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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
65/321

65.美容師~魔核結晶について説明を受ける


「放せー! やめろー! 助けろマリー!!」


 叫ぶグラリスさんをズリズリと引きずり、マリーの元に戻る。 


「ソーヤさん……説明を……」



 ジト目を向けてくるマリーに、僕はお風呂に入りたいので風呂桶か樽のようなものを依頼しようとしたら、グラリスさんが逃げようとするので捕まえた、ということを伝えた。

 

 逃げ出そうと暴れていたグラリスさんは話の途中でおとなしくなり、体から力を抜いてその場に座り込んだ。


「……犯されるかと思った」

 

 小さなグラリスさんの呟きに、


「そんなことするわけないでしょう」

 

 見下ろしながら小声で返す。

 

 どうして僕がこんなムサイおじさんを力づくで襲わなくちゃいけないんだ。

 冗談も程々にしてほしい。


「で、作ってくれるんですか?」

 

 改めて依頼を出す事にする。


「断ったら……?」

 

 何故か恐る恐る尋ねてくるので、


「作ってくれないんですか?」


「作る! 作るよ!! だからその目(・・・)はやめろ!!」

 

 良かった。

 作ってくれるそうだ。

 

 それにしても、『その目』ってなんだろう?

 グラリスさんは怯えているように見えるし、マリーやリンダさんのような『怖い笑顔スキル』を僕も獲得できたということか?

 

 でも頭の中でいつもの音はしないし……あとでノートを確認してみよう。


「で、どんな物がいいんだ? 口頭では細部がわからん。ここに絵を描いてみろ」

 

 羊皮紙と羽ペンを作業台の上に並べ、どうせ作るならと四角い浴槽の絵を描いていく。

 

 足を伸ばして横になりたいから、ユニットバスのような細長い形状がいいかな。

 底部から水を排出する穴は必須として。


 できればシャワーも欲しいけど、そこまで求めてもいいのだろうか。

 ええい、どうせならダメ元で描いておこう。

 

 寸法等を細かく聞かれ、僕が描いた絵にグラリスさんが数字を書き込んでいく。


「材質は木でいいんだな?」


「はい、浴槽は木で大丈夫です。シャワーの方は構造的に問題ないですか?」


「シャワーっていうのか? これ。

 要するに小さな穴のたくさん開いたココから水が出るようにすればいいんだろ? 

 浴槽の中から水を吸い上げてココから出すだけなら可能だな。

 錬金術屋に頼んで、魔核結晶で細工をしてもらえばできると思う」

 

 顎に手をやり考えながら、グラリスさんが羊皮紙に何やら書き込みを増やした。

 

 ここでも魔核結晶か。

 いつもはそのまま売ってしまっているけれど、防具の修理にも使うんだよな。

『マリーに説明して貰え』と言われていた、魔核結晶の使い道を知らないことを思い出す。 


「マリー、魔核結晶の使い道について教えてほしいんだけど?」


「そうですね。そろそろソーヤさんもEランクの魔物を討伐することがあるかもしれませんし、いい機会なので説明させてもらいますね」


「いい機会とか言ってるけど、忘れてたんじゃねーのか?」

 

 横から口を挟んだグラリスさんは、マリーの一睨みで撃沈。

 数字と文字で真っ黒になりつつある紙に目を落として、


「昔はもっとかわいかったんだけどなー。いつからこんな風になっちまったんだか」

 

 なんてぼやいている。

 さすが本家。

 僕なんか、まだまだ足元にも及ばなそうだ。


「では、いいですか? そもそも魔核結晶とは何か? 

 昔から様々な説が飛び交っていますが、正直まだ完全な解明はできていません。

 現段階でわかっているのは、魔物の心臓部付近から魔核が取れることが多いので、魔物が活動するのに必要な器官ではないか! というのが有力視されていますね」


「全ての魔物には、同じように魔核結晶があるの?」


「そこなんですよ! ビックワームや一角兎にキラービー。ソーヤさんが討伐した魔物にも魔核がありましたよね? 大きさや色に違いがあることには気がつきましたか?」


「うん、ビックワームが一番小さくて茶色っぽかった。キラービーはビー玉くらいの濁った緑色。一角兎は何色だったかな……? 思い出せないけど、迷彩ミミズクも緑色だったね」


「迷彩ミミズクを討伐したんですか?」


「ついさっきね。キンバリーさんからマリーお薦めの依頼だって聞いたから」


「それでそんなに薄汚れた格好なんですね」

 

 納得いったように、マリーが頷く。

 汚れてボロボロな僕の姿を不審に思っていたが、グラリスさんとのやり取りのせいで聞くのを忘れていたらしい。


「いつもありがとうね。魔物図鑑も助かったよ」

 

 お礼を告げると、


「いえ、これも仕事のうちですから」

 

 ピンクのヘアクリップで斜めにとめられた前髪を、恥ずかしそうにいじる。


「おいおい、仲がいいのは結構だけどよー。お勉強中じゃなかったのか?」

 

 ピーピー、と無駄に上手い口笛で囃し立てられ、ゴホンッとマリーが咳払いをする。


「話が逸れてすみません。続けますね。

 ソーヤさんが先程仰ったとおり、Gランクの魔物は茶色、Fランクの魔物は緑色の魔核を持つことが多いです。

 これは魔物自身のレベルのようなものが関係しているとギルドでは考えています。

 中にはGランクでも個体によっては緑色がかった茶色の魔核を持つものもいるので、同じ種類の魔物の中でも、体が大きかったり長く生きていると魔核が成長する可能性もあるのでは? そんな考えもありますね。

 ちなみにソーヤさんが取り忘れたEランクのマッドウルフの魔核は、緑がかった青色のものが多く出ています」


「なんだか、冒険者ギルドのギルドカードの色と似ているね? もしかして――」


「そうなんです。冒険者の持つギルドカードのランク付けにも用いられているカードの色は、討伐した魔物の魔核の色から付けられたとも言われています。

 本当かどうかは、歴史が古すぎてわかりませんが……でも、たぶんあっていると思いますよ」

 

 マリーはこの考え方に自信があるようだ。

 話を聞く限りでは、僕もそうだと思う。


「こうして考えていくと、魔核結晶とは魔物の心臓部付近にあり、魔物の成長と共に変化する。つまり大きくなったり色が変わったりすると推測されます。わたしが何を言いたいかわかりますか?」


「んー、強い魔物程、魔核が大きく色もトップランクの冒険者のカードの色に変わっていくってことは……魔核の価値も上がっていくってこと?」


「その通り、正解です。

 一般的に青以上の魔核結晶には魔力が宿っているものが多く、グラリスさんのような人達が武器や防具を作ったり直したりするのに使用します。

 魔核結晶の中の魔力を利用して、人の手だけでは無理な現象を起こすのです。  

 所謂高レベルの武器や防具には必ずと言っていいほど、上位の魔物から取れた魔核が埋め込まれていたり触媒に用いていることが多いですね。

 赤や銀はまだ見かけますが、金の魔核結晶ともなると、小さくても貴族や王族が家宝として(まつ)っていたり、Aランク以上の冒険者が持っているくらいでしょうね」

 

 そこで黙って聞いていたグラリスさんが口を挟む。


「ついでにちょっと補足してやる。お前のその籠手を直すのに使ったのは、青い魔核だ。

 作成する時にはたぶん、紫や赤の魔核を使っていると思う。

 お前も手に入れる機会があれば、ギルドで売らずに俺の所へ持ってこい。お前専用の武器や防具を作ってやる」


「茶色や緑の魔核はいらないんですか?」


「いらないというかな、茶色や緑の魔核だと中の魔力が少なすぎて使い道が少ねーんだよ」


「なら、ギルドで買い取ってくれているのはどうしてですか?」

 

 使い道のないものにお金を払うギルドの意向が気にかかる。


「それについては、わたしから。

 グラリスさんは使えないと言いましたが、きちんと使い道はあるんですよ。

 火を(おこ)したり、明かりを灯したりと、簡単な魔道具を作成するには十分なんです。安価で購入もできますし、貴重なギルドの財源にもなっているんです」


「そういうことだ」

 

 マリーの説明に、グラリスさんが偉そうに頷く。


「そうそう。さっきのシャワーだったか? あれを作るのに、錬金術師の所で青の魔核を使うことになると思うから、最低でも3000リムは覚悟しておけよ。

 他の材料と工賃を合わせると……5000リムもあれば足りると思うがよ」

 

 思い出したようにグラリスさんが告げてきたのだが、


「ちょっと高くないですか?」

 

 マリーがニッコリと笑みを浮かべた。


「高いわけねーだろ! マリー、お前がギルドで青の魔核を買い取るとしたらいくらで買い取るんだよ?」


「……1500~2000リムくらいですかねー」

 

 しれっとした顔で嘘をついている。

 マッドウルフの魔核の買い取り金額は、3000~5000リムくらいだと言っていたはずだ。


「平気な顔して嘘つくんじゃねーよ! 最低でも3000リムは出すはずだぞ!」


「……チッ」

 

 えっ、今舌打ちしたのはマリー!?

 いやいや、グラリスさんだよね?

 僕の隣から聞こえてきたけれど、違うと信じたい。


「だとしても、魔核が3000リムだとしたら、残りの2000リムはどこからきたんですか?」


「それは錬金術師に術式を書いてもらう費用とか、浴槽やシャワーの材料費だろ?」


「水を吸い上げるだけの簡単な構造だから、術式が300リムくらいだとして……材料費なんて、木造だから200リムもあれば十分ですよね? 残りの1500リムは?」


「……俺の工賃だよ! 悪いのかよ? 俺だって仕事なんだよ。金を取るだろ? 普通」


「悪くないですよー。悪くはないんですけどねー」


 マリーがささっと、僕の横に並んで目配せをよこし小声で、「せーのっ」と合図をする。

 

 僕はそれだけでこの先の流れを察知し、グラリスさんに申し訳ないな、と思いながらもマリーと同時に頭を下げた。


「「これでお願いします!」」


「……お前がいる時に金の話をするんじゃなかったよ」

 

 グラリスさんの呟きには、タダ働きが決定した悲しみが宿っていた。

 かわりにマリーの顔には満面の笑みが。




いつも読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。


ご意見ご感想、評価等も頂けると更新の励みになるので、嬉しいです。


今後とも宜しくお願い致します。


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