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幕 間 『カイルの手紙』

 カーマイン(カイル)エルリック(アルフォンス)がエルザと共にメディス村に到着した頃、スレイン公国第一王子アレクと、第二王子グレイはカンザス砦の視察を終え、スレイン城に戻ってきていた。


 二人の王子達が戻って来たと同時に、文官や近衛騎士から最初に受けた報告は、第三王子カイル及び側仕え兼護衛騎士アルフォンスの失踪であった。


「ええい! カイルはまだ見つからんのかっ!?」

「あの愚弟は禄な事をしないな! 城内は探し回ったのかっ!?」


 アレクとグレイは不快感を隠そうともせず声を荒げるが、それに対する答えはどれも芳しくないものばかりだった。

 その答えに更に二人の苛立ちは増していく。

 二人にとってカイルとは特に害はないが、何を考えているか分からない気味の悪い弟、といった程度の認識しかなかった。

 そんな弟のいきなりの失踪劇だ。二人の衝撃は如何程か。


 二人は幼い頃から宰相と大臣に囲われていた為、兄弟同士で接する機会が全くと言っていいほどなかったのだ。

 普段はアレクとグレイとで言い争ってばかりであったし、歳も離れているということもあり、二人はカイルを放置していた。


 放置して醜い言い争いを終始していた結果が現在の事態を招いている訳なのだが、その事については二人共、全く気付いていないので手の施しようがない。


 何せ、カイルが城から出るなどとは二人とも微塵も思っていなかったのだから。


 しかし、何を考えているか分からない弟であろうとも何かと使い道はある。

 このまま居なくなりましたでは困るのだ。


「こうなったら騎士団を使って公国内の捜索をっ!」

「ならば私は公国内に触れを出して大々的に探してやる!」

「「お、お待ち下さいませ、王子!」」


 二人の王子が暴走しそうになるのを、宰相と大臣が慌てて止める。

 それは今までにないくらいほど息がピッタリであった。


「落ち着いて下さい、アレク王子にグレイ王子。カイル王子の部屋からこのようなものが見つかったと騎士から報告がございました」


 宰相が取り出したのは一通の手紙である。手紙の内容は次のように書かれていた。


『拝啓 

 アレク兄上、グレイ兄上。

 兄上達がこの手紙を読んでいるということは私は既に城には居ないでしょう。

 もしかしたら公国内にも居ないかもしれません。

 私は常々、自身が王族であるということに対して嫌気がさしておりました。

 故に、今回このような行動をとったのですが、黙って居なくなったことに対しては、ほんの僅かではありますが申し訳なく思っております。

 しかし、兄上達や宰相、大臣に話していたらきっと引き止められていたでしょうし、最悪幽閉されていたかもしれません。

 兄上達はスレイン公国の国王の地位に魅力を感じておられるようですが、私は全く感じておりません。

 王族というものにも未練は、砂の一粒ほどもございません。

 ですので、このままそっとしておいて頂ければ幸いです。

 むしろ、騎士団を使って捜索したり、触れを出して失踪した私を探すというのはお止めになったほうが良いでしょう。

 何故ならば、公国民だけでなく、他国にも知られることとなり、スレイン公国、引いてはスレイン王家の恥となりましょう。

 最悪の場合、他国に付け入る隙を与えかねませんので絶対にお止め下さい。

 そこで、私が今回の件について全て丸く収まる案を書き記しておきますのでご一考下さい。

 私は元々社交や外交に携わっておらず、また城から出ることも無かった為、名前はともかく顔は知られておりません。

 それを逆手に取り、私が元々病弱で大病を患い、死んでしまったということにするのです。

 形だけでも大々的に葬儀を行うことにより、公国内外に失踪という事実を隠すことが出来ますし、そこで悲しんでいるフリをすれば弟思いの良い兄達だという噂も広まることでしょう。

 先見の明をお持ちの兄上達であれば、必ずやこの素晴らしい案を実行していただけるものと確信しております。

 それではスレイン公国と兄上達の、今後の発展とご活躍を祈念してお別れの挨拶に代えさせて頂きます』

 

「「……何が素晴らしい案だっ!」」


 二人の王子が、双子らしく息の合った叫び声を発する。

 どう読んでも自分達をバカにしているようにしか思えない内容なのだ、二人とも顔を真っ赤にして憤慨している。


 それに関しては、宰相も大臣も同様の想いを抱いていた。

 ただ、それと同時に心の奥底でえも言われぬ不安を感じてもいたのだ。


 もしも、仮にカイル王子を見つける事が出来、城に連れ戻せたとして、二人の王子や我々にカイル王子を御する事が出来るのであろうか、と。


 少なくとも、ここにいる二人の王子のように御せる自信は宰相にも大臣にも無かった。

 このような思考力と行動力のある相手は、傍に置いておいたところで何をしでかすか分からない。


 御することが出来ないのであれば、手紙の通りにしたほうが無難なのではないか、と。

 至極簡単な答えを見出した宰相と大臣はお互いに目配せし、頷く。


「しかし、アレク王子、グレイ王子。確かにカイル王子の書かれている通り、捜索は我が国の恥となりましょう」

「そうです。そもそも王族が罪も犯していないのに城から出るなど、世界中を見渡しても聞いたことがございません。

 永遠に他国に語られる笑い種となりましょう」

「カイル王子の策にハマるようで、というより実際にハマっているのですが、手紙に書かれている通りにするのが、一番被害を最小限に抑えることが出来るのです」


 宰相と大臣が心の中を悟られぬようにしつつ、必死に二人の王子を説得する。


「ぐぬぬぬぬ! 本当にそうするしかないのかマルコスよっ!?」

「はい、それしかございません」

「……ベラムも同じ意見か?」

「私も今回の件に関しては、宰相に同意致します」


 二人のお目付け役が偽装葬儀に賛成とあっては、もはや二人の王子も否とは言えなかった。



 こうしてカイル王子失踪の三日後、第三王子が病で亡くなったと、スレイン公国内外に発表され、空の柩を使用した葬儀を大々的に執り行った。


 その際に、カイルの指摘通りに悲しんでいるようにやってみせたのだから、やはりこの王子達は単純と言わざるをえない。


 カイルの置き手紙による巧みな罠を成功させた事により、カイルは晴れて自由の身となり『カーマイン』になるのだが、本人がそれを知ることになるのはまだ少し先の話である。


 

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