80.美容師~師匠を見つけた報告をする
修行は明日からということで、僕はメェちゃんに見送られてイリスさんの店をあとにした。
とりあえず冒険者ギルドによって、マリーに魔法の師匠が見つかったことを報告しなくてはいけない。
せっかく探してくれたのに、こちらから断るのでは申し訳ないからだ。
マリーへの上手い言い訳を考えつつもギルドの中に入るが、マリーの姿が見当たらない。
シェミファさんに聞いてみると、今は休憩中で外に出ているとのこと。
仕方がないので、果実水を頼んで待つこと30分くらい。
休憩を終えたマリーが帰ってきたのだが、なんだ元気がなさそうだ。
肩を落としてトボトボと歩いている。
何かあったのだろうか?
【気になります!】
うん、確かに僕も気になります。
「マリー、どうしたの?」
僕がいるのに気が付かず、横を通り過ぎようとしたので声をかけた。
「あっ、ソーヤさんでしたか。ちょうどよかったです。実は……」
マリーが元気のない原因は、どうやら僕に関係しているようでした。
なんでもここ2日、目ぼしい魔法使いや魔導士の元に訪れて僕の魔法の師匠を探し回ってくれたようなのだが、ある人はちょうど弟子を取ったばかりだからと断られ、ある人は膨大な金額を吹っ掛けられ、ある人は依頼を受けて遠くの街まで出かけて当分帰ってこない等々、つまり見つからない。
僕には任せておけと言った手前、なんとか師匠を見つけてくれようと最後の一人にダメ元で会いに行ったのだが、無残にも断られてしょぼくれて帰ってきたところだったとのこと。
「力になれず、申し訳ありません」
項垂れる姿は、今にも泣き出してしまいそうだ。
こんなにも頑張ってくれていたとは知らず、僕の報告は彼女の頑張りを無駄にしてしまうのではないか、と簡単には言えなくなってしまう。
「こうなったら、わたしのヘソクリをつぎ込んででも、なんとか交渉をまとめてきますから」
僕に慰められて消えかけていた闘志に火が付いたのか、マリーが拳を握って目に光を取り戻す。
だけど、言っている内容が気にかかる。
「マリーのヘソクリはマリーの為に使ってよ。僕は大丈夫だから」
「大丈夫って、ソーヤさんせっかく魔法使いになれたのに、この調子だといつまでたっても魔法が使えないんですよ。
それとも、ソーヤさんには誰か魔法を教えてくれる人のあてでもあるんですか? あるわけないですよね、ならこの件はわたしに任せておいてください」
任せておいたら、マリーの貯金がゼロになる未来が見えるから困るんじゃないか。
「いや、あのね。魔法の師匠見つけたんだ。だから、もう探さなくていいよ?」
「えっ? またまた、ソーヤさんは優しいから……そうやってわたしのことを気づかって嘘をつかなくてもいいんですよ? 冒険者を支えるのは、冒険者ギルドの職員として当たり前のことなんですから」
「うん、それはよくわかってるんだけどね。ほんとなんだ。たまたま知り合った人が、魔法を教えてくれるって」
「たまたま知り合った人って……大丈夫なんですか、その人? ちゃんと信用できそうですか? 冒険者ですか? ギルドに登録はされていますか? 騙されていませんか?」
よほど心配なのか、質問攻めにされてしまいます。
「信用はできると思うよ。悪い人には見えなかったし。ギルドに登録はしているのかな? 元冒険者だって言ってた。元魔導士だって」
「元魔導士?」
マリーは頭の中でその人を検索しているのか、頬に指をあて宙を睨む。
「元魔導士ですか……それで授業料はおいくらで?」
「授業料は無料でいいって。それって言うのがね――」
無料という言葉を聞くなり、マリーがため息をひとつ。
「ソーヤさん、今からその人の所に行きましょう。わたしがついていってあげますから」
席を立ち、僕の腕を引っ張る。
「急にどうしたの? マリー」
「どうしたの? じゃありません。ソーヤさん、たぶん騙されていますよ。
魔導士、元魔導士だとしても、弟子を取るからにはそれなりの金額を要求されるはずです。魔導士の弟子になるには、魔法使いより高額なんですよ?
相手だって慈善事業じゃないんですから。きっと無料と言っておいて、あとからかなりの金額を要求するか、悪いことの片棒でも担がされることになります。
わたしがきっちりとお断りしてあげますから、さぁ、今すぐ行きましょう」
騙されている?
悪事の片棒を担がされる?
そんな悪い相手ではないと思う。
何より10万リムの代わりだから、無料といってもタダなわけではないというか。
「マリー、魔法使いや魔導士の弟子になる相場はいくらくらい?」
「相場ですか? そうですね、相手のランクや評判にもよりますが、一般的な初級魔法を教える専門の魔法使いだと1万~3万リム。
魔導士だと5万~10万リムってところですかね。有名無名によっても、箔が付くなど人気があるので金額は上下しますが」
うん、マリーの説明を聞く限り、10万リムの代わりだからやっぱり騙されてはいなそうだ。
優しく微笑むイリスさんは、とても悪い人には見えなかったし。
「なら大丈夫だと思うよ。10万リム払ったようなもんだし」
「10万リムを払った? ソーヤさんが? その人に? どこにそんなお金が?」
無料もダメだけど、払ってもダメみたい。
ますますマリーの目が疑いの眼差しになっていく。
しかも、例の笑顔が徐々に表れつつある。
「ソーヤさん、説明を。詳しく」
読んでいただきありがとうございます。
短編シリーズも、お時間のある時に読んでいただけると幸いです。




