64.美容師~お風呂を捜し求める
冒険者ギルドの受付は朝の忙しさも収まり、カウンターにはシェミファさんが一人。
迷彩ミミズク3匹分の討伐部位と素材、魔核結晶を買い取りして貰い、カードの更新もお願いした。
ついでにキラービーの素材も買い取りをお願いすることに。
彼女は更新後のカードを見ることなく、淡々と買い取り金額と共に手渡してくれる。
キラービーの素材の針が30×5、魔核結晶が40×5でしめて350リム。
迷彩ミミズクの討伐報酬が100×3、素材の羽が200×6、魔核結晶が500×3でしめて3000リム。
手持ちが1200リムだったので、残金は、4550リムだ。
迷彩ミミズクは見つけるのが難しいだけあって、買い取り金額がそこそこ高い。
スキルレベルもあがったし、いい収入になった。
オススメしてくれた、マリーとキンバリーさんには感謝だ。
無事にレベルが上がったことをマリーとキンバリーさんに伝えてもらおうか悩んだが、明日自分の口から説明しようとやめておいた。
とりあえず、お礼を口にしてその場を後にする。
「大きな樽、大きな樽……なければなんでもいい。お湯を溜められるものでさえあれば」
呟きながら、商店が並ぶ道を探しながら歩く。
店先には見当たらないので、たまにそれとなく聞いてみるが、どこもそんな大きな物は置いてないとのこと。
ちなみにお風呂について尋ねてみたが、貴族や王族でもない限り、一般庶民が風呂に入る習慣はないらしい。
やっぱりそうか。
予め期待はしていなかったが、銭湯のような施設もないということだ。
やはり自作するしかないので、諦めずに風呂桶のかわりになる物を探して探して探して……気づけば陽が暮れていた。
こうなったら、グラリスさんの工房に短剣とナイフを受け取るついでに、依頼を出して作ってもらおう!
大丈夫、懐は温かい。
最悪、全て吐き出してもいい。
足りなければツケにしてもらえばいい。
もはや風呂に入りたいという執念は消しても消しきれない。
一度入れるかもしれないと思ってしまったのだ。
今日が無理でも、明日には入るんだ。
グラリスさんなら、明日までには完成させてくれるはずだ。
フラフラと疲れた体に鞭を打ちながら、グラリスさんの工房に……。
「ずいぶんお疲れのようだな。そんなに強敵だったのか?」
土や埃を身に纏い、幽鬼のように歩いてきた僕を見るなり、顔をしかめてグラリスさんが聞いてきた。
「強敵も強敵ですね。どんなに探しても、その影すら見せてくれないんですから」
「そうか。大変だったようだな」
苦笑を浮かべて、預けていた短剣とナイフを手渡してくれたので、レンタルしていた短剣とナイフを交換した。
「一応、確かめてくれよ。問題はないと思うけどよ」
受け取ったまま黒曜の籠手にしまおうとしたので、注意をされて1回転させてみた。
「問題ないですね。さすがグラリスさん、作れないものなんてないんじゃないですか?」
「おべっかはよせよ。気持ち悪い。何か企んでるんじゃねーか?」
「いえいえ、本心ですよ。グラリスさんくらいになると、依頼をされたのに、できないなんて断ることはないんじゃないかと思いましてね」
「……ソーヤ。どうしたんだお前。なんか今日は変だぞ」
訝しげにこちらを睨み、警戒するように一歩身を引いた。
けれど僕は彼を逃がすわけにはいかない。
依頼を受注して、僕の望みを叶えてくれるまでは意地でも離れない所存だ。
というわけで、追いかけるように一歩足を踏み出した。
「おいっ、こっちに来るな! それ以上近づくんじゃねー! ぶん殴るぞ!!」
それでも止まらない僕は、短剣を鞘から抜いて、剣先を向けられてしまった。
「やだなぁ、グラリスさん。そんな危ないものはしまってくださいよ。僕はただグラリスさんと、ちょっとお話がしたいだけなんですから」
「話すならそこで止まって話せばいいだろ! とにかくいいから近づくな! 刺すぞ! 俺は本気だぞ!!」
「……何をやっているんですか……あなた達は……?」
呆れたような声が背後から聞こえ、一瞬グラリスさんから目を離した。
その隙に、グラリスさんが脱兎のごとく僕の脇を駆け抜ける。
「たっ、助けてくれマリー! ソーヤが壊れた!」
マリーの背中に隠れ、僕を指さし叫ぶグラリスさん。
「壊れた? ソーヤさんが?」
来たばかりで状況のわかっていないマリーは、
「ソーヤさんは機械だったんですか? 人間ではなく?
だからキノコを大量に見つけるし、スキルもあんなにたくさん取得できる?」
思案顔で妄想を膨らませている。
「機械なわけねーだろ! いいか? 気をつけろ。
とにかく今のソーヤは普通じゃない。何か状態異常か呪いのようなものをかけられたのかもしれねー。すぐに教会の神父を呼んで来い!」
「呪い!? そんな! 一大事じゃないですか!! すぐに行ってきます!」
駆け出そうとするマリーの腕を掴み、
「状態異常でも呪いでもないから大丈夫。教会も神父も必要ないよ」
安心させるように微笑みかけた。
「そうですか。なら……グラリスさんのあの態度は?」
スキル全開放!!
背を向けて走っていくグラリスさんに瞬時に追いつき、両腕を取って拘束する。
逃がさない。
逃がすわけにはいかない。
僕のお風呂……。
「放せー! やめろー! 助けろマリー!!」
叫ぶグラリスさんをズリズリと引きずり、マリーの元に戻る。
「ソーヤさん……説明を……」
いつも読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。
ご意見ご感想、評価等も頂けると更新の励みになるので、嬉しいです。
今後とも宜しくお願い致します。




