95.美容師~子狼の頼みを聞く
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剥ぎ取り終えたマッドウルフの死骸を木の根元に移動させ、次の獲物を探す。
背後に気配を感じたので振り向くと、草むらがガサガサト揺れていた。
《気配察知》がその対象の小ささを教えてくれているので、たぶんあいつだろう。
念の為、片手に短剣を持ち待っていると、最近では見慣れた黒い鼻先が飛び出てきた。
クンクンと辺りを嗅ぐように宙で動かし、遅れて二つの目があらわれる。
狼家族の息子くんだ。
一角兎を横取りされたあの日以来、時たまあらわれては僕の倒した獲物を奪っていく。
幸い魔核や売り物になる部位は剥ぎ取り終えているし、このマッドウルフをあげてしまってもいいだろう。
肉も売れないことはないが持ち帰るのが大変だし、狼とはいえ子供がおなかを空かせているのは気になってしまう。
「それ、持っていってもいいぞ」
いつものように声をかけるが、子狼は顔だけ出したまま動かない。
何かを悩むように、こちらをじっと見つめている。
「どうしたんだ? お父さんとお母さんは一緒じゃないのか?」
《気配察知》を広げているが、この近くには小さな子狼の気配しか見つからない。
遅れて出てくるとばかり思い込んでいたが、もしかして一人でこの森を行動しているのか?
ビックワームやキラービーくらいなら走って逃げればいいと思うが、さすがにマッドウルフに見つかりでもしたら危ないどころではすまないぞ。
何かおかしい……。
《聴覚拡張》《集中》察知系のスキルにブーストをかけても親狼が見つからない。
迷子?
もしくは非常事態か?
警戒させないように笑顔を浮かべてゆっくり近づくと、コテンと子狼が横に倒れた。
「どうした!?」
もはや気遣いなんてしていられない。
走り寄って草むらの中から子狼を抱え上げると、触れた瞬間は体を硬くしたがすぐに力を抜いた。
《観察》を用いるまでもなく、体中に小さな切り傷があり血が滲んでいる。
腰の革袋から初級回復薬を取り出して傷口にかけていく。
狼の味覚はわからないが、こんなにも弱っているところにあの不味さを味あわせるのはかわいそうだ。
骨や内臓に異常はなさそうなので、とりあえずはこれで応急処置としておこう。
子狼は目を閉じてじっと抱かれたままでいたが、傷が消えていくと僕の腕から飛び降りズボンの裾を咥えて引っ張り始めた。
「グアゥ……グアゥ!」
「わかった。案内しろ」
見上げる視線の必死さが伝わってきたので、ここは付き合うしかない。
走り出した子狼のあとを短剣を握りしめて追いかけた。
10分程走ると、前方から5つの気配を感じた。
2つの気配を取り囲むように3つの気配が動いている。
やっぱり襲われていたか。
もう駄目だと思い、子狼だけでもと逃がしたのだろう。
そして逃げている最中に、子狼は僕の匂いを嗅ぎ取って助けを求めに来たのではないか?
そう推測していた通りか。
《脚力強化》を使い、子狼を追い抜くと同時に片手で脇に抱え上げる。
大きな木の陰に背中を預けて息を整えた。
子狼が腕を噛み、下ろせというように暴れるので、
「今からお前の両親を助けに行くから、ここで大人しく隠れていろ」
目を合わせて言い聞かせてみる。
片手に子狼を抱えたままでは戦いにくい。
ただでさえマッドウルフ3匹は僕でもしんどそうなのに、そんなハンデはごめんだ。
「ガウッ!」
嫌だというように鳴いたので、隠れているのを気づかれてはマズイと、急いで口元を手の平で押さえたらまた噛まれた。
こいつ、自分が助けを求めている立場なのは理解しているのだろうか?
血が出ていないので本気ではなさそうだけど、結構痛いんだよな。
これ以上ここで言い争うのも時間の無駄なので、戦闘開始といこうじゃないか。
マッドウルフに嬲られ続けている親狼も、そろそろ限界のようだし。
あっ、母狼を庇っていた父狼が崩れ落ちた。
子狼がそれを見て余計に暴れるので、下におろして飛び出していかないように足で押さえる。
マッドウルフ達は次の遊び相手を母狼に変えたようだ。
横たわる父狼を守るように前に出た母狼に、3匹が順番に爪を振るう。
僕は深呼吸を1つして逸る気持ちを落ち着け、魔言を紡ぐ。
出し惜しみはなしだ。
最初から飛ばしていこう。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』
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