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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
96/321

96.美容師~狼家族を助ける


『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』


 拳大の水の塊が3つ、それぞれ音も立てずに飛んでいく。

 

 本来なら足を狙いたいところだが、3つ同時に発動するだけで精一杯なので狙いが甘い。

 2つがマッドウルフの胴体に当り、1つは外れてしまったが牽制(けんせい)の役目は果たせたようだ。


「「ギャインッ」」


 アクアバレットの衝撃で2匹が悲鳴を上げ、当らなかった1匹は憎しみのこもる目でこちらを射抜いた。

 まぁ、見つかるよね。

 

 子狼に両親の元に行くように伝えようとしたが、すでに走り出していた。

 母狼の横に並び立ち、歯を剥いて威嚇している。

 

 小さいながらも父狼を守っているつもりなのだろう。

 偉いな。

 

 そういうのは嫌いではない。

 僕も頑張るとしますか。

 

 3匹のマッドウルフは態勢を立て直し、赤い目で僕を睨んでいた。

 ターゲット変更ということか。

 

 2匹は攻撃を受けているので、少し警戒をしているみたい。

 無傷の1匹より後ろに位置を取り、左右から回り込もうとしている。

 

 さて、どうしたものか。

 すばやく戦略を練り、右手に持った短剣を一回し。

 

 クルクルクルクル、回転させる。

 こうしていると不思議と落ち着く。

 急く気持ちを冷静にさせるにはもってこいだ。

 

 MPにはまだ余裕がある。

 向こうから来ないならば、魔法でダメージを稼がせてもらおう。


『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』


 同時発動の限界数である3つの礫を狙いもいい加減に飛ばし、タイミングをずらして自らも突っ込んでいく。

 先頭のマッドウルフに集中して飛んで行った水の礫は、頭と足に命中。

 残り1つは、右側のマッドウルフの腰辺りに。

 

 思ったよりもいい結果だ。

 左側にいた1匹も、不意打ちで食らったアクアバレットのことが頭の片隅に残っていたのか、後ろに飛び退いてくれた。

 

 なので先頭の1匹は頭に食らったアクアバレットのおかげで視界をやられ、態勢を崩しほぼ孤立無援状態。

 ここで決めないと、あとが大変になる。

 

 左側から死角をついて周り、右手の短剣で喉を切り裂いた。

 そのまま右前方に飛び込んで、2匹目の噛みつきを姿勢を低くしてかわし、胸を一突きする。

 

 とっさに短剣が抜けなかったので、そのままにして勢いのまま地面を転がった。

 最後の1匹が視界の外に出てしまっていたので、すばやく立ちあがりもう一本の短剣を抜いて構える。

 

 一瞬で仲間を2匹やられたことで怖気づいたのか、歯を剥いて唸ってはいるが逃げるタイミングを窺っているようにも思えた。

 狼家族のことを考えると逃げてくれてもいいのだが……マッドウルフは戦うことを選んだようだ。

 

 左右にフェイントを入れながら、地を這うように向かってくる。

 僕は右手に短剣、左手には予備のナイフを持ち、《観察》と《集中》を使って動きに惑わされないように待ち構えた。

 

 マッドウルフは直前で大きく右に飛び、そこから一気にスピードを上げた。

 わざとトップスピードよりも遅く移動してきて、意表を突いたつもりだったのだろう。

 

 でもスキルのおかげで見抜いていた僕は、焦ることなく振るわれた爪をナイフで回転させて弾き、短剣で喉を一閃。

 

 そこまではよかったのだけど、マッドウルフの体を避け損ねて体当たりを食らってしまい、もつれ込むように倒れる。

 

 うっ……お、重い。

 獣臭と腐臭に覆いかぶされて下になってしまい、なんとか這いずり出すと袖口を引っ張られる感触が。

 

 子狼が袖口を咥え、体いっぱいを使って引きずろうとしていたので、


「いま行くから、ちょっと待って」


 一応、全てのマッドウルフが絶命していることを横眼で確認し、《気配察知》で周囲の安全を確かめながら子狼のあとについていく。


 そこは当然、親狼のいる場所であり、2匹とも地面に横たわっていた。


 《観察》《集中》


 母狼は……大した怪我じゃないな。

 父狼は……そこら中から血を流しているし、右手と右足は骨が折れているかもしれない。


 ダランとさせたまま動かせないようだ。

 ハァハァと荒い息をこぼし、舌も出しっぱなし。

 

 1匹で妻と我が子を庇いながら、かなりの時間耐えたのだろう。

 深い傷も多すぎるし、このままでは結構マズイかもしれない。

 

 子狼がなんとかしろ! とでもいうように、さっきから僕の足に体当たりしてくる。

 わかっているよ、見捨てたりはしないから。




いつも読んでいただきありがとうございます


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