠りにつけることが。父や母は私を褒めてくださるだろうか。この私の生き様を。

そうして私は眠りについた。

次に目が覚めたのはーー

「なんだ、これは」

薄いピンク色の上品なドレス。丁寧に編まれた金色の髪。天蓋のベッドに柔らかなシーツ。ガチャリと部屋のノブが回るのを合図に、近くにあった護身用の剣を手に取る。

「ミア様」

いかにも使用人といった格好の年配の婦人が部屋に入ってきた。その後をぞろぞろと若い女性が続く。

「ああーーもう、おやめください。全く、今日が何の日かお忘れになったわけではないでしょう。そんな剣を持って、はしたない。少しは女王らしく振舞ってくださいな」

年配の使用人はやれやれといった風にそう言って、私の手から剣を奪った。

「それとも、また”怖い夢”ですか?懐かしいですわね。幼い頃、剣を持って草原を駆ける夢をよく見ていたとか。それでうなされて騒ぎになっていたのも遠い日々。これからはミア女王としてダヴィ家に嫁ぐのですよ」

寂しいです、と女性は泣くふりをして言う。

あれが、夢……?あの草原を駆けた時の、靴の裏に感じる土の柔らかさも、人を切りつけた時の剣から手に伝わる感触も、王を尊ぶあの心も、戦友の存在も……?

「父や母は……?」

「ええ、ええ、今日のことをさぞかしお慶びになっていることでしょう。お空の上からきっと今日の式典を見守ってくださるわ」

やはりもう亡くなっているのか。

「さあ、早くこのドレスに着替えましょう。王子様を待たせるわけにはいきませんよ。失礼のないようにお努めください」

私はされるがままに若い使用人たちに着替えさせられ、立派な紺色のドレスを身にまとった。

「待て、私には鎧の方がーー」

「冗談はおやめください。ささ、行きますよ」

連れて行かれたのは大広間。多くの人々が私を待っていたような歓声が高い天井に響いた。数人の男性がお辞儀をして私を待つ。

「あなたがミア様」

ああ、そのお声は、やはりあれは夢ではなかった。聞き慣れたそのお声に、涙が出そうになる。

「ベルメール様ーーではない」

いや、やはりあれは夢だったのかも知れない。そこにいたのはベルメール様ではなく、ベルメール様に声のよく似た男性だった。

「あなたは……」

「ダヴィ=ベルナルト。エルトール王国の次期王だ」

紺色の短い髪に金色の目。その様が黒猫のように妖しい。その大きい手から伸びる細い指が私の手を取り、そっと口づけをするーーふりをして、怒ったようにこう呟いた。

「婚礼の儀に他の男の名を呟くとはいい度胸だ。ベルメールが誰だか知らんが今日からお前は私の妻となる。過去の男は忘れろ」

私は慌てて言う。

「ベルメール様は過去の男ではない。あの方はーー」

「そうか。誰でもいい。忘れろ。さもなくば今すぐ騒ぎにして今日の婚礼の儀を台無しにするぞ。お前の父も母もさぞ悲しむだろうな」

その言葉に私はぐっと声を押し殺した。ベルメール様のことを知らないとなれば、やはりあれは夢か。

「し、失礼をお許しください、ベルナルト様」

「よかろう」

彼は私の手を離し、小さく笑った。

「今日という日を待ち望んでいた。さあ、我が国、我が家に迎えよう。花嫁、メルヘル=ミアよ」

私は重たいドレスの端をつまみ上げ、丁寧にお辞儀した。ふと懐かしさに襲われる。あの夢の中で振っていた、剣を譲り受けたあの儀式を。ベルメール様に忠誠を誓った十六歳のあの日を。ラウルと出会い、共に戦うと決めたあの夜を。

気付けば涙が溢れていた。私はベルナルト様と馬車に揺られていた。紺色のドレスに透明の雫がぱたぱたと落ちる。

「そんなに嫌か、私との婚礼は」

不意に横からそんな声がした。

「そう言うわけでは……」

私は情けなく泣き続けるしかなかった。女とはこんなにも涙脆く、初対面の相手の前でも泣いてしまう生き物なのだろうか。

違う、私は男だった。剣を振るい王のために戦う戦士だった。なのに今は国や父母のために嫁ぐ一国の王女だ。訳も分からぬまま流される無力な人間だ。

馬車が止まり、ドアが開く。眩しい世界に目を細めた。

「ほら、国民がみんなお前を待っている。笑え」

先に降りたベルナルト様が私の手を取る。

私は涙をすくって精一杯の笑顔を見せた。国民たちは道を開き、私たちはお城へ向かう。その間ずっとベルナルト様は私の手をぎゅっと握ってくれていた。もう泣くな、と言わんばかりに。

私の部屋はベルナルト様の執務室の隣だった。忙しいけれどいつでも会えるようにとそうしてくれた。




「あなた様と初めて出会ったあの婚礼の日、馬車の中で私が泣いたのを覚えていますか」

「ああ、あの時は困った。お前と仲睦まじく過ごすであろう日々に一抹の不安を抱いてしまった。他の男に心を取られていたようだったから」

「それは違うのです」

私はあの夢の話をした。絶対に夢ではないと確信しているのに夢だと思わざるを得ないことも。その不思議な感覚を他の人に今まで一度も話せなかったことも。

「そうか、ベルメールはお前の王だったか」

私は目を伏せて頷いた。

「ラウルもベルメール様も、今はどこにもいないのに、いるはずがないのに、私は探してしまうのです。そして不思議なことに、私はいつも剣を求めている。剣をとり王のために戦うことを望んでいる」

「そうか」

ベルナルト様はそう言って私の手を取った。そして婚礼の儀のあの日のように口づけするふりをして、こう言った。

「ならばお前の望み、私が叶えよう」


翌日、私が目を覚ますとそこにはベルナルト様はいなかった。代わりに待っていたのは鎧一式。

「わぁ……!」

今まで私が与えられたどんなドレスや花束やお菓子や人形よりも、何よりも嬉しいプレゼントだった。

『練習場で待つ』とだけ書かれた紙が鎧に貼られていた。その隣にはベルナルト様の印も。

私は慣れた手つきで鎧を被り、横に立てかけてある剣を手に取った。鎧や剣の重みが体に心地よくのしかかった。私は鎧の下が誰であるか分からぬように全身身にまとい剣の練習場に向かった。場所は知っていた。こっそりベルナルト様の後をついて行ったことがあったからだ。

唾を飲み込み、練習場のドアを開けた。熱気が体を包み、鋼同士がぶつかり合う音や男たちの声が轟いていた。

「私が求めていたものはこれだ」

私は深く深呼吸して瞬きした後、その喧騒の中に飛び込んだ。

「うおおおおおああああああ」

咆哮とともに剣を振るう。まるで舞い踊るように私は戦った。人をなぎ倒し、跳ね飛ばし、押し切り、鋼をぶつけ合う。練習用の剣だったから人を殺すことはなかったが、戦っているというその感覚が幸福だった。

練習場に入ってすぐのところの相手を薙ぎ払いながら進み、中の方まで行き、また戦って進み、鎧の隙間からベルナルト様を見た。彼はもうとっくに私の存在に気付いていたようで、私が近づくにつれ、嬉しそうに歩み寄ってきた。ベルナルト様が剣を抜くのと、私が振りかぶるのがほぼ同時だった。キィンといい音が鳴り、私たちは剣を交えた。

男たちは両脇に避け、私たちは練習場の中心で舞った。鎧の下の瞳がお互いを捉えて離さなかった。私はいつからか笑っていた。楽しくて楽しくて仕方なかった。ベルナルト様も笑っていた。

いつだったか、ラウルともこうして剣を交え、お互いを高め合った。お互いを褒め合い、指摘し合い、朝まで語り合った。私が十六歳になった日にベルメール様がくださった剣は今どこにあるのだろう。いや、それすらも夢なのか……?こんなに剣を振るうのが楽しくて仕方ないのに、この感覚さえ夢だというのか……?

そう思った時には私の剣が手から離れていた。どさっと尻餅をつき、ベルナルト様の剣先が私の目の前にあった。飛んで行った私の剣は近くに突き刺さった。

「私の勝ちだ」

ベルナルト様は得意げにそう言った。敵わなかった。それでも幸せだった。

「あの戦士は一体誰だ」

「鎧の下は誰なんだ」

「あんな小柄な仲間いたか?」

そんな声が飛び交っているのを聞いていた。

私はベルナルト様に丁寧にお辞儀してその場を駆け抜けて去った。ドアが閉まる音を聞き、廊下を走って自室に戻った。鎧を丁寧に脱ぎ、ぶつかり合ってできた傷を撫でた。

剣は置いてきた。また行くつもりでいたから。そんな私に、ややあって戻ってきたベルナルト様は言った。

「今日だけだ」

「えー!」

私は抗議した。ベルナルト様は私の剣を持ち帰っていた。

「あれだけ楽しかったのに、その楽しみを私から奪うんですか?折角鎧も剣もくださったのに……嬉しかったのに……」

「戦士たちに正体がバレたらどうする」

「それは……でも、どうしても剣を持ちたいんです。どうしても」

私はずいとベルナルト様に顔を近づけて言った。

「お願い」

ベルナルト様は一つ溜息を吐いて観念したように言った。

「夜だけだ。夜、夕飯を食べ終わってから風呂に入るまでの間なら剣術を磨いてやる」

「本当!?ありがとうございます!嬉しい」

私は飛び跳ねて喜んだ。鎧も剣も抱きしめた。

それから毎晩私は鎧を身に包み、ベルナルト様と剣を交えた。きっとお互いが想像していた結婚生活ではなかったけれど、ベルナルト様も楽しそうだった。

私は徐々に剣の感覚を取り戻していき、体つきも変わっていった。懐かしい感覚に浸るのが幸せで堪らなかった。忙しい身なのに剣の相手をしてくれるベルナルト様には頭が上がらなかった。

毎晩練習場の明かりが点いていてベルナルト様が鍛錬していることとその相手の素性が分からないことが噂になっていた。そんな噂は聞こえないふりをして、剣術を磨き続けた。そんな日がずっと続くと思っていた。

「今日は練習に付き合ってやれない」

ある日ベルナルト様はそう言った。数日前から特に忙しそうで剣術の練習にも身が入らない様子だった。

「大丈夫ですか?何かあったのですか?」

私がそう訊いても、「なんでもない」と濁されていた。

でも私は噂で知ることになった。戦が近いことを。

私はベルナルト様の執務室のドアを勢いよく開けた。

「どうして……どうして仰ってくださらなかったのですか!」

その感情は怒りではなかったのに、怒ったように言ってしまった。戦が近い、それが事実だと執務室の大きな机の上に広げられた地図と兵の数を表す小さな馬の置物が物語っていた。

ベルナルト様は執務室にいた側近たちを手で払って追い出し、私をそっと抱きしめた。

「すまない。言えば自分も戦に行くと言わないか不安だった」

「私も行きます」

「……そう言って欲しくなかったから黙っていたんだぞ」

「わかってます。女だからですよね。でも私はーー」

「女だからじゃない」

ベルナルト様は私の唇に指を当てて言った。

「お前が大事だからだ」

ずるいと思った。でも引き下がれなかった。

「それでも私はついていきます。どこまでも」

「それは困る。今回の戦は大きな戦だ。国民を安心させるためにもお前には国に残ってもらいたい」

「嫌です」

「あのな……」

私はベルナルト様の腕の中から抜け出し、立ち上がって言った。

「本当の私は王女なんかじゃありません。私はどこまでも戦士として生き抜きたいんです」

ベルナルト様を一瞥して私は執務室から出た。ドアが閉まる音とベルナルト様の溜息が同時に聞こえた気がした。

数日後、お城の中の騒がしさで目を覚ました。カーテンをそっと開くと進軍する兵士たちが見えた。私は慌ててパジャマを脱ぎ、鎧を被った。今日がその日だとは知らなかった。

剣を持って部屋のドアを開けた瞬間、私は人にぶつかった。自分よりもはるかに背の高いその人は、ベルナルト様の側近の一人だった。

「行かせてください」

「いけません」

「お願いします」

「畏れながら、それを許すことはできないと我が主が」

「それでも退いてください」

「できません」

埒のあかぬやりとりだった。

「すみません、ごめんなさい」

「え?」

私は先に謝って、峰撃ちで彼を倒した。うっ、と声を漏らしてぐったり動かなくなったその人を部屋の中に運んでから、私は兵士の波に入っていった。

数日間の野営も剣を磨くのも焚き火を囲んで見張り番をするのも、全てが懐かしく思えた。

真っ赤なテントの中にベルナルト様がいるのを見つけた。私はバレないように身を隠した。

朝日が昇るのと同時に鐘が鳴った。出陣の合図だ。私は自分の体が震えているのを感じた。懐かしいこの感覚にずっと浸っていたいと思った。

私は男たちと一緒に駆け出した。剣を高く上げ、振り下ろす。一人また一人と斬りつけながら進んで行く。ラウルの存在が恋しかった。今は背中を預けることができる顔見知りの戦友などいない。敵にも味方にも素性の知れぬように立ち回るしかない。

私は戦場の真ん中で舞った。金色の髪も白い肌も灰色の鎧も剣も血飛沫で赤黒く染まっていた。

「あの悪魔は何者だ」

戦場は騒ぎになっていた。そんなことはどうだっていい。今は剣を振るうことだけを考えていたい。

でも何かがおかしいと思った。私は味方の数に対して敵の数が聞いていたよりも多く感じた。これはいけない。負けてしまう。私は自分の陣地に帰ることにした。サッと身を引いた私に敵が斬りつけようと剣を振るう。私は剣を剣で受けて相手を倒し、それを繰り返しながら自陣へ戻った。

鎧姿の私に、ベルナルト様は直ぐに気付いた。

「どうしてお前がここにーー」

「この布陣ではいけません」

私は驚いた顔のベルナルト様を遮って言った。

「なんだと?」

側近の一人が不服そうに私に突っかかってきた。周りを見ると、綺麗なままの鎧姿の側近たちばかりで、血塗れの私は場違いのように感じられた。玉座に座るベルナルト様とベルメール様が重なって見えた。

「お前、何者だ。持ち場に帰れ」

側近は言う。けれどベルナルト様は違った。

「待て。話を聞こう」

ベルナルト様は玉座から降り、側近たちが囲む地図が広げられたテーブルまでやって来た。

私は戦場で感じた全てのことを話した。この布陣ではおそらく勝てないことも。側近たちは耳を貸そうとはしなかったが、ベルナルト様は違った。

「分かった。ならばこうしよう」

ベルナルト様は戦略を改めた。私と二人で考えた戦略だった。ベルナルト様は山の上に拠点を移して戦を見守理、私は戦場で走り続けた。数日後、敵は撤退し、我が軍の勝ちが決まった。

祝賀会は豪勢なものだった。私は王女としてドレスに着替えて参加した。

その夜だった。ベランダでベルナルト様と二人きりになった。

珍しくベルナルト様は酒に酔っていた。

「私はお前が戦場を駆ける姿を見て確信したんだ。お前の本当の姿を」

「え?」

「まさかとは思ったのだ。ベルメールという名を聞いた時に」

ベルナルト様はポツリポツリと言葉を紡いだ。

「お前の前世は戦士ルディアではないかーー?」

戦士ルディア。

その名前を聞いた時、私は全てを思い出した。自分の名前だけでなく、家族構成も人生もどう生きたかもどう死んだかも。

「ラウルもあの時死んだのか……?」

「いや、戦士ラウルは生きていた。伝記によると王ベルメールも」

「本当か……?」

「これを読んで欲しい」

ベルナルト様は懐から一冊の小さな本を取り出した。子どもが読むような伝記だった。何度も何度も繰り返し読んであるのが本の擦り切れ方で分かった。

「私は憧れたのだ。このルディアという戦士の生き様に。王を護って死んだその忠誠心に。いつか夢の中でもいいから会ってみたいと子どもの時からずっと思っていた。まさかこんな形で会えるとは」

ベルナルト様は跪いて頭を下げた。

「やめてください」

私は同じように跪いてベルナルトに縋った。

「今の私の王はベルナルト様だけだ。私は体こそ女だがそれ以外は全てルディアそのもの。今ならあなた様の為に死ぬことだってできる」

ベルナルト様は嬉しそうに笑った。

「私は私のために死なせはしない。私のために生きてくれ」

ベルメール様とベルナルト様はやはり違うのだ。

「実はラウル殿には一度お会いしている」

「なんだって?」

「この街までやって来て、この小さな伝記をぜひベルナルトに、と。かなり年を召されていたが水色の宝石のような瞳は輝いていた。特に戦士ルディアと国王ベルメールの話になると屈託無く笑ってお話しされていたよ。その数年後、お亡くなりになったと人づてに聞いた。ベルメール様はこの国の王の祖先だ。ベルナルトという名の”ベル”はベルメール様から継がれたもの」

そんな所縁があったのか。私は自分の死後のことを知れて良かったと思った。

「話してくれてありがとう」

私は彼からの話を聞いて心に決めたことがある。

「もう私は女王には戻れないよ」

そう言って腰にあった短剣で自分の長い髪を切った。金色の髪が夜風に舞ってどこかへ飛んで行く。

「私は王女ミアではない。戦士ルディアだ」

私は自分自身を確かめるように呟いた。

「男として、戦士として戦うことを心に誓う」

私は左胸に手を置いてベルナルト様に忠誠を誓った。


翌日、私は国王ベルナルトから剣を与えられた。そして女王ミアが死んだことも。国民は悲しんだが、私はやっと自分らしく生きることができることに喜びを感じていた。短い金色の髪が誓いの証だった。


数年後、国は再び戦争になった。私は当然のように戦場で剣を振るった。ベルナルト様はもうなにも言わなかった。戦友も何人かいた。彼らと背中合わせで戦った。死ぬ者生きる者入り乱れるこの戦場こそが戦士ルディアの生きる場所だった。


数十年後、戦士ルディアの生き返りが伝説となって戦記に載った。戦士ルディアの生き返りも、国王ベルナルトの代わりに死んだと伝記にも記された。その顔は死んだ後でも安らかに、満足そうな顔だったーーと。


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