雑草の生命力ー5
手摺りを力強く握り、後ろから飛芽に背中を押してもらいながら急勾配の石段を登る。頂点を目指していると真っ赤に染まった鳥居が見えてきた。
鳥居の手前で竹林は左右に分かれており、照らす夕日がなお一層鳥居を赤くしている。息も絶え絶えに鳥居をくぐり、オレンジ色の空が大きく開けた場所に出ると足元を見ると階段からまっすぐに石畳が伸びており、辿っていけば大きな社殿へと続いていた。
石段を上る時点で薄々感じてはいたが、どうやらここは神社のようだ。
膝に手を突き、中腰の態勢をとる。申し訳なさそうな面持ちで秋野先輩が駆け寄ってきた。
「ごめんなさいっ! 私だけ先に行っちゃって……」
「いえいえ、さくりゃん先輩はなんにも悪くないですって。ちんたら歩いてるこいつが悪いんですから」
酸素を欲している俺の体が、後ろにいた飛芽にバシバシと叩かれる。
「いち、おう、怪我人、なんだから、な? はぁ……」
「えぇっ! ……そう言えば店長さんがリハビリとか言ってたけど、もしかしてそーくん怪我してるの?」
「怪我してるかって言われると、まあそうですね。でももう治っていてもおかしくないくらいには時間も経ってるんで、あまり気にしなくていいですよ」
「でもでも、治ってないのは確かなんだよね? 無理させてごめんなさい……」
秋野先輩は小さな頭を下げては上げ、そしてまた下げては上げを繰り返す。それと同時に先輩の豊満な胸も同時に上下に揺れ動く。その動きに目を奪われ、俺の視界も上下に移動する。
いやいや、先輩が頭下げてきてるってのに、卑猥な事考えてどうする。
いつのまにか疲れはどこかへ消えている。境内の中は高台というのもあって風通しがよく、吹き抜ける風が体中から流れた汗をひんやりと冷ましてしまっていた。
「いいんですよ。気にしないでください。それより――」
この状態だと秋野先輩は何度でも頭を下げてきそうで俺の理性がもたな――いやいや、それは大丈夫。先輩に申し訳がない。
俺は話題を変えることにした。というよりも聞きたい事があった。
「先輩の家って。神社なんですか?」
上下していた秋野先輩の頭がようやく静止してくれた。
「うん、そうなんだんぁ。お父さんがこの神社の神主をやってて、私たち家族はあそこの社務所に住んでるんだよ」
石畳の続く先に見える本殿と隣に見える大きな樹木、そこから少し離れた位置にある長屋のような建物を秋野先輩は指さした。
「そうだったんだぁ~。私も全然知らなかった」
「あはは。あまり家の事情とか誰かに話さないないし、言っちゃうと周りから変な目で見られそうで嫌だったんだ。神社の娘ってそうそういないと思うから」
「確かに神社に住んでるって人はあまり見かけませんけど、それでさくりゃん先輩の印象が変わるって事はないかな~。私は先輩の事を知れて嬉しいくらいですよ?」
飛芽は秋野先輩の前に立ち、無邪気に微笑んだ。
俺は飛芽のように秋野先輩と仲がいいわけでもないが、別段先輩に対して奇異な目を向けようとも一切思わなかった。むしろ先輩の温厚な性格や、礼儀正しさは神社という環境で育まれたものなのだろう。と予想を立てられるくらいには納得がいく。
「飛芽ちゃん……ありがと。じゃあ、家に上がってくれるかな? 私の部屋に案内したらすぐにお茶入れるね!」
先輩の表情には嬉しそうな感情が溢れ出ていた。本人はそれを隠そうと社務所の方へと走って行ってしまったが、自分がスキップを踏んでいる事に本人は気づいているだろうか?
俺は秋野先輩の微笑ましい姿を目に捉え、飛芽と顔を見合わせた。
こいつのニヤけた面は多分、俺と同じ事を考えているのだろう。
俺と飛芽の目に映っている先輩の姿はどうもかわいらしい。




