テレビによる衝撃
空から降り注ぐ光が不破 康太の肌をジリジリと照りつける。
夏の昼間の気温は何年か前から急激に進んでいる地球温暖化の影響でここ名古屋ですら最高気温が45℃もなると言うほど暑く汗が滝のように流れ出てくる。
「暑すぎるでしょさすがに…」
正気が保てず、発狂してしまいそうな気持ちを独り言を言って誤魔化す。
耳を刺激するセミの鳴き声が煩わしく大きく声を上げる。
「あー!暑い!」
外装は石でできていてとても重厚感のある86階建てほどのマンションが目の前にそびえ立つ。
摩天閣を思わせるそれの13階に今回の訪問の目的の人物——榊 柊弥——が住んでいる。高層ビルのような見た目をしているが決して珍しい訳ではなく、家賃自体は一般人が手を出せる程度に良心的に設定されている。
しかし日照権などの問題があり周りに十分なスペースを確保することを考えると住宅地を造った方が地震が起きた際など、安全面的にも良いのでは、という専門家の意見もある。
「うわぁー、凄いなぁ」
感嘆の声を漏らす康太はエントランスへと歩を進める。
・ ・
「あぁー!もう、お兄ちゃんに勝てない!!」
「まだまだだな雫、詰めが甘いんだよ」
机に突っ伏している雫と、その対面に座りチェスの駒——ナイトの駒——をくるくると器用に指で回す柊弥。
「もう一回戦やるか?」
ドヤ顔の柊弥を睨みつけ手足をバタバタとさせて「もうやめ!疲れた!」と叫ぶ雫。
「もう12時過ぎだけど康太さんほんとに来るの?」
首の凝りをほぐすように首をぐるりと回す雫に柊弥が答える。
「そういや遅いな、昼頃っていうぐらいだからそろそろ来るはずだけ——」
ピンポーンとインターホンの音が二人の耳に入る。
柊弥がよいしょ、と実際に声を出し立ち上がると玄関に向かって歩いていくと施錠を解除する音がした。この家——正確にはここのようなタワーマンションでは施錠が鍵ともう一つ、暗証番号による解除を必要とする電子ロックの二つが主流になっている。これは階数が多いが故に監視カメラや警備員——ドローンだが——を設置する費用がかかる為、安価で防犯性の高い電子ロックの方が良い、という考えからである。実際に何年か前に実装されてから空き巣などの犯罪が半数以上減った。
「よう、康太」
「康太さんいらっしゃーい」
「うん、お邪魔しますってあれ?いまの雫ちゃん?」
靴を脱ぎながら聞いてくる康太にそうだ、と答える。
「ていうか昼頃って時間が曖昧過ぎるだろ」
「ごめんね、何時に着けるかわからなかったからさ」
ハハハ、と誤魔化すように笑う康太を一瞥しリビングに入ると康太が口を開く。
「今日は買い出しに行くんでしょ?雫ちゃんも来るの?」
「んー、どっちでもいいんだけどー」と小首を傾げて考える素ぶり見せる。
バーベキューの食材だよねー、と独り言を言っている。
「お兄ちゃん達だけだと、材料がお肉ばっかりになっちゃいそうだからあたしもついてくよ」
うんうん、と自身に頷く雫に異議を申し立てる。
「そんなことは…ない、と思う」
言ってる途中に自信を失い言葉の最後は聞き取れないほど小さくなっている。
そこに会話を繋ぎ止めるように康太が口を開く。
「でもさ、アレックスが炭を持ってくる担当でよかったよね」
「あー、アレックスなら食材の全部が肉になっててもおかしくない」
「そんなに困った人なんだアレックスさんって」
若干引いている雫だが、それを無視して康太は話を続ける。
「そういえばさ、中学の林間学校で作るカレーにフルーツポンチ用のナタデココ入れてたからアレックスに料理系任せないほうがいいよ」
眉間に皺を寄せて驚愕する雫の横で柊弥が唇を引きつらせる。
その様子を見た康太がクスリと笑うと視線が柊弥と雫が使っていたチェス盤に動く。
「チェスしてたの?二人とも」
聞く康太に柊弥と雫は、頷き返す。
「暇さえあればやってるイメージがあるよ」
呆れたような声を出す康太に雫が反論をする。
「だってお兄ちゃんに勝てないんだもん!」
「お前はいつまで経っても俺には勝てないぞ」
「なんだとー!」と渾身のパンチを繰り出す雫だがあっさりと柊弥に止められ目を潤ませながら康太に救いの目を向けるが「アハハ…」と苦笑いを浮かべるだけだった。
「まあ、なんでもいいけどよ。俺が用意してる間テレビでも見て二人で歓談でもしといてよ」
そう言うと柊弥はテレビをつけて着替えに行く。
CMが流れているテレビのチャンネルを変える康太。
「お、ニュースやってるじゃん。雫ちゃんは、この番組でいい?」
「なんでも大丈夫です」
と、愛想良く答える雫。
しばらくニュースを眺めているとアナウンサーの女性のインタビューが始まる。
〈「こんにちは皆さん!今回はヒューマノイドロボットの開発をしている大企業ノーデンスの雨宮社長にお話を聞いてみたいと思います」〉
女性リポーターの発した言葉の一部で雫がピクリとも跳ねるような仕草をした。
〈「こんにちは、私は株式会社ノーデンスの社長、雨宮 日向だ。今回は未だ日本ででしか開発できていない新型の軍事用ヒューマノイドロボット“タブリス”について紹介しようと思う」〉
この言葉に康太は、身動きが取れないほど耳が釘づけになってしまった。
この第三次世界大戦が終わっていない状況での紹介ということは今後、確実に日本から仕掛けるということだ。そしてその際に戦争に赴くのは康太たち——若い世代——の仕事である。
〈「この“タブリス”は、人と全く同じ見た目をしている為、敵陣に有益な情報を渡りにくくなっていて食事も、栄養にならないが食べることができるようになっている。
そして重要な機能が二つあるのだが。
一つ目は、人間の意思を持って遠隔操作ができるということだ。これは人間の意識そのものをロボットに送るため最も人間に近い動きができるということになる。ただ未だ実験段階なので確実かどうか発言しかねる。
二つ目は“タブリス”の動力源となるものだ。大脳辺縁系によって起こされる情動の変化を抑制するエネルギーと欲求を生み出す大脳新皮質によるエネルギーの衝突を動力源とし身体能力や生物としての機能を大幅に増幅させることができる。
これによって搭乗者の選別が必要になるが合ったものが使えば絶大な力を得られるだろう」「ありがとうございました以上現場からでした」〉
衝撃だった。そんなものを人間が作っていいはずがないと康太は考えた。このインタビューによる説明では不十分な点も多々あるがそれは意図して隠しているのだろう。
着替えが終わり途中から聞いていた柊弥と雫も固まっているその顔は恐怖や不安など数多の感情によって塗り潰されていた。
「さ、さぁ、買い出しに行こうよ」
気を利かせて言葉をかける康太によって二人は我を取り戻した。
「あぁ、い、行こうか」
さぁ、と手を差し伸べると動揺したままの雫が手を取って立ち上がる。
愕然としている雫と柊弥と康太は、そのまま家を後にする。
・ ・
薄暗い部屋の中に灯る光は二つパソコンにしては大き過ぎるそれは白い光を放つ。
そしてもう一つ、人が入れるほど巨大なカプセルから発せられる青白い光。
その二つが部屋の輪郭をぼんやりと写し出している。
カプセルの中の少女を慈愛顔で見つめる男——雨宮 日向——がパソコンのエンターキーを押す。するとカプセルの発光が一層強くなり雨宮 日向が顔を顰めるほどに強烈な光になり部屋の全貌が明らかになる。
——そこには数多くのコンピューターが並んでいた。各画面にはパラメーターが表示されておりその一つとして同じものを表示していなかった。
その天井には古びて明かりの灯らないシャンデリアが四つありそのどれもが昔には多くの者が感動するほどの芸術性であった。
「この計画が成功すればこの国は世界一となれる。頼むぞ」
ニヤリとカプセル——カプセルの中の少女だが——を眺めるとはらりと白衣を翻し部屋を後にする。
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