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第三十二話 『パーティー加入』

 村長の家まで戻った俺達は、村長に野盗を全て捕らえた事を伝える。

 もちろん、アニエスが魔法で捕まえたということも付け加えてだ。

 それを聞いた村人たちが、無数の賛辞や感謝の言葉をアニエスに述べている。

 アニエスの表情には変化が無いように見えるが、微かに口元が上がっているように見えなくもない。

 村長が驚きと称賛をまぜこぜにしたような口振りで、俺達に礼を言ってきた。


「おぉっ……これで村も救われます。本当に有難うございました」

「いえ。無事に依頼を解決できて良かったです。

 といっても、全部アニエスがやってくれたんですけどね」


 俺はそう言ってアニエスの頭に手をやり、数回優しく撫でる。

 アニエスは目を軽く細めて気持ちよさそうな表情を浮かべた。


 その後は、村の入口まで戻り、【大地の抱擁】で固めた野盗達を一人ずつ縄で縛り上げていく。

 野盗の頭を含めた二十二人全員を縛り上げて地面に座らせると、俺は野盗の頭に盗んだ金品の在り処を聞き出す。

 男は、当初は知らないと言い張っていたが、それならばとアニエスにお願いして【岩石弾】を男の目の前で発射させる。


「ヒイィッ!?」


 顔の横スレスレを通り過ぎていく【岩石弾】を目にした頭は、想像以上に動揺した。

 それからは実に大人しく洗いざらいを吐いてくれた。

 アニエス大森林に入ってすぐの場所にアジトを作っていて、そこに今までに盗った金品を隠しているのだと言う。

 ワール村周辺を襲った理由は、ただ単に他の村や町に比べて警備が手薄だったからだそうだ。

 金品については村長に話し、ワール村が受けた被害の補填に使って欲しいと伝えると、村長は目に大粒の涙を零し何度も頭を下げて俺達に礼を言っていた。


 野盗達の処遇についてだが、まず俺達が定期便で王都に帰り冒険者ギルドを通じて、王都の兵士に引取りに来てもらうことにした。

 流石にこの人数を定期便に乗せることは出来ないからな。

 その間、野盗達の食事は一日一度だけにするように村長に伝えておく。

 人間、数日くらいであれば何も食べなくても死にはしないので、これでも優遇している方だろう。

 


 それから二日後、定期便の馬車がやってきた。

 ワール村の村人全員が入口まで集まり、見送りに来てくれた。

 村人の表情は、村に来た時と違い皆笑顔に満ちており、雰囲気も明るい。

 村を代表して村長が一歩前に歩み出る。


「皆様。今回は本当に有難うございました。またこちらに来られるような事があれば村をあげて歓迎させていただきます」

「有難うございます。王都から兵士が来るまでは時間がかかります。

 それまでは注意を怠らないようにして下さい」

「分かっております。皆様も道中お気をつけて」


 俺達は馬車に乗り込み、ワール村を後にする。

 兵士に引取りに来てもらうと言ったが、野盗全員をワール村に残したわけではなく、頭だけは馬車に乗せていた。

 依頼達成の証明の一部として先に冒険者ギルドに提出する為だ。

 


 ――二日後。

 俺達は何事もなく無事に王都に到着した。

 馬車を降りると直ぐに野盗の頭を引き連れて、冒険者ギルドに向かう。

 外壁近くで降ろされた為、冒険者ギルドまでは距離があった。

 王都の外壁付近は軍の駐屯地としても利用されているために、然程住民は住んでいない。

 そこを通り過ぎると住民のための区画エリアに入る。


 この区画にはいくつもの広場があり、今俺達が通っている広場は王都の中でも一番大きい。

 幾人もの露天商が軒を連ねて、採れたてと思える様々な野菜や果物、それに調理済みの食料、日用品などの多様な商品を並べていた。

 当然人通りも多く、店主は大きな声を張り上げて道を行き交う人々に商品を宣伝する。

 ちょうど昼時ということもあり、活気に満ち溢れた広場は当分はこのままだろう。

 俺達は広場の然程広くない通りを歩き進める。

 

 通り過ぎた人々が振り返って俺達の顔を見るが、どうしたというのだろう?

 俺が首を傾げていると、エルリックが苦笑しつつ俺に話しかける。


「このメンバーで歩けば注目を集めるだろうさ。

 というか、以前から王都の通りを歩いている時は似たようなものだったろう?」

「そうだったかな?」

「……やれやれ。魔物と対峙する時のように注意しろとは言わないけど、カーマインはもう少し自分に向けられた視線に敏感になったほうがいい。

 まぁ、注目を集めているのはお前だけじゃないんだけどね」


 エルリックはそう言って俺とエルザとアニエスの顔を見比べてから、周囲に目をやる。

 俺達もつられて周囲に目をやると、誰もが俺達を見ていたようで目が合うと慌てて顔を背けた。

 と、そこでエルザとアニエスを見る。

 エルザは小柄ながら流れるように美しく長い金髪と、きめの細かい肌にクリッとした蒼い瞳。

 赤いロングドレスのような服装は、彼女のお淑やかそうな雰囲気を際立たせている。

 アニエスも翡翠色の長い髪に綺麗な瞳。無表情という点を除けば、誰もが振り返るほどの相貌はまさに女神のようだ。


 そんな二人が一緒に歩いているんだ。そりゃ振り返って顔を見たくもなるよな。

 俺が両腕を組んで頷いていると、エルリックは呆れた声で言う。


「何を納得してるのかは知らないけど、カーマイン自身も見られてるからな?」

「……俺も? 何で?」

「……本当に分かっていないのかい?」


 エルリックが驚きに満ちた顔で目を大きく見開いている。

 何をそんなに驚くことがあるんだ? 

 俺はエルリックの問いに頷いて答えると、肩を落として、それはもう大きな溜め息を吐かれた。


「はぁ……。ここまで鈍感だとは思わなかったよ。

 いいかい? カーマインもエルザやアニエス同様に人の目を引く顔立ちをしているってことだよ。

 女性に対して不用意な発言や行動は厄介事を招くから注意した方が……ってカーマインの性格からしたら、無理なことだったね」


 最後は乾いた笑い声で話すエルリックに、同調する様に何度も頷くエルザ。

 そんなこと言われても、自分の顔なんて気にしたことがなかったからな。

 正直言って良く分からないし、困ってしまうだけだ。

 エルリックは苦笑しながら「この話はこれでおしまいだ」と言って、野盗の頭を連れて通りをさっさと進む。

 何だかモヤモヤしたものを感じつつ、俺はエルザとアニエス、それにリルとともにエルリックの後をついていった。

 

 冒険者ギルドの扉を押し開けると、そこは広場とは違う喧騒に満ちていた。

 右手には多くの冒険者や依頼主が居て、左手にある掲示板にも軽装鎧に弓矢を持った者、杖を持ちローブを纏った魔法使い、大きな盾を持った重戦士などの姿が見える。

 掲示板に張り出されている依頼を見て、どれにするか相談しているようだ。

 俺達はその間を縫うように受付に向かって歩き出す。


 いつもと違い幾多の視線が向けられているように感じるのは、野盗の頭を連れているからだろうか。

 向けられている視線は、好奇に満ちたもの、試すようなもの、下卑たものなど様々だったが全て無視する。

 前を見ると俺達を手招きする人がいた。そう、ジーナだ。

 他のカウンターを見るが、手の空いている受付嬢は他にいない。

 諦めて俺達はジーナの前に立つ。


「お帰りなさい。その様子だと成功したみたいね」

「えぇ。とりあえず野盗の頭だけ連れてきたので、残りは冒険者ギルドか王都の兵士の方に引取りに行って頂きたいんですが」

「分かったわ。それじゃまず今回の依頼の処理をしちゃうから、登録証を出してね」


 俺達は登録証を出して依頼の処理をしてもらう。

 野盗二十一人分の金とポイントは引渡し後なので保留となったが、野盗の頭の分と村からの依頼分についてはちゃんと貰えるようだ。

 ポイントと報奨金を確認し終わると、次にアニエスの冒険者登録と俺達のパーティーへの加入手続きを行う。

 登録証を貰ったアニエスはそれをジッと見て、目を細める。

 今まで気づかなかったのだが、翡翠色の髪の一箇所だけはねており、感情が昂ぶっている時はそれを表現するかの様に動いているのだ。

 今も頻繁に動いているので恐らく嬉しいのだろう。


「良かったな。アニエス」

「……うん。これでカーマイン達と一緒」


 軽く頭を撫でてやると、薄らと分かる程度に微笑むアニエス。

 それを見て俺達の表情も明るくなる。

 アニエスがパーティーに加入したことで、近距離、遠距離とどちらの攻撃も可能になった。

 これで後は防御職と俺以外にもう一人回復師(ヒーラー)がメンバーに居れば、いうことはないんだが。


 ただなぁ……。仲間を募るのは簡単だがリスクも大きい。

 素性の良く分からない者をお試しだけでもホイホイ入れたくはないからだ。

 今後パーティーの事で悩みはしたものの、結局は依頼をこなしてランクをあげようという結論に至るのだった。

 

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