83.美容師~魔法の才能を調べてみる
「僕には魔法の才能がないんでしょうか?」
涙がこぼれそうになってしまう。
「ソーヤの職業は魔法使いなんだろう? 魔法使いの職業が出たのなら、才能が皆無なはずはないよ。諦めずに頑張ってごらん」
励まされてやる気を取り戻したが、何かコツのようなものはないだろうか?
「師匠、人それぞれと言いましたが、どのようなやり方があるのでしょうか? 参考までに教えて頂けませんか? ちなみに師匠はどうやっているのでしょう?」
「わたしかい? わたしはもう自然とできるのが普通だからねぇ。昔はどうやっていたかねぇ」
記憶を手繰り寄せるようにしばしの黙考。
「ダメだね。思い出せない」
「そうですか」
「あえて言うなら、グッと溜めてパッと出す感じかねぇ」
全然わかりません。
けれど師匠の言葉を信じて試してみることにしよう。
三度、法玉を握りしめる。
スキル頼みは無駄だとわかった。
色々とやってみるしかない。
体の中にあると言われている魔素をこの玉に移動させるのだから……血管を流れる血をイメージしてみるか。
心臓から押し出された血液に魔素が含まれていると仮定して、それが手の平に集まり、小さな傷から染み出てくるイメージを。
ほんのりと手の中が温かくなった気がした。
見てみると、法玉は薄らと赤く色づいている。
ほんの少し、赤みが増したかな程度だ。
「赤色か。ソーヤの適性は火かね。ただ、それにしても色が薄いか……」
手の上で転がる法玉を見て、師匠が呟く。
「ソーヤ、今どうやったんだい?」
「手の平に傷口があって、そこから血が出てくるのをイメージをしました」
「ふむ、変わったやり方だね。なら今度は血じゃなくて、傷から水が出てくるイメージでやってごらん」
傷口から水が出てくる?
イメージしずらいな。
ならば、手の平をシャワーに見立てて、水が噴き出すイメージでやってみるか。
新しい法玉をもらい、想像の中で水を出す為に蛇口をひねる。
そんなイメージならお手の物だ。
毎日繰り返して見ていた光景だし。
握った手の平の中がひんやりと冷たくなった。
ポーン、
【スキル 魔力操作を獲得しました】
ということは……2つ目の法玉は綺麗な青色になっていた。
師匠の変化させた法玉の色と比べても、ほぼ遜色がないくらい。
「やっぱり……ソーヤ、あんたの適性は水だね。水属性の魔法使いだよ」
「水属性ですか? ちなみに師匠は?」
「わたしも強いて言えば水属性だね。これは教えがいのある弟子ができたもんだ」
師匠は嬉しそうに微笑んでいる。
弟子として、師匠と同じ属正だったのはラッキーだ。
師匠の得意な魔法を教えて貰えそうだし。
「ソーヤ、あんたの人生で水に関わる生活をしていなかったかい? 水辺の近くに住んでいたとか、両親が漁をしていてそれを手伝っていたとか?」
「もしかして、才能に関する話しですか?」
「そうさ。実は水属性の魔法使いは全体から見るとあまり多くないんだ。
一番多いのが土属性。これは小さな頃から畑を耕す手伝いをしていたんだろうね。
次が風属性、風はいつも吹いているからね。風に触れたことのない人はいないはずだよ。
次が火属性と水属性。どちらも人との関わりは深いけれど、土や風の方が触れる機会が多いからね。
全体の7割は土か風の属性が適性になると考えられているんだ」
確かに僕は水に触れる機会は多かった。
小さな子供の頃から、両親の真似をしてシャンプー台でシャワーに触っていたし、美容師として働き始めてからは、シャンプーマシーンのごとく洗髪しかしていなかった時期もあるくらだいし。
「以前は、水によく触れる仕事をしていました」
「だからかねぇ」
自分の仮定が正しいと知り、師匠が満足そうに頷いた。
「師匠、適性と言うからには、僕は水属性の才能があるのでしょうか?」
「そうだよ。ソーヤ、おまえは水属性の魔法が得意な魔法使いになるはずさ」
「水属性の魔法以外は使えないということですか?」
「それはどうだろうね。これから調べていかないとなんとも言えないが、さっき赤色に法玉が染まっただろ?
火属性の魔法も使えるとは思うね。ただ、水属性の魔法の方が威力は大きいはずだよ」
「属性の適性というのは、あくまで得意分野という認識でいいのでしょうか?」
「そうだね。それで合っているよ。ちなみに、わたしの適性は水だけど、風属性もそれなりに使えるよ」
「師匠は水と風、2つの属性の魔法を使えるのですか?」
「ああ、そうさ」
「それは珍しいことなのでしょうか? それとも普通のことなのでしょうか?」
「どうだろうねぇ……珍しいといえば珍しいかもねぇ」
終始にこにこしているので表情が読みづらい。
まぁ、とりあえず僕の適性属性は水だとわかったことで良しとしよう。
火属性も使えるみたいだし、魔法が使えないなんてことにならなくてほっとしたのが一番だ。
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