平和な日常
「逃げろ!お前たちだけでも!逃げるんだ!」
そう叫んだ父は、俺と母と妹を残して数多くいる犠牲者の中の一人となった。
2073年に起きた第三次世界大戦は、今もなお人々に恐怖と苦しみを与えている。
当時7歳だった俺は、初めて怒りを覚えた。自分の父を奪ったヒューマノイドロボットに、そしてなにも守ることのできなかった自分自身に対して。
————時は過ぎ13年後
「榊くん!榊くん!聞いているのかね!榊 柊弥くん!」
教授の呼ぶ声に我に返った。なんの話をしていたのか思い出せない。
「あっはい!…なんの話でしたっけ?」
「だから!レポートの提出が夏休み明けだから忘れないでくれと言ったんだ。」
俺は、いつもレポートを最後にだしているがそれはわざとじゃない。極力はやくだすようにしてそれなのだ。
わかっていると返事をしようとすると教授がはぁとため息を吐いた。
「明日から夏休みだからといって浮かれてばかりいないでくれよたまえよ」
そう言い残しその場を去って行く教授をちらと見て食堂へと足を運ぶ。
・ ・
食堂に入ると、嫌でも目に入ってくる金髪の男と、黒髪メガネの男が真四角のテーブルに向かい合うように座っていた。
その人物たちこそが目的の人物だ、二人がこちらに気づいたようなのでよっと挨拶をする。
「よっ!柊弥!」
最初に挨拶をしてきた男の名前は、アレックス・パワーズ。アメフトをやっていて顔立ちは整っているがゴツくそれに似合うガタイをしている。体が強く頭は弱いそんな男だ。
「遅いぞ、柊弥」
メガネを中指でくいと上げて挨拶をしてくる。アレックスとは異なりどちらかと言うと細い部類に入る体だが細すぎず太すぎないので丁度いい体型と言えるだろうその男は、不破 康太。パソコンや電子機器の扱いは、とてつもなくうまくアレックスとは幼馴染のようだ。
「ごめんごめん、教授から話されててさ」
そう弁明し二人とは、反対側のイスに腰をかける。
言い訳じみた言葉に少し訝しげな視線を向けながらも納得した、というか納得せざるを得ないことに心当たりがあるようで優しげな視線を送ってきた。
「柊弥は、提出期限とか守らなさそうだしな!」
ニカッと笑いながら痛いところを突いてくるアレックスに康太は「言ってやるな」とため息をつく。俺ってそんな信用されてないんだなーと悲しい気持ちになってくる。
「まぁよ、一人暮らし始めたばっかだからやることいっぱいあるんじゃねーの?」
「そういうことにしとこうか」
ふっと笑いながら言う康太が憐みの視線を送ってくるので話題を変えようと話し出した。
「それで?来週のバーベキューの話だろ?どうすんだよ」
咄嗟に出てきた言葉で話が変わりすぎて逆に不自然じゃないか?と不安に思ったがそんなことはなくアレックスは、思い出したとばかりにポンと手を打った。
「そーだった!その話がしたくて呼んだんだったな!」
ハハハと誤魔化すように笑うアレックスにお返しとばかりに嫌味を言った。
「まったくしっかりしてくれよアレックス、忘れっぽいのはお互い様じゃないか」
と言うがそれはアレックスに届かず、すまんと軽く謝られただけだった。
そして、げふんげふんとわざとらしい咳払いをして話し始めた。
「それで、話なんだけどよ場所を決めないとダメだろ?」
そうだった。大まかな話ならでていたが具体的な話を何一つしていなかった。
「じゃあ柊弥の家の近くの河原なんかどうだ?」
言うアレックスに付け足すように康太が話し始める。
「いいと思うよ、あそこなら山に囲まれてるし川の流れも緩やかだから安全面もばっちりだね、柊弥はどう思う?」
断る理由が見当たらないためコクリと頷いた。
「柊弥の家の近くだから食材を柊弥と康太が買ってきてくれ、俺は炭を持っていくからよ」
康太が頷いたのを確認してから俺も同じように頷き返す。
「それじゃあ今日は、もう帰ろうか」
康太が言い出し立ち上がるとそれに続くように立ち上がり食堂を出た。
外は、すでに薄暗く星が煌びやかに光っていた。
「じゃあな!」
そういい手をヒラヒラと振るアレックスにじゃあといい校門を出て左に歩き出す。康太がこちらを見てそういえばと話し出す。
「柊弥って明日何か予定ある?」
康太がこちらを伺うように聞いてくる。
「ないよ、ちょうど暇してたとこ」
答えると康太は、こちらを見たままよく見なければわからないほど少し唇の両端を吊り上げニコッと笑った。
「ならよかった、昼頃から柊弥の家に遊びに行くから家にいてくれよ」
「わかった」
やりとりをしているうちに交差点にたどり着いた。周りには、ショッピングモールやコンビニが立ち並び賑やかな印象を受ける。康太の家は、この交差点を渡った先にある。
「また明日ね、柊弥」
右手をひらひらと振る康太にじゃあと挨拶をした。周りを見渡すとこの街では、忘れ去られてしまうような公園を見つけ歩を進めた。ボロボロなわけでもなく新しいもののようには、感じられなかった。興味本位で公園に入りベンチに座り横になる。
「ベガ、アルタイル、デネブ…か」
呟くように口にだすその言葉は、過去の記憶を思い出してくれた。
(「ねえねえ榊くん」「なに?」「あれがベガでそっちがアルタイルでこっちがデネブって言うんだよ」)
そう教えてくれた幼い頃の友達。雨宮 楓だ、俺の転校の所為で離れ離れになってしまった、そして俺の初恋の相手。きっと彼女は、俺のことを忘れてしまっているだろうと虚しい気持ちになるがいまさら後悔したって遅いことだあの時、なんの挨拶もできなかった思いも伝えられなかった情けない自分を恥じる時期は、もう終わったのだ。そう自己完結をして、立ち上がった。
「さて、帰るか」
空は、暗褐色によく似ていて先ほどまで夕方だったが夜になっていると教えてくれた。
・ ・
「ただいま」
一人暮らしをしているため誰も返答がないとわかっていてもつい癖で言ってしまう 現在実家には、妹と母親の二人で住んでいてたまに俺が様子を見に帰る程度でこの頃は、いろいろと忙しく家に帰れていない。
母は、割と大手の企業に勤めていて生活に不自由もなく、仕事も軌道に乗って本人曰く順風満帆らしい強がりなのか本当なのか定かでないが本人が言うのなら問題ないだろうと思っている。
「おかえりー」
「え?」
最後まで読んでいただきありがとうございます!初投稿ということですが是非とも次話も読んでいただきたいです!週に一つと更新ペースは遅いですが暇潰し感覚で読んでいただけると幸いです。なにとぞこれからもよろしくお願いします。