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第七話 『束の間の休息?』

 翌日、朝食を摂った後に俺達三人が向かった場所は、冒険者ギルドではなく王都で一番の武器防具屋『ヴィシャス』の前に来ていた。

 王都で一番というだけあり、店は大きく、看板も豪華だ。


 ヴィシャスに来た理由は簡単だ。昨日の戦闘で俺とエルリックのロングソードが刃こぼれをおこしてしまったのだ。


 最弱のゴブリンとはいえ、あれだけの数を倒せば、安物のロングソードでは直ぐにガタがきてしまうのも、当然といえば当然である。


 というわけで新たな武器を求めてやってきたというわけだ。

 予算次第では防具も新調するつもりでいる。レザーだとどうしても防御力に不安が残るからだ。


 エルザにも武器はともかく防具を買おうかと提案したのだが、「必要ないわ」と断られたので、今回は俺とエルリックだけの装備の新調にさせてもらうことにした。


「まいど! 信用第一! 武器と防具の店『ヴィシャス』においでやすー!」


 店に入った瞬間、聞き慣れない言葉で出迎えてきたのは店員と思われる、二十歳前後の眼鏡をかけた綺麗な人族の女性だった。


 髪の色は、やや紫みを帯びた鮮やかな青でラピスラズリのように美しいが、髪は短くボーイッシュな印象を与える。


 だがそれ以上に目を引くものが彼女にはあった。


「わ、私より大きい……」


 話をかけられてからずっと、エルザが食い入るように見つめるその視線の先には、エルザ以上に豊かな双丘があった。

 少なくともエルザよりも二カップ、いや、あれは三カップは上ではないだろうか?

 エルザが釘付けになるのも分からなくはないが……。


「今日は何をお探しやろか、お客はん?」


 そう言いながら歩いて近づく度に形を変えては戻る双丘。

 エルザ、エルリック、気持ちは分かるが凝視するのは止めなさい。彼女は気づいているぞ?

 

「んんっ! あー、すまない。

 聞き慣れない言葉なんだが、どこの国の言葉かな?」

「ああ、えらいすんまへんな。

 バルフレア大陸の東の端にあるウェーレストっちゅう国の言葉ですねん。

 聞き取りにくいっちゅうんなら普通に話せんこともないんですけど……」

「そうだったのか。

 いや、そのままの話し方で大丈夫だから気にしなくていい。

 っと、今日は剣士用の武器を探しに来たんだが、見せてもらえないかな?」

「予算はどれくらいのものをお探しでっか?」

 「そうだな。二本で金貨二枚くらいのものがあればいいんだが、あるかな?」

「そうやなあ。ほな、これとかどうでっか? 

 ミスリル製の剣で一本金貨一枚と銀貨十枚なんやけど、二本とも買うてくれるんなら金貨二枚に勉強させてもらいますわ」


 店員の女性に渡されたミスリル製の剣を鞘から抜いてみると、刀身は美しく輝いている。


 ミスリルは『魔法金属』、即ち魔力を帯びた特殊な金属で、通常の鍛冶では加工することが出来ない。

 重量も他の金属に比べ軽く、しかも丈夫な為、武器や防具の素材として最適で、通常の武器が効かない魔物にも有効だ。


 そんな貴重な素材で出来た剣が二本で金貨二枚とは、お買い得には違いないが、何だか気になるな。


「素晴らしい一品だ。これが二本で金貨二枚とは。

 だが、本来であればこの倍はしてもおかしくないと思うんだが、何故こんなに安いんだ?」


 店員の女性が恥ずかしそうに頬を掻く。


「あー、ここだけの話にしとって欲しいんやけど。

 その武器な? ウチが作ったやつですねん」

「へえ、これを貴女が?」

「こう見えて鍛冶の能力を持ってるもんで。

 たまに作ったやつを店に並ばせてもらってますねん。まあ、下手の横好きっちゅうやつですわ」

「いやいや、これは良い品だよ。

 作り手の気持ちが込められているのがよく分かるよ」

「へっ!? そ、そうでっか……ありがとう」


 店員の女性が顔を真っ赤にして、モジモジしながら礼を言ってきた。


 不意に俺の脇腹をエルザが小突いてくる。その後ろではエルリックが「フラグが立ったな」と呟いているが……何なんだ一体。剣のことを褒めただけなんだが。


「んん。じゃあ、せっかく勧めてもらったんだ。

 このミスリル製の剣を二本もらうよ。

 後は、金貨二枚以内で鎧と小手も欲しいんだけど、お勧めはあるかな? 

 あ、どっちも二つね」

「おおきに! それやったら今ならこれやな」


 と言って見せてくれたのが、シルバーチェイルと銀の小手である。

 ミスリルと比べると耐久性と重量で劣るが、それでもレザーアーマーとレザーガントレットに比べると段違いの性能であることは違いない。


「もしかして、これも貴女が作ったのかい?」

「えへへ、分かりまっか? 買うてくれるなら今してはる装備の処分も加味して、金貨二枚にさせてもらいますわ」


 正直これだけの装備を全部買って金貨四枚なら買い一択しかない。

 ミスリル製と銀製の装備なら当分の間は使用できるし使い勝手もいい。

 俺は後ろを振り返る。


「兄さん、全部買おうと思うんだけどいいかな?」

「ああ、むしろ買わない方がもったいないぞ」

「だよね。じゃあ店員さん、今見せてもらったのを全部もらうよ。

 装備はここで出来るかな?」

「ホンマおおきに! 奥の部屋で着替えれますよって。後、ウチの名前はトウカ言います。

 トウカって呼んだって下さい」


 店員さんはトウカと言うらしい。だから俺の脇腹を小突くんじゃない、エルザ。

 そしてそれを見て笑うな、兄よ。


 トウカに金貨四枚を支払い、俺とエルリックはミスリル製の剣とシルバーチェイン、銀の小手を装備する。

 特に違和感もないし、戦闘に支障はなさそうだ。


「良い買い物をさせてもらったよ。有難う、トウカさん」

「こちらこそおおきに! 冷やかしでもええんでまた来たって下さい」


 トウカは花を咲かせたような笑みを浮かべている。


「あはは、流石に買い物もしないのに来れないよ」


 最後まで押しの強い人だと思いながら三人で店を後にする。



 『ヴィシャス』を出て、三人で昼食を取ったところで次の依頼を受けるべく、冒険者ギルドへ向かう。


 中に入ると、いつもと変わらず冒険者で賑わっており、受付は混雑している。

 どの依頼を受けるかなとボードを見ていると、何やら俺を呼ぶ声が聞こえる。


 どこから声がするのかと周りを見ると、最初に対応してくれた受付の女性がこちらを手招きしているが、何だろう?


「いらっしゃい、あら? 装備を変えたのね。良く似合ってるわ」

「あはは、有難うございます。それで何か御用ですか?」

「なあに? 用事が無かったら呼んじゃダメかしら、ふふ」


 受付の女性が、手で押し上げるように胸を強調しながらこちらを見る。と、エルザがいきなり口を開いた。


「そうね、用事がないなら呼ばないでくれるかしら」

「あら? 貴女は彼の彼女なの?」

「か、か、かか彼女ですって!? ち、ち、ちちち違うわよっ」


 エルザが顔を真っ赤にして否定する。確かに事実だけどそこまで否定されると少しグサッとくるな……。


「そうなの? じゃあ私がカーマインくんの彼女に立候補しようかしら」


 そう言って受付の女性は俺にウィンクしてくる。


「な、な、な、なななななな!?」


 な、しか言ってないぞエルザ。横ではエルリックが笑いを堪えているが、何を面白がっているんだ……。


「すいません、俺は貴女の名前も知らないんですが……」

「あら? そういえばそうだったかしら? じゃあ自己紹介するわね。

 私の名前はジーナ。二十歳で胸のサイズはGよ。彼氏は募集中だから、いつでもOKよ、カーマインくん」

「な、な、な、なななななな!?」


 同じことしか言ってないぞエルザ。だから笑うんじゃない兄よ。って、さっきも似たようなことをした記憶が……。

 後、ジーナさん。一体何がOKなんですか?


「わ、私だって負けないんだからああああああ!」


 城を出てからというもの、胸の大きな女性と知り合う率が高いような気がするのは気のせいだろうか……ウィンクするジーナとエルザの叫びを聞きつつ、俺は現実逃避をするのだった。


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