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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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76.美容師~お風呂に入る

 

 宿に戻ると女将さんに頼んで大きな鍋を借り、何度もお湯を沸かしては浴槽に注ぎを繰り返すこと10数回。

 

 ようやく僕は熱い湯船に浸かることができた。

 

 石鹸モドキとシャンプーモドキは日本で使っていたものと比べると、物足りないなんて言葉では足りないくらいだが、泡が出るだけで気分が違い幸せを感じることができた。

 

 せっかくなのでアンジェリーナの髪の毛もパサついていることだしと、髪の毛を洗い一緒に浴槽へ。

 

 仲良く混浴と洒落込んでいたのだが……その場所が良くなかった。


 酔っぱらった客の一人が泊り客が使用する井戸のスペースに迷い込んできて……あまりにも騒ぐのでちょっと静かにしてほしかっただけなんだ。


『生首と水浴びをしている頭のおかしな男がいる』


 と叫ぶのをやめてほしかっただけなんだ。


 酔っているのに急に走り出そうとするもんだから……男は転んで頭を打って失神してしまった。

 

 そこまではまだよかった。

 二人目の目撃者がこれまた大騒ぎをするものだから……。


 僕は倒れた男を介抱しようとしただけなんだ。

 

 例え目撃者から見たら、濡れた生首を持った男が、倒れた男の横に立っているように見えたとしても……。




 そうして、僕は牢屋にいるわけ。


「僕は無実です……」

 

 牢屋番の男は、頬杖をついてため息をひとつ。


「そうなんだろうよ。そうなんだろうけどよ……まぁ、しばらくそこにいろよ。もーすぐテッドさんが来るから」


「……わかりました。でもせめて何か着るものをください」

 

 僕の今の姿は、上半身は裸で腰に布を巻いただけなのだ。

 

 叫び声を聞きつけて、たまたま店で飲んでいた衛兵達に服を着る時間ももらえず、そのまま連行された為、こんな現状になっている。


「とりあえず、これでも着ろよ」

 

 牢屋番がシャツとズボンを投げ入れてくれたので、着替えることに。

 パンツがないのはこの際我慢しよう。

 腰布一枚よりかはよっぽどいいはずだ。


「こっち、見ないでくださいね」

「見ねーよっ!!」

 

 シャツを着て、ズボンを履く為に腰に巻いた布を外そうとした。

 したのだが……


 

 眩暈、暗転……目の前にはリリエンデール様の姿が……。

 

 タイミングが悪すぎる!

 

 いや、もう少し遅れていたら下半身素っ裸なので、まだ最悪ではないのかもしれないが。

 

 リリエンデール様は無言で僕を見つめ、人指し指を向けてきた。

 

 そして……無表情でクルクル……。




「どうしたんだ? 急にそんなに落ち込んで。

 お前が無実なのはわかってはいるんだぞ。とりあえずテッドさんに確認しないと出してやれないだけなんだが……そんなに気を落とすなよ。とにかくズボン、履いたらどうだ?」

 

 優しい言葉が身に染みる。

 

 四つん這いで項垂れていた僕に、牢屋番が優しく声をかけてくれたので、涙が出そうになった。

 

 のろのろとズボンを履いて、胡坐をかいて座り込んだ。

 

 腰に巻いていた布で目元を拭う。

 泣いてなんかない。

 元からこの布は濡れていたんだ。




「お前、いい加減にしろよな。俺だって暇じゃねーんだぞ!」

 

 第一声からテッドに怒られた。

 どうやら気持ちよく飲んでいたところを呼び出されて、機嫌が悪いようだ。


「まぁまぁ、こいつも反省しているみたいだし」


 牢屋番が横から庇ってくれた。

 何故かすごく優しい。

 

 こんなに良くしてくれるのだから、そろそろ名前を教えてもらおう。

 あまり会いたい相手ではないのだとしても。


「その人形があるからこんな騒ぎになるんだろ? 捨てちまえばいいんじゃねーのか?」

 

 牢屋番が僕のことを庇ったので、テッドの怒りの矛先がアンジェリーナに向かってしまう。

 

 アンジェリーナを捨てる?

 馬鹿な!

 そんなことできるはずがない。


 なので、僕は魔法の言葉を使うことにした。

 何しろ僕の職業は魔法使いなのだから。


「明日は一角兎の討伐に行こうかなー」

 

 ピクリとテッドが反応する。

 かかったな。


「たくさん獲れたら、日頃お世話になっている人にでもプレゼントしようかなー」


「おい、出してやれ」

 

 テッドが牢屋番の肩を叩いて言った。


「反省もしているようだし、もういいだろう。そこのなんだ? 首の人形も返してやれ。あいつにとっては大事な物らしいしな」


「……はい。テッドさんがそう言うなら」


 牢屋番は首を傾げながら牢屋の鍵を開けてくれた。

 机に上に置かれていたアンジェリーナを手に部屋を出ようとすると、


「3匹な」

 

 テッドが呟いたので、


「2匹で」と答えた。

 

 テッドはバンッと僕の肩を叩いて先に出て行った。

 

 交渉成立ということだろう。

 明日は一角兎を狩りに行かなければ……。




 宿に戻り女将さんに騒ぎを起こすなと怒られたので、謝罪がわりに石鹸モドキとシャンプーモドキ、リンスモドキをプレゼントした。

 

 まだ少し怒っているが、これを使えば機嫌も直るはずだ。

 念の為に、女将さんの分も一角兎を確保しよう。

 

 明日は忙しい。

 今日はいろいろあって疲れたし、もう寝てしまうことにした。


 眠る直前にリリエンデール様の()の顔を思い出してしまったが、無理やり忘れることにした。

 

また呼んでもらえるといいな。

 

呼んでくれるよね、リリエンデール様。




いつも読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。


ご意見ご感想、評価等頂けると更新の励みになるので、嬉しいです。


今後とも宜しくお願い致します。


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