66.美容師~受付嬢の内緒が気にかかる
「わかったから、もう早く帰れよ」
元気をなくしたグラリスさんに追い払われ、冒険者ギルドまで戻るマリーを送っていくことにした。
浴槽とシャワーは超特急で作っても2~3日は必要とのことなので、その間に石鹸モドキとシャンプーモドキの開発でもしようと我慢する。
せっかくだから浴槽に浸かるだけでなく、大量の泡で体や髪の毛を洗いたいのだ。
マリーに石鹸やシャンプーについて尋ねてみたが、そんなものは見たことがないと言われてしまった。
では皆はどうしているのかと聞くと、やっぱりあの濡れるとヌメヌメして汚れが取れる海藻のような草を使っているとのこと。
身だしなみに気を使う女性なんかは、髪の毛を洗ったあとには水に果実を絞った液を混ぜて髪の毛に塗布している人もいるとか。
酸性の果実の液でリンスのかわりにしているのだろう。
貴族なんかは、それに加えて特殊に配合した泥や香油のようなものを使用しているらしい。
一般庶民の枠にいるマリーには高価すぎて手が出ないので、あまり詳しくはわからないと謝られてしまった。
とりあえず自分で使用する分には、泡が出て汚れが落ちさえすればいいので、なんとかなるだろうと楽観的に考えておいた。
夕食はすませたとマリーが言うので屋台で果実水を2つ買い、1つをマリーに渡して魔核結晶につて気になることを質問しながら歩く。
マリーはその一つ一つに丁寧に答えてくれ、即答できないものは調べておくとまで約束してくれた。
ギルドの前まで着くと、「ではまた明日」と手を振られて僕の中での短いデートは終了。
手を振りかえして宿に帰ろうとしたが、ある疑問が浮かんだ。
「そういえばマリー。グラリスさんに用事があるんじゃなかったの? 僕と一緒に帰ってきちゃったけど、よかったのかな?」
「ああ、大丈夫です。急ぎの話ではないので、また改めて会いに行きますから」
「そうなんだ。ちなみにどんな用事だったの?」
「それはですね……内緒です」
ちょっと考えて、内緒と答え、マリーがえへへと微笑んだ。
【気になります!】
頭の中で小さく声が響いたが、内緒と言われて尋ね返すこともできず、
「じゃあ、またね」
心を落ち着かせる為にタバコを一本取り出し、口に咥えて背を向けた。
【気になります! 気になります!!】
煙を吐き出しながら、裏路地を進む。
「気にならない! 気にならない! 気にならないったら気にならない!」
呟き、マリーの内緒と微笑んだ顔を頭の中から追い出す為に、魔核結晶について考える。
纏めるとこうだ。
・魔核結晶には色がついていて、Gランクの魔物は茶。Fランクは緑、Eランクは青と魔物のランクが上がるごとに色が変わっていく。
その大きさも魔物の強さによって比例することが多く、生まれたばかりの弱い魔物は小さく、長く生きていたり強い魔物は大きいことが多い。
・魔核結晶には魔力が含まれていて、鍛冶職人や錬金術師等の職業についている者が加工に使用することが多い。
茶や緑等の低ランクの魔核には内包されている魔力が少ない為、簡単な術式しか刻むことができず、青や紫、赤等の中級以上の魔核だと用いられる用途も多く、価値が高い為、高値で売り買いされる。
・加工に用いる以外にも、日頃から魔力を使用する魔法使いや魔導師等の職業の人は魔法を使う際に触媒として用いることもある。
要するに、青以上の魔核結晶を手に入れた時には、売る以外にも使い道を考える必要があるということだ。
宿に着いたので部屋に戻って、忘れないうちにノートにメモをしておくことにしよう。
ついでに、ノートでステータスの確認をする。
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名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:
レベル:2
HP:24/30
MP:30/30
筋力:18
体力:18
魔力:18
器用:36
俊敏:20
テクニカルスキル:シザー7 300/???
《Lv1》カット
ユニークスキル:言語翻訳《/》、回転《Lv5》、観察《Lv3》、好奇心耐性《Lv1》、調色《Lv1》
スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv2》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv3》、気配察知《Lv2》、投擲《Lv3》、集中《Lv4》、忍び足《LV1》、脚力強化《Lv2》、心肺強化《Lv1》、精神耐性《Lv1》
称号:女神リリエンデールの加護
装備:カットソー、ジーンズ、シザーケース、腕時計、短剣×2、ナイフ、革の防具一式、黒曜の籠手
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HPは24なので4回復している。
MPは回復して30でMAXの値になっていた。
基本的にHPは体を休めるか寝たりすると徐々に回復するらしい。
他には即効性を求めるのであれば、薬草やポーションのような回復薬や飲み物や食事なんかでも微量回復することがあるとのこと。
MPも同じで休息か食事やアイテムで回復するが、時間経過でも自然回復すると聞いていた。
ただ、どの程度の時間でいくつ回復するのかは基本値と個人差があるので一概には言えないようだ。
今度、ノートで確認しながら調べてみよう。
でも、魔法の使えない僕はMPが減るなんてことはあるのだろうか?
魔法、魔法か……幸い魔力も人並みにはあることだし、正直使ってみたい。
憧れすらある。
誰かに習えば、僕でも魔法が使えるようになるのだろうか?
明日、マリーに聞いてみよう。
わくわくして眠れなくなると困るので、魔法についてはここまで。
いつのまにか【気になります!】が消えてくれていたので、今日はこのまま寝てしまおうかと思うが、サボり気味な日課をすませてからにすることに。
腰から外してベッド脇に置いておいたシザーケースからシザー7を抜き取り、開閉の練習。
シャキシャキシャキ…………
……無心で開閉の際にブレがないか確認しつつ音を重ねていく。
100回終了。
シザーケースに戻し、ランプを消して就寝することに。
女神様からの呼び出しは、また一週間くらいかかるだろうか。
だんだんとこの世界、トリーティアでの暮らしにも慣れつつある自分が少し可笑しくて、このまま冒険者としてやっていくのもアリかな、なんて心の片隅で思ってしまった。
けれど、父と母の顔が浮かんできて、すぐに打ち消した。
やっぱり僕は冒険者よりも美容師でありたい。
この夢だけは捨てられないんだ。
……約束は守らなくては……。
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