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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
60/321

60.美容師~借金のカタに笑われる


目が覚めて寝ぼけながらも防具をつけようとして、グラリスさんのところに預けているのでないことに気がついた。


 いつものまずくもなく美味しくもない宿の朝食を胃におさめ、グラリスさんの工房に向かう。

 

 工房の奥から、カーン、カーンと音が聞こえた。

 作業中かな?

 

 声をかけていいものか戸惑っていると、音が鳴りやみグラリスさん登場。


「人の気配がすると思ったら、やっぱりお前かよ。声ぐらいかけろ。物取りかと思っちまうだろ!」

 

 怒られた。

 僕の気遣いを返してほしい。

 ただ、目下借金まみれの僕に言い返す権利などはなく、


「すみませんでした」


 俯いて謝罪をする。


「どーしたんだ? 別に本気で怒ってるわけじゃねーぞ? 体の調子でも悪いのか?」


「いや……手持ちのお金があまりないので、今日もまたツケでお願いしたいなと」


「そんなことかよ。お前が金を持っていないのはわかってんだよ。男がそんな小さなことを気にすんな! ある時に払ってくれればいい」

 

 ほっと肩の荷を下ろす僕に、「それに」とグラリスさんが続けた。


「払い終えるまで、俺はお前を逃がすつもりはないからな。死ぬまでこき使ってやる」


 ニヤリと笑い、


「短剣の改造に革の防具一式、全部できてるぜ。さーて、いくらにするとしようかねー」

 

 値切ろう!

 値切るんだ!

 頑張れ僕!

 このままでは借金生活に突入して、ゆくゆくは奴隷のような扱いをされてしまう。



 なんて不安を感じていた僕に、グラリスさんは良心的な金額を告げてくれた。


「おおまけにまけて、4000リムってとこかね」

  

 よかった、払える!

 僕は急いでお金の入った小袋を逆さまにし、作業台の上に銀と銅のコインをぶちまけた。


「これで借金はなし、ということで?」


「ああ、とりあえずはな」


「とりあえず? まだ何か?」


「いやな、その籠手あるだろ?」


「これですか?」

 

 黒曜の籠手を持ちあげる。

 傷もなく、初めて渡された時の状態に戻っていた。


「それのな、修理に必要な素材が思いのほか高くてよ。その代金は入ってないんだなー、これが」


「えーと、ちなみにいくらくらい?」


「工賃は別で材料代だけで3000だな。傷を修復するのに使う魔核結晶があれば、ほとんど手間賃ですむんだけどよ」


「修理に魔核結晶が必要なんですか?」


「ああ、Eランクより上位の魔核で力のあるモノに限るけどな。

 そういえばソーヤ、マッドウルフの魔核はどーしたんだ? 程度によるが、それがあればタダでいいぞ」

 

 あるなら出せ、と手を伸ばしてくるが、


「持ってません」


「ああ、売ったのか。マリーも買い取る前に説明くらいしてくれればいいのにな。

 たまには文句でも言ってやれ。売って金に換えるのもいいが、手に入れるのに逆にもっと金がかかる素材だってあるんだからな」


「いや……マリーは悪くないというか」


「すぐに金が必要だったのか? おまえ、そんなに金がないのか? 少し返すか?」


 かわいそうな眼差しを向けられたので、正直に話すことにした。

 

 魔核結晶を剥ぎ取り忘れたと。

 しかも二匹分。

 素材もほとんど剥ぎ取らず、そのまま放置してきてしまったと。



 グラリスさんはお腹を抱えて大笑いし、苦しそうにしている。

 いったいどれだけ笑えば気がすむんだ。

 もう5分程は経過している。

 

 僕が防具一式を装備して、新しく受け取った短剣の重心をチェックし終わっても、まだ苦しそうにヒーヒー漏らしている。

 僕だって、傷つくんですけど。

 

 遠い目をして空を眺めていると、ようやくグラリスさんが復活。

 お腹を押さえて、「いてー、腹がいてー」と涙目だ。

 

「魔物を倒して素材を剥ぎ取らない冒険者なんて、初めて見たぜ」

 

 まだ言うのか。

 HPがどんどん削られているので、そろそろやめてほしい

  

 もうこのままほおっておいて帰ろうかな。

 そう思い踵を返そうとすると、


「待てよ。面白かったから、魔核代はいらねー。タダにしてやるよ」

 

 目元を拭いながら、グラリスさんが言った。

 そうか、なら笑われるのも悪くない。

 3000リムの為だ、甘んじて我慢しよう。


「短剣、どうだ? 重心はそんなもんでいいか?」

 

 急に鍛冶屋の顔つきになり、グラリスさんが聞いてくるので、


「ええ、悪くないです。こっちの方が回転させやすいし」


「そうか、なら今持っている短剣とナイフも同じように修正してやるから貸しな。ついでに研ぎ直しといてやるからよ」

 

 メンテナンスを頼もうと思っていたのに、忘れて帰るところだった。

 武器の大切さを思い知ったばかりなのに、危ない危ない。

 

 短剣とナイフを渡すと、夕方までに仕上げてくれると工房の中に戻ろうとするグラリスさんを引き留め、短剣1本だと心もとないので代わりの短剣とナイフをレンタルできないか尋ねると、店先に置いてあった鞘ごと短剣とナイフを投げ渡された。


「お前もいっぱしの冒険者らしくなってきたじゃねーか。怪我しないように気をつけろよ」

 

 肩を力いっぱい叩かれた。


「では、お借りしますね」

 

 痛みを堪えながらお礼代わりに軽く頭を下げ、グラリスさんの背中を見送って次は冒険者ギルドに向かう。



いつも読んでいただきありがとうございます。


ご意見、ご感想、お待ちしております。


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