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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
98/321

98.美容師~狼達とまったりする

 

 翌日、朝食を取り冒険者ギルドでマッドウルフの討伐依頼を受け、ニムルの森へ。

 

 森の入口付近の草むらを《気配察知》が教えてくれるので、手前で立ち止り《観察》。

 ガサゴソと揺れていた緑の中から、黒い丸がピョコンと飛び出した。


「やっぱりおまえか」


 前足、胴体、後ろ足、1メートル程の狼が草むらから抜け出してきて僕の前で止まる。


「ガァ」


 挨拶代わりなのか、今日もこいつは僕の足を叩いた。

 遅れて草むらから両親が登場。


 母狼は僕を見るなりツンと顔を背けて毛づくろいをはじめた。

 けれど気にはなるのか、チラチラと時折横目で見てくる。


「グァウ」


 父狼が一声鳴くと、子狼が僕の足を叩いて見上げてきた。

 

 なんだ?

 首を傾げる僕に、ついてこいというかのように少し歩いては止まりを繰り返す。

 

 親狼達は草むらに戻って行ったので、子狼とあとを追いかける。

 追いかけたいのだが、僕には生い茂る草むらを進むことが難しく、なかなか進まないので《気配察知》を頼りに迂回することに。

 

 子狼はそっちじゃないと僕の足を甘噛みして引っ張るが、


「こっちから行くよ」


 と告げると、


「ガゥッ」


 大きく鳴いてついてきた。


 そうして辿り着いた場所は泉の手前付近。

 親達は2匹で寝そべり、僕達を待っていたようだ。


 子狼が走り寄って行き、勢いよく飛びかかったがめんどくさそうな父狼の右手の一振りで撃沈。

 軽くふっ飛ばされていった。


 けれど子狼はそれが思いのほか楽しかったみたいで、何度も同じ行動を繰り返す。


 えーと、この光景を見せたかったのか?

 それで僕にどうしろと?

 確かに和むとは思うけど。


 立ちつくす僕を見て、苛立たしそうに母狼が、「ガァァ」と鳴く。

 子狼は遊びを中止し、大きな木の下の草むらに頭を突っ込み、何かをずりずりと引きずってきた。

 

 それは両手を合わせたくらいの葉っぱで、小さな赤い実が山盛りに乗せられていた。

 子狼は僕の足元まで葉っぱを持ってくると、「ガァ」と鳴いて見上げてくる。


「僕にくれるのか?」


「ガァ」


「もしかして昨日のお礼なのか?」


「ガァ」


 用事は済んだとばかりに、子狼は両親の元に戻り、二人の間に無理やり体を入れて横たわる。

 3匹がじっと見つめてくるので、食べろということなのだろうな、と感じ取り腰をおろして木の実を手に取った。


 毒……ではないよな?

 一応、《観察》で確認するがよくわからない。


 なかなか口にしない僕にじれったくなったのか、子狼がやってきて木の実を一粒食べた。

 毒見?


 二粒、三粒と続けて食べ、


「グァウ」


 母狼が鳴くと、怒られたかのようにとぼとぼと元いた場所に戻っていく。

 これは僕の分だから、食べるな! とでも言われたのかな。

 狼親子の会話を想像すると、楽しくなってしまう。


 たぶん、これは狼達からの僕へのプレゼントなのだろう。

 命を救われた借りを返す為に、木の実を集めて僕を待っていたということか。

 律儀なものだな。


 彼らの期待の眼差しを受けながら、真っ赤な木の実を一粒食べる。

 甘酸っぱくて、見た目からも木イチゴを連想させられる。


 こんなものがこの森にあるんだ。

 知らなかったな。


 続けて口に放り込んでいると、子狼の羨ましそうな視線とぶつかった。


「おいで。一緒に食べよう」


 子狼は母狼の顔色を窺うように見ていたが、父狼に行きたいなら行けと鼻先で押されて駆け寄ってきた。

 

 マリーと師匠とメェちゃんにあげる分を手の平で分け、あとは子狼の前に押し出してやる。


「ほら、遠慮しないで食べたらどうだ」


「ガゥ」


 子狼は鼻先を赤く染め、がむしゃらに食べるのだった。




 親狼達もそばに寄ってきて、みんなで寝そべり日光浴を楽しむ。

 子狼は僕の太ももに顎をのせ、リラックスして寝息をたてていた。


 こんな光景をあのDランクパーティーが見たら、驚きと共に羨ましがられるだろうな。

 なんて想像し、込み上げてきた欠伸を噛み殺す。


 こいつらも今日の狩りはお休みだろうか?

 昨日倒したマッドウルフがあれば、数日くらいはお腹いっぱいで過ごせるのかもしれない。


 母狼も目を閉じて眠っているようだが、父狼は時々目を開けて、鼻先を宙に漂わせ辺りを警戒しているみたい。

 

 僕も《気配察知》と《聴覚拡張》で周囲の安全を確かめているが問題はなさそうだ。


 ただ、そろそろ師匠の所に行く時間。

 この心地いい状態から抜け出すのは少し勿体ない気もするが、修行を(おろそ)かにすることもできないので、気力を振り絞って立ち上がることに。


 子狼の下顎に手を差し入れ、そっと持ち上げると父狼が目を開けてこちらを見てきた。


「用事があるから先に行かせてもらうよ」


 体についた土や草を手の平で落とし、


「じゃあ、またな。木の実、ごちそうさま」


 しゃがんで子狼の頭を一撫でし、狼に見送られながらニムルの街に帰るのだった。




読んでいただきありがとうございます。


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