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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
82/321

82.美容師~魔法の修業を始める

 

 マリーと別れて、イリスさんの店に逆戻り。


 リンダさんとメェちゃんはすでに帰ったようだが、店番の男がいたので声をかけようとすると、黙って顎をくいっと動かした。

 

 入っていいということだろう。

 軽く会釈をし、イリスさんのいた部屋へ。


「おや、ソーヤさん。リンダならついさっき帰ったよ」

 

 ソファに座ったイリスさんが、微笑みながらお茶をすする。


「いえ、リンダさんではなくイリスさんに会いに来ました」


「そうかい。明日まで待てなくて、今日から修行を始めるかい?」

 

 それもいい。

 魅力的な提案にのってしまいそうになるが、とりあえずはマリーからの宿題を終わらせなければ。


「実は、イリスさんに紹介したい人がいるのですが」


「紹介したい人かい? どんな人だい?」


「その人は冒険者ギルドで受付嬢をやっています」


  冒険者ギルドの名前を出した瞬間、イリスさんの目が細くなり部屋の温度が何℃か下がったような錯覚に陥る。


「冒険者ギルドの人間が、わたしなんかになんのようだい?」


 声にも険しさが含まれていて、好々爺な印象だったのに、まるで人が変わったようだ。


「わかりません。ただ彼女は悪い人間ではありません。イリスさんの不都合になることはしないと約束してくれましたし、それは僕が保証します。あと彼女から伝言が1つ。『秘密は守ります』です」


「……ソーヤさんにとって、その人はどんな存在だい?」

 

 マリーが僕にとってどんな存在か?

 この世界に、トリーティアに来てから文句なしに一番お世話になった人だろう。


 冒険者ギルドの登録から武器や防具の購入。

 依頼の受け方に討伐する魔物の情報……教えてもらったことはきりがない。


 マリーがいなければ、今の僕はなかっただろう。

 だから僕は正直に答える。


「彼女は、マリーは僕にとって大事な人です」


 嘘は許さない! イリスさんはそんな眼差しで僕を見つめていたが、僕が目を逸らさないでいると瞼を閉じてソファーの背もたれに体を預けた。


 次に目を開けた時には、いつもの優しいおばあちゃん。


「ソーヤさんの言葉を信じるとしようかね。ソーヤさんの大事な人なら、いつかは会うことになりそうだし」


「無理を言ってすみません」


「いいんだよ。可愛い弟子の頼みだ。師匠として無碍にはできない」


 そうだ。

 僕はこの人の弟子で、この人は僕の師匠になるんだった。

 だとしたら……、


「これからは、師匠とお呼びしてもいいでしょうか?」


「かまいませんよ。好きに呼んでくだされ」

 

 にっこりと頷かれた。

 なら次は、


「師匠、弟子である僕にそんな丁寧な言葉遣いは必要ありません。いつもの話し方でお願いします」


 最初は取引相手としてここに訪れたから、丁寧な余所行き用の言葉遣いだったのだろう。

 

 リンダさんに対してはもっと砕けた話し方だったし、弟子になる事を決めてからは、ちょこちょこ素の話し方が出ているようだった。


「そうかい? ならお言葉に甘えさせてもらおうかね。お客さん相手ではなくなるが、いいのかい?」


「元より、師匠と弟子ではそんな関係でしょう。遠慮せず、ソーヤと呼び捨てにしてください。師匠に敬語を使われるのはおかしなことですから」


「わかった。ならソーヤ、あんた他の職業で誰かに師事したことがあるのかい?」


「はい。師匠と弟子の関係とはちょっと違いますが、手に職を付ける為に、何人かの先輩に教えを受けたことがあります」


 説明の仕方が難しいけれど、間違ってはいないと思う。


「そうかい。だからソーヤは礼儀正しいんだね。師匠を敬う態度としては合格をあげよう」


「ありがとうございます」



「ソーヤ、今日はこの後の予定はあるのかい?」


「いえ……特にはありませんが」


「なら、早速修行を始めるとするかね。その前に少しお勉強といこうか。ソーヤは魔法についてどの位知識がある?」

 

 魔法についてか……日本にいた頃の漫画やアニメ、小説で読んだ知識ならそれなりにはあるが、ゼロからのスタートで学んだ方がいいだろう。


「まったくありません。基礎的なことから教えて下さい」


「なら魔法を見たことは?」


「穴掘りモグラの使う魔法なら見たことがあります。とは言っても、一度きりでよくわかりませんでしたが」


「そうかい。穴掘りモグラの魔法を見た時、何かを感じたかい?」

 

 何か……?


「特に何も感じませんでした」


「そうかい……」

 

 イリスさんは数秒目を閉じ、


「ソーヤ、そこの棚にある箱を取っておくれ」


「これですか?」


 壁に設置された棚から50センチ程の木の箱を取りテーブルに置いた。


「開けてごらん」

 

 蓋を開けると、ビー玉サイズの透明な球が箱いっぱいに詰まっていた。


「これはなんですか? 魔核結晶? でも色が透明だし」


「1つをここに」


 言われるままに1個手渡すと、イリスさんは手のひらに握りこんだ。

 そして、次に手が開いた時には、透明だった球は青色に変わっていた。


「青色に変わった?」


「中を見てみるといい」

 

 恐る恐る指先で摘まんで球を覗きこむと、ゆっくりと中の青が動いている。


「それが魔素だよ」


「魔素ですか?」


「そう。青色の魔素は水を司る魔素。水属性の魔法を使う時に必要なものだね」

 

 青色の魔素は水属性の魔法に使う……。


「その球は魔核結晶と似ているけど、法玉(ほうぎょく)というものさ。魔素を込められるように魔核結晶を加工したものだよ」


「魔核結晶を加工すると透明になるのですか?」


「そうだよ。錬金術師や一部の魔法使い、魔導師なんかは自分で加工するのさ。予め魔素を詰めた法玉があれば、少ない魔素で魔法が使えるからね。いわば補助的な役割を果たすものだよ」


「師匠、そもそも魔素とはなんなのでしょうか?」

 

 この世界に来てから初めて聞いた言葉だ。


「魔素とはマナとも呼ばれていて、魔法を使う為に必要な燃料とでも言えばいいのかね。遥か昔の偉大な魔導師の残した言葉にはこうある。

『魔素は生あるものの体内に宿り、大気に宿り、この世界のありとあらゆる場所にある』と」


「ということは人の体の中にも魔素がある?」


「人だけじゃなく、魔物の中にも魔素はある。逆に魔素がなければ魔法は使えない」


「魔力とは違うものなんですか?」


「魔力とも言えるし、違うとも言える」

 

 禅問答みたいになってきた。


「正直、はっきりとはわかっていないんだよ。わかっているのは、人の体内に魔素があり、それを用いて魔法を使うことができる。

 魔力が高い者は魔法の威力も大きいことが多い。けれど魔力が高いのに、魔法を使えない人も中にはいる。

 だから魔素=魔力というのは否定できないが肯定もできない。魔力の中に魔素が宿るとも言われているね」


「それなら僕が魔法を使えるかどうかもわからない?」


「そうだね。もしかしたら使えないかもしれない。だからこれからそれを調べてみるとするかね」

 

 せっかく魔法使いの職業になったのに、魔法を使えない可能性があるのか。

 どうか僕の中に魔素がたくさんありますように。

 リリエンデール様に祈りを捧げておこう。


「そこの法玉を1つ手のひらに握りな」


「こうですか?」


「それで自分の中の魔素をその玉に移動させるイメージをするんだ」

 

 自分の中の魔素を移動させる……どうやるんだろう?

 とりあえず力を込めてみる。

 

 魔素ー魔素ー、移動しろー。

 念じて手を開いてみた。

 

 無色透明。

 変わりなし。


「ダメかい?」


「ダメみたいです」


「やり方は人それぞれだから、教えるのが一苦労なんだよ。できる人は簡単にできてしまうから、ソーヤならできるかもと思ったんだが」

 

 どうやらあてが外れたみたい。

 期待を裏切ってしまったようで、申し訳ない気持ちになる。

 

 再度頑張ってみるとしよう。

 そうだ、スキルを使ってみたらどうだろう。

 

 《集中》発動。

 ……ポーン、


【スキル 集中のレベルが上がりました】


 スキルが上がった。

 

 ということは……玉は無色のままだ。

 がっかり感が半端ない。




読んでいただきありがとうございます。


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