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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
74/321

74.美容師~悪戯をしかけてみる

 

 煙草を吸い終わり、作業開始。

 穴の周囲を木の棒で叩く。

 

 僕がいたことを覚えているだろうし、警戒して出てこない可能性もある。

 別の穴を探したほうがいいかな。

 そう思っていると、割とすぐにあらわれた。

 

 穴掘りモグラはまた顔だけひょっこりと覗かせ、僕を見つけるとそのまま固まったが10秒程たち僕が動かないでいると、鼻と耳をぐるっと一周させるようにし穴の中へ。


 うーん……わからない。

 でも、やっぱり何かを探しているような気がする。

 

 《気配察知》で探ると、穴掘りモグラは穴の底に戻っているようだ。

 僕は木の棒で穴の淵をトントンと叩いてみた。

 

 穴掘りモグラが止まったのがわかった。

 トントントン、木の棒を穴から移動させると、つられるようにモグラがこちらに移動してきた。

 

 今度は穴から60センチくらいの場所で止まり、手だけ伸ばして木の棒を動かす。

 ピョコッ、

 近距離で見つめあう僕とモグラ。

 

 穴掘りモグラは『またおまえかよ』そんな感じで僕を一瞥し、すぐに穴の中に姿を消した。

 その後、何度木の棒で叩いても、穴掘りモグラはあらわれなかった。



 謎だ。

 誰かこの行動について調べたものはいないのだろうか?

 帰ったらマリーに聞いてみよう。

 

 街の方角に足を向けようとしたが、ここに来た目的を果たしていないことに気がついた。

 僕は穴掘りモグラの生態調査をしに来たわけじゃなくて、魔法を見に来たのだった。

 

 かといっても、ここのモグラはもう出てこないようだし、違う穴を探すしかないか。

 ついでに一角兎でも探して討伐してもいい。

 メェちゃんにあげる約束もあるし。


 中腰でいたせいで固まっていた筋肉を解すように伸びをし、木の棒を手の中で回転させながら一角兎を探しつつ、穴掘りモグラの穴を見つける為に歩き出した。



 30分くらい歩くと、新しい穴を発見。

 どうせすぐに出てこないだろうと高を括り、その場に座り込んだ。

 

 鼻歌交じりに穴の周囲を木の棒で叩く。

 もう一本あれば、ドラムの真似ごとができたのになぁ。

 

 どこかに適当な長さの棒でも落ちていないものか。

 見渡してみるが目当ての物はなさそうだ。

 草と石しかない。

 

 そこで僕の中にある悪戯心が芽生えてしまった。

 石でこの穴を塞いだら、モグラはどうするのだろう? というものだ。

 

 木の棒で叩くのを中断し、1つで覆える位の大きさの石がないので、手頃な石をいくつか見つけて穴の上に山のように積み重ねてみた。


 ドラムごっこを再開。

 《気配察知》が穴掘りモグラの移動を感知したが、ピタリと動きを停止させた。

 穴の手前あたりだ。

 

 穴から地上の光が入ってこないので不審に感じているのだろう。

 進んだり戻ったりを繰り返している。

 

 さて、どうする?

 

 地味な作業に楽しみを見出した僕は、木の棒で地面を叩きながらモグラの行動を探っていると、モグラは上下移動ではなく横に動いた。

 

 そして、僕の目の前の地面が吹き飛んだ。

 爆風という程のものではなく、砂煙が目に入って痛い、くらいの被害状況だ。

 

 穴掘りモグラは至近距離にいる僕に気がつき、慌てて引き返そうとするが《気配察知》をたよりに右手をすばやく煙の中に差し入れた。

 

 何かを掴んだ! そう思った瞬間、手の甲にピリッとした痛みが走った。

 

 思わず掴んだ力を緩めてしまったので、穴掘りモグラの後ろ足だけしか見る事ができなかった。


 ……逃がしたか。


 遠ざかる気配を追いかけつつ、土で汚れた右手に水をかけて綺麗に洗う。

 蚯蚓腫れのような3本線が手の甲にくっきりとついていて、薄っすらと血が滲んでいる。

 

 たいして酷い怪我ではないけれど、回復薬を使ってみるか。

 

 マッドウルフとの戦闘のあと、マリーから回復薬を常に携帯するように説教をされた。

 

 冒険者たるもの、小さな怪我でもすぐに回復しておくようにと。

 ほんの掠り傷がギリギリの戦いでは重要な影響を与えることになるのだという。


 道具屋で購入した回復薬をポーチから取り出し、試験管に入った緑色の液体を手の甲にかけた。

 

 飲んでもいいし、傷口にかけても効果はあるらしいが、深い傷は口から体内に取り込んだ方が効果が高いと聞いた。

 

 今回は手の甲の小さな傷だし、飲む必要はないと判断した。

 決して口にする勇気がないわけではない。


 購入してすぐ味見をした時の、青汁を何倍もまずくした記憶がよみがえってきたので、すぐに蓋を閉めてポーチにしまう。


 今は飲むべき時ではない。

 飲むべき時には飲むよ。いや、ほんと。


 手の甲はほんの数秒で綺麗に傷がなくなったので、自らに言い訳をしつつ水で流して布で拭く。



 さて……一応は魔法らしきものを体験はした。

 あの土煙の爆発が、穴掘りモグラの魔法だったのだろう。


 僕が石で穴を塞いだので、横に移動して魔法で地面に穴を開けたと推測される。

 自業自得なので、文句を言うつもりはない。

 

 悪戯をしかけた僕が悪いし、そもそも魔物相手に文句をつけても仕方がない。

 とにかく、経過はどうであれ魔法を体験したので目的は達成。

 

 マリーの言った通り、穴掘りモグラを討伐することはできなかったが、今日のところはおとなしく帰るとしよう。

 

 何故なら、体中が土塗れでメンタルがやられているから。

 なんか、やる気が失せた。

 

 これから新しい穴を探して、また木の棒で誘い出して捕まえることができればいいが、逃げられて引っかかれてより汚されたら……そう考えると、もう帰りたくなってしまったのだ。

 

 よし、帰ろう!

 グラリスさんの店に寄って、お風呂とシャワーを受け取らなくてはいけないし。

 

 髪の毛まで土でジャリジャリするし、ちょうどいいじゃないか。

 自分を慰めつつも、トボトボと歩き出した。


 穴掘りモグラ、いつかリベンジしてやる。

 ……いや、うそ。

 もう来ないかも。




いつも読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。


ご意見ご感想、評価等頂けると更新の励みになるので、嬉しいです。


今後とも宜しくお願い致します。





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