アイスティー
「どうしたの?」と
その声が聞こえた気がして
僕はファミレスのテーブルから顔を上げる
頭に優しい手が乗せられた
そんな感触があった気がして
僕は誰もいない正面の席を見る
だけどテーブルには僕が一人で
ただそこにあるのは
冷たげに氷が乱反射した
まだ飲みかけのアイスティー
乳白色のミルクもない
ただまっさらなストレートティー
ああそういえば
君も紅茶が好きだった
決まっていつも頼むのは
甘い甘いアイスティー
僕はそれを思い出して
コップの中身に口を付ける
口の中の口内炎に
冷気と渋味がやけに沁みた
氷はだんだん溶けていき
気付けば紅茶は温くなって
ただそこにあるのは
もう新鮮さも何もない
薄くなったアイスティー
僕はそれにミルクを入れて
さらにはガムシロップも入れて
一気に全部を飲み干してしまおう
聞こえてきたその声は
暖かかったその温もりは
まるでさっきの氷のように
空の彼方へ消えてしまって
ただそこにあるのは
琥珀色が漂白されて
何もなくなったアイスティー