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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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97.美容師~狼に回復薬を使う

 

 腰のポーチから、もしもの時の為にとマリーから持たされていた中級回復薬を取り出し、


「少し苦いぞ」


 忠告してから、父狼の口の中に流し入れ、吐き出さないように体全体を使って口を閉ざすように押さえつけた。


「グゥゥアァァ」


 苦しそうに父狼が泣き声を漏らすが、ここは心を鬼にするしかない。

 父狼に何かあればお前を噛み殺してやるとばかりに睨んでくる母狼の視線が痛い。


 こっちだって好きでやっているんじゃないのくらい、わかってくれないものか。

 その点、子狼は僕に任しているのだろう。

 僕の行動を邪魔することなく、心配そうに父狼を見つめている。


 そのうち、父狼の体から力が抜け、ぐったりと動かなくなった。

 やばっ、もしかして死んじゃった?


 不安になり押さえる力を緩めると、勢いよく顔が振られ軽く吹き飛ばされる。

 

 なんだよ、もうっ。

 それが無償の善意に対してする行動か?


 腰を擦りながら立ちあがり、よろよろと起き上がる父狼を《観察》で見る。

 

 うん、骨折も上手く直ったようだし、血も止まったみたいだ。

 体力までは回復しきれなかったようだけど、もう十分だろう。


「ガアァァ」


 父狼が吠えたので、


「わかってるよ」


 ポーチから初級回復薬を取り出し、母狼の元へ。

 

 自分にも訳のわからない液体を飲まされるのかと、あまりにも母狼が怯えて全力で顔を背けるので、飲ませるのは諦めて体全体に振りかけた。

 

 骨も内臓も平気そうだし、これでいいだろう。

 しばらく待つと、ゆっくりと母狼も起き上がる。

 

 傷が癒えたのが不思議なのか、足でトントンと地面を叩いたりジャンプしてみたり体を捻ったり……最後は気にしないことにしたのかツンと顎を逸らして子狼の傍に歩いて行った。

 

 こいつら、揃いもそろって僕にお礼をするという選択肢はないのか。

 こっちは貴重な中級回復薬まで使ったっていうのにさ。

 

 3匹はじゃれるようにお互いの体をぶつけ合い、舌で舐めあい、不味そうに顔をしかめ、無事を喜んでいるようだった。

 

 そんな光景を見てしまうと、まぁいいか、なんて思ってしまう僕は、やっぱりお人よしなのかもしれないが。

 

 苦笑しつつ、マッドウルフの魔核と討伐部位を剥ぎ取り袋の中へ。

 回復薬の分を差し引いても、収支はプラスにはなるだろう。

 

 失った体力をつける為に、マッドウルフの肉は狼達にあげてしまおう。

 3匹を積み重ねるように移動させ、


「おーい、こいつらでも食べて元気になれよ」


 声をかけると、子狼が走り寄ってきた。


「ガァ」


 見上げてひと鳴き。

 助けてくれたお礼のつもりかな?


「いいよ。お前らには借りがあるしな」


 これで連日のように一角兎を横取りされることもなくなるだろう。

 

 こいつらときたら初日の3匹強奪で味をしめたのか、僕が一角兎を倒すといつのまにか背後に並んで座っていたりするものだから、ほぼ一日置きに獲物を横取りされていたのだ。


 おかげでこいつらの分と自分の分とで、朝早くから討伐に出かけないとノルマが達成できないので、最近早起きで寝不足だったりする。


 昨日は現れなかったので、本来なら今日が献上させられる日だったのだが……もしかして僕がニムル平原に来ないから探しに来たのか?


 それでマッドウルフの群れに襲われた?

 僕がいつものように一角兎を討伐していたら、こいつらはこの森には来なかったし、怪我もしなかった?


 なにそれ、僕のせいみたいじゃん。

 やだやだ、やめやめ。

 考えるのを中止します。


 子狼は頭をぶんぶんと振る僕を興味深そうに見上げていたが、


「グアァ」


 父狼に呼ばれたのか、僕の足をタンと叩いて去って行った。

 さすがにマッドウルフ3匹は持って帰れなかったのか1匹残っていたので、疲れた体に鞭うち引きずりながらニムルの街に帰るのだった。




 冒険者ギルドで討伐報酬を受け取り、魔核以外の部位で師匠に頼まれていない物は買い取ってもらった。


 使ってしまった中級回復薬とその他もろもろを購入すると、今日の収支はプラス1000リム。


 まぁ、お金には困っていないしこんなもんだろう。

 コツコツと日々の依頼で貯めてきたので、現在の持ち金は約12000リムある。


 今日もマリーによる『ギルドカード拝見のコーナー』を終え、「はい、いいですよ」 の言葉と共に返される。


「またレベルが上がりませんね。ソーヤさん、本当は魔物を倒さずに剥ぎ取り部位だけ誰かに貰っているんじゃないですか?」


 そんな疑惑の目を向けられるが、


「まさか、そんなことして何が楽しいの?」


 と返すと、


「ですよね。ソーヤさんがそんな不正をするわけないですよね。でもそれなら、どうしてレベルが上がらないんだろう。今日なんてマッドウルフを4匹も討伐しているんですよ。やっぱりおかしいです。ギルマスに相談した方がいいかも」


 顎に手を当て思案顔になるのを、


「まだ相談はしなくていいよ。もうすぐレベルが上がりそうな気がするんだ! たぶんもう少しなんだと思うよ」


 慌てて思いとどめてもらう。

 もうあんな大騒ぎはごめんだし、自分ではなんとなく理由がわかっているから。


 その答えとは、きっと業突く張りな僕の相棒達が自分達で経験値を振り回し、僕に回してくれていないのだろう。

 なんとなくだが、わかるんだ。


 気配で感じるというか、第6感で察するというか……リリエンデール様の所でした約束は、いつのまに無効化されているのだろうか?


 取り分がおかしい気がするんだ。

 今度こいつらと真剣に話し合う必要があるな。


 心配してくれるマリーには悪いなと思いつつもなんとか誤魔化し、宿に帰る。

 明日は師匠に頼まれていたマッドウルフの魔核を渡すのを忘れないようにしなくては。




お読みいただきありがとうございます。


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