出会い ①
空を覆う黒雲から激しい冷雨が降り注ぎ、白波の合間で激しく揺れる一隻の漁船が嵐に弄ばれていた。
船には二人の漁師が乗っていた。
必死に舵を取る老人と甲板で忙しく動き回る青年は、祖父と孫であり、師と弟子でもあった。
「っ! じっちゃん! 右からでかいのが来る!」
「早く何かに掴まっておれ!」
青年は船の手摺にしがみつこうと手を伸ばす。
しかし遅かった。高波は甲板のあらゆるものを洗い流し、その激流に晒された青年は水の箒で吹き飛ばされ、嵐のうねりの渦中へ落ちた。
手足を懸命に動かしてなんとか海面に顔を出そうとするが、次々に襲い来る波のおかげで息ができない。
耳には孫の名を叫ぶ祖父の声が微かに聞こえた。
船に近づこうとするも体は意思に反してどんどん船から離れていく。
体は冷え、息も苦しく、足掻けば足掻くほどに体力が奪われて、間もなく彼は海中へ没した。
彼は暗い海の奈落へ沈む間、自分の人生を振り返る。
常に死と隣り合わせの仕事と覚悟はしていたが、いざその時が来たのだと思うと、無念で、情けなくて、涙が海に溶けていく。
もし、もう一度生まれ変わることが出来るのなら……。
そのすべてを考える間もなく、彼の意識は深海のように黒に染まった。
彼の魂は肉体を離れ、なにか強い力に引き寄せられるように更に海の深みへと沈んでいく。
やがて魂は人類が未だ到達していない大海溝の最深部まで至ると、光なき世界に刻まれた大地の亀裂から眩い輝きが溢れ出した。
光は彼の魂を包み込むとたちどころに消え去り、海は再び暗黒に包まれた。
そして彼の魂は新たな生を得た。
失われていた意識が再び息を吹き返した。
やがて時は流れ、彼は生まれ変わって尚も、青く豊かな異界の海にいた。