第八話 『護衛任務 前編』
※アンリの名前が被っていたので、魔法使いの方をアリサに変更しました。
それから三日後。
俺達『神へ至る道』はある商隊の護衛任務の依頼を受けていた。
実はあの後、ジーナから護衛任務の斡旋をされたのだ。護衛任務を発注してきた商隊の一人とジーナが顔なじみということで、良い冒険者は居ないかと聞かれたところ、俺達を紹介してくれたらしい。
護衛任務は、基本的に商人が町から町へ商品を運ぶ際に、道中の護衛として依頼することが主だ。
魔物の遭遇率はそこまで高くないのだが、盗賊に遭遇してしまう可能性はあるし、そこでケチっていては商売などやっていけない。依頼料だが期間や場所、危険度合などで決まる。
護衛任務は他に発注されている依頼よりも高めに設定されることが多いが、今回の護衛任務はそれに輪をかけて良い金額だ。
ジーナに詳しい話を聞くと、商隊が向かう場所は王都から北へ三日ほど掛かるシリウスという町で、町の滞在期間は一日、行き帰りの六日を含めて約一週間の日程だ。
通常であれば、その日程なら一人当たり金貨一枚くらいが相場だそうだが、今回は金貨一枚と銀貨五十枚と報酬額が高い。俺達は三人だから達成出来れば金貨四枚と銀貨五十枚になり、新調した武器と防具の代金を差し引いてもお釣りが来る。
何故そこまで報酬額が高くなっているかというと、道中に通り過ぎる森が原因らしい。十日程前からオークの群れが出現し、森を通る人間に襲いかかってくるそうで、殺された人も数名いると聞いた。
オークは人間とほぼ同じくらいの背丈をしているが、その顔は豚に似ており、ゴブリンよりも知能が高いものの、基本的には人間を殺す、犯すことしか考えていない魔物である。そしてゴブリンと同じく繁殖能力が強い。武器は棍棒を使用することが多いが、鉈に斧、剣、槍など、様々な武器を使いこなす。
ゴブリンに比べれば強いが、単体を相手取るのであれば、鉄等級冒険者でも十分倒せる魔物の部類に入る、と言われている。
だが今回厄介なのは、オークの数が二十匹近くいるということだ。森を迂回してシリウスには行けず、かといって備えもせずに森に入るとオークの群れに襲われ命を落とすか、運良く逃げられても商品はめちゃくちゃにされてしまう。
その為、シリウスでは王都からの商品を待ち望んでいる人も多い。
ジーナからそのような経緯があることを聞いては、俺達に依頼を断るという選択肢などなく、勇んで依頼を受けた。
但し、もちろん護衛に就くのは俺達だけじゃない。何せ馬車の数は五台。御者が各一人と商人が全部で三人である。とてもじゃないが俺達三人じゃ、二十匹近くものオーク相手に護衛しきれないし、所詮鉄等級になり立ての初心者だ。それに俺達だけで護衛に就きます、と言われて安心出来る人はいないだろう。
俺達の他のパーティーは銀等級一人に鉄等級四人の五人パーティーと鉄等級四人組のパーティーの計十二人だ。
オークが二十匹以上現れることを考えると、少し心許ない人数のような気もするが、銀等級冒険者というのは、一人で鉄等級冒険者五人に相当する力を持つと言う。銀等級冒険者になれば一流だ、と言われる所以でもある。
他にも銀等級パーティーに一人、風と水の属性魔法が使える『魔法使い』がいるのと、鉄等級パーティーに一人、回復魔法が使える『治癒術師』がいるというのも大きい。
まぁ、俺も回復魔法は使えるし、エルザもいざとなれば火属性魔法を使えるので、このメンバー構成なら何とかなるだろう……但し、エルザの場合は熟練度が低いので初級魔法を一・二回使用するのが限度だが。
◇
出発当日の朝、集合場所である王都の門に集まった俺達の前で、商隊の代表者が挨拶をする。
「皆様、今回は我々の依頼を受けて戴き、有難うございます」
「各パーティーの冒険者の方々は今が顔合わせかと思いますので、出発前にお互い自己紹介を済ませておいて下さい。
十分後に出発致しますので」
商隊の商人や御者が出発の準備を始めている間に、冒険者パーティーが一所に集まると、三十代と思われる男が話し始める。恐らく彼がBランク冒険者だろう。彼のパーティーは男三人、女二人の五人パーティーだ。
「じゃあ自己紹介といこうか。俺がこのパーティー『氷虎』のリーダーのボルグだ。
今回参加する冒険者の中で唯一の銀等級の剣士でもある。
ランクと人数的に今回の護衛の指揮全般は任せて貰いたいんだが、問題はあるか?」
ボルグが周囲を見渡す。
俺達やもう一組のパーティーも異議を唱えなかったので、ボルグはそのまま話を続ける。
「うちのメンバーは他に剣士のジャック、重戦士のバルガス、弓使いのネイ、『魔法使い』のアリサだ。
アリサは風と水の能力を授かっていて攻撃魔法が得意だが、まだそこまで熟練度が高くなくてな、一度の戦闘で五回使用出来ればいいほうだと思ってくれ。
他の三人も、それぞれの武器に特化した能力を持っているとだけ言っておく。
俺は、自分の武器に氷属性の付与が出来る能力を持ってる。まぁ、そこからつけたパーティー名だ」
ボルグに続いて、二十歳前後と思われる女性四人組が自己紹介を始める。
「『風精霊』のリーダーのアンナ、双剣使いよ。
隣りのアンリは短剣。その隣りのミーナは槍使い。
能力は同じくそれぞれの武器に特化したものを授かってるわ。
一番奥のミーシャが『治癒術師』よ。
ミーシャの回復魔法の使用回数もせいぜい一日に五回が限度ってところだから、あまり期待はしないでね。
後、私たちの顔を見て分かると思うけど、私とアンリ、ミーナとミーシャがそれぞれ双子の姉妹なの」
そう言って笑う二組の双子姉妹の顔はお互いが全く同じで、装備に違いがなければどちらがどちらか判断がつかないだろう。
二組のパーティーの自己紹介が終わったので、次は俺達の番だ。
「俺は『神へ至る道』のリーダーでカーマインと言います。
剣士ですが光属性の魔法と回復魔法も使えます。
こっちがエルザ。同じく剣士ですが、火属性の魔法が使えます。但し、熟練度が低いから日に一・二回程度しか使えません。最後が俺の兄のエルリック。俺と同じ剣士で、身体強化の能力が使えます。
後、俺達はまだ冒険者になって一週間も経ってない新米です。
今回の任務において、荷物にならないように気をつけるので宜しくお願いします」
俺がそう挨拶すると、他のパーティーは訝しげな表情をした。『氷虎』のリーダー、ボルグが口を開く。
「冒険者になって一週間? それなのにもう三人とも鉄等級になってんのか?
それに三人中二人が魔法も使えて、しかもお前さんは回復魔法も使える?
何だかワケの分からんパーティーだな……」
その言葉には同意だが、俺としては苦笑するしかない。
「俺達が魔法を使えるのは本当ですし、後は実際に戦闘になった時に見てもらうしかないですね。
鉄等級になれたのは、ただ単に運が良かったからですよ。
それに鉄等級よりも貴方のような銀等級になる方がよっぽど大変でしょう?」
「はっ、そりゃあ違いない。ま、本当に魔法が使えるなら今回の護衛も楽になるってもんだ。
頼りにさせてもらうぜ」
ボルグは笑いながらそう言うと他のメンバーも納得したのか、同じように笑いながら頷いた。
その後、ボルグを中心にオーク遭遇時の戦闘陣形や戦闘スタイルなどの情報交換を行ったあと、商隊の準備も整ったということで、出発となった。
今回の移動では護衛も含め、全員が馬車に乗る。移動速度とオークに遭遇した際に護衛が疲弊していたのでは話にならないという理由からだ。
通常、盗賊などの人間に対応するのであれば、護衛がいるぞと分かりやすくする為に目立つようにするのだが、今回はオークが相手なのでそこまでする必要はない。奴らは護衛がいようといまいが関係ないのだ。
五台の馬車のうち、先頭の馬車に『氷虎』の三人が乗り、二台目に残りの二人、四台目に『風精霊』の四人が。俺達『神へ至る道』は一番後ろの馬車に乗る。
馬車の数が五台ということで割とバランスの取れた配置になっている。前方から襲われようと後方から襲われようと即対応できる布陣だ。
冒険者になり立てと言っていた『神へ至る道』が一番後ろなのはおかしいと思うかもしれないが、二人魔法を使える人間がいるということと、流石に女性ばかりのパーティー『風精霊』を一番後ろに配置をするようなことは、ボルグも考えていなかった。
◇
王都を出発した初日は、魔物はもちろん野盗なども出てくるようなことはなく、安全に初日の目的地まで着き、野営を行うことができた。
商人達も御者も各パーティーもそれぞれが各々野営の準備を進める。まあ準備をすると言っても、雨風がしのげればいいので、木の下で持参した毛布に包まるくらいなのだが。
夕食をどうするか思案していたところで、エルザが徐ろに声をかけてきた。
「ね、ねぇ。出発前に宿屋で作って持ってきたんだけど食べない?
あ、ついでにエルリックもね」
そう言ってエルザが見せてきたのはホロホロ鳥のソテーの入った弁当箱だった。
「お! いいのか? ありがとう。じゃあ遠慮なく戴くよ」
ついで扱いされたエルリックも苦笑しつつ、ソテーを手に取り口にする。
「「う、旨い!」」
口の中に入れた瞬間に解けるような、この柔らかさ、この旨み……これほど旨い料理を、こんな場所で食べることが出来るなんて! エルリックもあまりの旨さに何度も頷いている。
「旨いよ、エルザ!
【万能調理】の能力がこれほどとは!」
「あぁ、これを持ってるエルザがいてくれて良かったな!」
「そ、そうでしょっ。これからも期待してくれていいからねっ」
口々に褒め称える俺とエルリックに気をよくしたのか、胸を張るエルザであったが、あまりに良い匂いをさせていたせいか、匂いに釣られてゴブリンが数匹寄ってきた為、後でボルグに怒られてしまうのだった。