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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
72/321

72.美容師~石鹸モドキを作る

 

 騒いでいた職員達も今は通常業務に戻っていった。

 ギルマスとキンバリーさん、シェミファさんの3人は2階の部屋で書類作りの真っ最中。

 

 徹夜組は帰宅し、気が付けば冒険者達が依頼を受けたり酒を飲んだりのいつも通りの風景だ。

 

 そういえば、今の今まで冒険者達を見かけなかったが、どうしてだろう?

 気になったので顔見知りの一人を捕まえて尋ねてみたが、誰も彼もギルド内の異様な空気を感じ取って、離れたところで待機していたらしい。

 

 皆さま、迷惑をお掛けしました。

 僕は心の中で謝罪した。

 

 そんなこんなで、今回の件はこれで終了。

 作成した書類がギルド本部に届き、審査が無事に終了すればギルマスが表彰されて臨時ボーナスが支給されるとのこと。

 

 ただ、ギルド本部でも9割方は作業を進めている為、書類を受け取って2~3日中には承認が下りるらしい。

 

 だからキンバリーさんは、明日の休みに妻と2人でお買い物に行くとか。

 あんな状況だったけど、子供が生まれると聞いてしまったので、改めてお祝いの言葉と奥さんに滋養をつけてもらう為にも、一角兎の肉をプレゼントしておいた。


 本当はメェちゃんにあげようと思っていたのだが、また獲りに行けばいいや。

 

 素材と摩核結晶を売ったお金は、あの時どさくさに紛れて聞こえた言葉の彼女に、少ないけれどとカンパした。

 もちろん、母親の薬代の一部にと。

 

 後半の人達にあげるお金等ない。

 そう、1リムたりとも。




 討伐依頼を受けるつもりだった僕のやる気はすでに皆無だ。

 なんだか疲れてしまったし、今日はこのまま帰って、石鹸モドキとシャンプーモドキの作成に取り掛かることにした。

 

 受付に立っているマリーに預けた荷物を返してもらい、細かな道具を買いながら、もはや我が家のような宿に帰宅。

 

 宿の女将さんにキッチンを借りて、並べた物を確認する。

 

 鍋、重曹、木の燃えた灰、リムの実、モレの実、リトリ草、リラの種、木の皿、ガラスの瓶。


 果物屋で買ったリムの実は、リンゴのような果物で、モレの実はレモンに近い。

 リトリ草は例の濡れるとヌメヌメして汚れを落とす謎の草だ。

 

 リラの種は朝顔のような花の種なんだけど、潰すと油が出るいわば、椿の実のようなもの。

 

 では、作業を開始する。


 まず鍋にお湯を沸かして、重曹を溶かす。

 重曹は熱で溶けると炭酸ナトリウムになる。

 

 つまり泡が出るしアルカリ性になるので汚れが落ちる。

 これに木を燃やしたあとの灰を少々。

 冷やして固まれば重曹石鹸の完成なんだけど、ここにリムの実をしぼった果汁を入れてみる。

 

 だって、いい匂いがしたほうがいいじゃない。

 半分を石鹸くらいの木の皿に流し入れて、このまま放置で。


 

 次はシャンプーモドキ。

 鍋に残した半分の中にリトリ草を入れてかき混ぜてみた。

 うん、ヌメリが発生。

 

 程よい粘度が出たところでリトリ草を取り出し、リラの種を潰してオイルを投入。

 そのままかき混ぜているとなんとなくオリーブのような香が。

 瓶に流し込み、蓋をしないで冷えるのを待つ。


 2本目の瓶にシャンプーモドキを入れ一息つこうとすると、ポーン、


【スキル 調合を獲得しました】


 調合ね……、

 調色があるのだから調合もあろような気がしてはいたけれど……まぁ、確認は後にしよう。



 休憩は取りやめて、ついでにリンスモドキも作成。

 空の瓶に水を入れる。

 

 そこにモレの実を絞って投入。

 蓋をしめて少し振る。

 終了。

 

 本当はトリートメントモドキを作りたいところだけど、材料がなさすぎて無理。

 とりあえず、アルカリ性に傾いた髪の毛を酸性に戻してやろうという魂胆。

 レモンの果汁をお湯に溶いてるのと一緒だね。


 作業終了。


 女将さんにお礼を言って部屋に戻り、風が通る涼しい場所に作ったものを移動させた。

 

 集中しすぎていつのまにか夕方になっていたので、夕食を終えて外の井戸で体を拭き、日課の練習をすることに。

 

 シザー7を抜いて、開閉すること100回。



 今日はアンジェリーナも大きくして、編み込みをして遊ぶ。

 

 髪の毛をセンターで半分に分け取り、左の前髪から裏編みをする。

 基本は三つ編みと一緒で、生え際から最初に適当につまんだ一束を3つに分け編んでいくのだが、裏編みは上からではなく下から通していくので慣れるまでは難しい。

 

 でも、表編みとは違って編み目が綺麗に出るから素敵な感じに仕上がるので好きだ。

 左が終わったら右も同じく編んでいく。

 

 うん、可愛くなった。

 正面から向かい合い、


「気に入ったかな?」

 

 聞いてみた。


 ……返事がない。

 ただのウィッグのようだ……。


 いや、ウィッグなのは知ってるんだけどさ。

 

 というのも、

 シアンから話を聞いて、頭の中の声がアンジェリーナだと知ってから、たまに話しかけているのだが一向に返事がこない。

 

 スキルやレベルUPの時には話してくれるというか、声を聴かせてくれるのだから、その時以外にも声を出せるんじゃないの?

 

 僕の発想はこうなわけ。

 だからたまに話しかけてみてはいるんだけど……ダメみたいなんだよね、これが。

 

 何かルールのようなものでもあるのかな?

 疑問に思いシアンに聞いてみれば、シアンはきちんと答えてはくれる。

 

 答えてはくれるのだが……こいつチカチカ光るだけなんだもの。

 わからないって、僕には。

 

 わんわんにゃーにゃー答えてくれる犬猫のほうが何倍もましだ。

 鳴き方で嬉しそうや悲しそうくらいはなんとなく伝わってくるから。

 

 いや、もしかしたらシアンにも光り方のパターンとかあるのかな?

 トーン信号のような感じで?

 

 でも僕、トーン信号わからないし……美容の専門学校でも習ってないし。

 リリエンデール様に要相談だな。

 

 最終的にはそうなりました。

 

 そうそう、ノートでステータスの確認も忘れずに。


 ==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:魔法使い

 レベル:2

 HP:30/30

 MP:30/30

 筋力:18

 体力:18

 魔力:20

 器用:36

 俊敏:20


 テクニカルスキル:シザー7 500/???

 《Lv1》カット


 ユニークスキル:言語翻訳《/》、回転《Lv5》、観察《Lv3》、好奇心耐性《Lv1》、調色《Lv1》


 スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv2》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv3》、気配察知《Lv2》、投擲《Lv3》、集中《Lv4》、忍び足《LV1》、脚力強化《Lv3》、心肺強化《Lv2》、精神耐性《Lv1》、調合《Lv1》


 称号:女神リリエンデールの加護


 装備:カットソー、ジーンズ、シザーケース、腕時計、短剣×2、ナイフ、革の防具一式、黒曜の籠手


 ==


 

 《調色》はユニークスキルなのに、《調合》は一般スキルなのか。

 確かに錬金術師や薬師あたりは普通に持っていそうだもんな。

 

 職業が魔法使いになったことにより、ステータスの魔力の値が2増えて20になっている。

 固定で+2なのかな?

 それとも1割UPとか?

 

 これも才能による個人差があったりして。

 マリーにもう少し詳しく聞いてみよう。

 

 いや、魔法使いのことは魔法使いに聞く方がいいのかな?

 もうすぐ僕にも師匠ができることだし。

 

 紹介してくれる人はどんな人だろう?

 多くを望むつもりはないけれど、できれば怖くない、優しい人がいいな。

 

 魔法使いと聞いて僕の持つイメージだと、偏屈な老人。

 はたまた、長生きだけど見た目は幼女?

 

 ただ、幼女はメェちゃんがいるから、もうおなか一杯です。

 妄想を膨らませていたら眠くなってきたので、ノートを閉じてランプの灯りを消そうとした。


 けれど、僕の目はある一点に釘付けとなる。

 それはノートのこの部分。


 ==


 テクニカルスキル:シザー7 500/???

 《Lv1》カット


 ==


 数字が増えている……。

 

 どうして、なんて思うまでもない。

 思い当たるふしは1つしかないからだ。

 

 昨夜と今夜、僕が何をしたか?

 それはシザー7を使っての開閉練習。

 

 2夜で合計、200回。

 つい先日確認した時の数字は300だった。

 そして今は500。


 この数字はシザーの開閉した回数だったんだ。

 頭の片隅にこびり付いていた謎が解けてスッキリとした気分だ。

 もう【気になります!】に襲われることはない。


 いや……ちょっと待て。

 シザーの開閉の数……?

 僕はそれを予測して牢屋の中で確かめたはずだ。

 

 あの時は、開閉をしても数字は増えなかった。

 なら、偶然なのか?

 

 シザ―ケースの中からシザー7を抜いて、開閉を1回。

 数字は……500。

 

 増えてない。

 前に実験した時と同じだ。

 またわからなくなった。

 

 この先もこの件については観察を続けるしかない。

 ただ、いくつか予想がつくこともある。

 例えば、


 1、シザーの開閉1回ごとに数字が増えるのではなく、10回とか50回とか少なくとも200回になった段階でノートの数字が変わるのではないか?


 2、シザーの開閉した瞬間ではなく、ノートの数字が変わるまでにはタイムラグがあるのではないか?


 3、この数字が経験値のようなものだとしたら、一日に稼げる量には上限があるのではないか? それが100だとしたら?


 4、そもそも、この数字はシザーを開閉した数字で増えているのではなく、まったくの偶然で違うことで増えていた。


 こんなところだろう。

 僕的には、2か3が怪しいとにらんでいる。

 

 これ以上は例のアイツが襲ってきそうなので、今日はここまで。

 明日、ノートを確認しながら実験してみよう。




いつも読んでいただきありがとうございます。


石鹸やシャンプーの作り方は間違っていても、目をつぶって頂けると幸いです。


ファンタジー世界では必要なものが足りず、難しいですね。


ご意見ご感想、評価等頂けると更新の励みになるので、嬉しいです。


今後とも宜しくお願い致します。



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