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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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6話.美容師~お金を稼ごうとするが再び牢屋に入る

 

 

「じゃあな、もうここには来るなよ」


 牢屋番が僕の肩を叩いて扉の中に戻って行った。

 これがシャバの空気というやつか。

 

 僕は大きく息を吸って、盛大なため息をついた。

 やっと外に出してもらえた。


 水場も借りて、簡単に身体とアンジェリーナも洗わせてもらえた。

 血の着いた服は悪目立ちすると、小柄の男が余っていた古着をくれたので、少し小さいが我慢して上だけ貰って着た。

 

 着ていた服は水洗いして、これまた貰った布の袋に入れてある。

 ちなみにアンジェリーナもその中だ。

 そのまま手で持ち歩いていたら、勘違いした誰かに騒がれて、また牢屋に逆戻りになりそうだと(さと)されたから。

 

 大柄な男、改めテッドという名前らしい、からとりあえず宿屋の場所は聞いた。

 けれど持ち合わせがない。

 つまり泊まるお金がないことを(うった)えたが、それくらいは自分でなんとかしろ、と無残にも追い出された。


 仕方がないので、宿屋に向かい泊まらせてもらうかわりに、何か手伝えることはないかと交渉してみるつもりだ。

 

 教えてもらったとおりの、鳥が木にとまった看板の宿屋を見つけたので中に入る。


「いらっしゃい、泊まりかい?」


 カウンターにいた女性が話しかけてきたので、泊まりたいがお金を持っていないことを告げた。


「何か手伝えることはないでしょうか?」


 女性はしばらく悩んでいたが、


「残念ながら人手は足りてるんだよ」


 申し訳なさそうに謝られた。


「無理を言ってすみませんでした。お金を稼いでから、また来ます」


「ああ、悪いね。期待しないで待ってるよ」


 せめて期待して待っていてほしい。

 宿屋から出て、辺りを見回す。

 

 どこか別の場所で仕事を探すか……もしくは自分で稼ぐか。

 

 この世界にも美容室のようなものはあるのだろうか。

 たぶん似たような仕事はあるだろう。

 なんとなく、そう思った。

 

 無くても僕にそれ以外の選択肢はない。

 この街で自分のお店を出すべきか……同業者がたくさんいるなら、迷惑になるかな。

 美容師の少ない他の街を探してもいい。

 

 まずはこの世界の流行りを学ぶ為にも、一度は訪れてみたいけど。

 とにかく、目指せ異世界での美容室一号店だ。


 

 途切れなく人が通り過ぎていく。

 しばらく観察していると、男性も女性もわりと髪の毛の長い人が多いようだった。

 

 男性は肩の上から肩甲骨(けんこうこつ)ぐらい。

 女性は肩の下から腰の辺りまで。

 髪の色は茶色がほとんどで、少し金色混じりの茶色が少数。

 赤やオレンジが混じった茶色もいる。

 

 男性は手を加えずセンター分けかオールバックに流して下ろしたままが多く、女性は首の辺りで一つに束ねて下ろした人が多い。

 どれもかわりばえがしないし、あまり髪型にこだわったりする習慣がないのだろうか?

 

 みんな似たり寄ったりな髪型だ。

 個性がない。

 それが美徳と考えられている可能性もないことはないが……。


 ちょうど目の前に差し掛かった10台後半くらいの女性に声をかけた。


「あの、少しよろしいでしょうか?」


「わたし?」


 立ち止まってくれたのは、茶髪で肩甲骨の下辺りで髪を束ねたスタイル。

 光の加減で金色っぽく見えたりするが、近くで見ると傷んでいるのかパサついた感じ。


「きれいな髪の毛の色ですね」


 とりあえず褒めてみた。


「そう? あまり他の人と変わらないと思うけど」


 髪に手をやり、まんざらでもなさそうだ。


「いえいえ、他の人よりも金色に輝いて見えたので、つい声をかけさせてもらいました」


「そうかしら……でも褒めてくれてありがとう。うれしいわ」


「それでですね。もしよければなんですが、私にあなたの髪の毛を()わせてもらえないでしょうか?」


 女性の顔にあった笑みが、少しずつ薄れていく。


「えーと……今なんて言った?」


「いや、急にこんなことを言われて怪しいのは自分でもわかっているのですが、どうでしょうか? 今よりもかわいらしい髪型にしてみせますよ」


 もちろんお代を少しはいただきますが。

 小さく付け加えると、頬に衝撃が走った。


「最悪」


 僕の頬を叩いた女性は、捨て台詞を残して去って行った。

 突然のことにびっくりして、僕は叩かれた頬を手で押さえ、そのまましばらく固まっていた。

 

 ナンパとでも間違えられたのだろうか。

 いきなり見ず知らずの女性なのがいけなかったのか。

 

 まずは男性からにして、口コミで広げてもらって。

 考えていると、肩下くらいの髪の長さの男の子が走ってきた。

 10歳くらいかな。

 

 無料でこの子の髪をいじってあげて、それを見ている人に声をかければナンパの類ではないことをわかってもらえるかもしれない。

 そう思い、男の子を呼び止めた。


「ねえ、君。ちょっといいかな?」


「なに?」


 男の子が立ち止まり僕を見上げる。


「少し髪の毛を触らせてくれないかな? 友達よりもカッコイイ髪型にしてあげるよ」


 視線を合わせるようにしゃがんで、男の子の髪に手を伸ばす。

 すると、男の子はジリジリと僕から視線を外さないまま後ろに下がり、ダッと勢いよく元来た道を走って行ってしまった。


 うーん、なかなかうまくいかない。

 知らない人から話し掛けられて怖かったのかな。

 

 子供からはわりと好かれる方だったんだけどな。

 リアルに落ち込んでしまう。

 

 顧客の子供達を思い出し、落ち込んでいても仕方がないと自分を励まし、次のターゲットを探す。

 

 今度は大人の男の人にしてみよう。


「すいません、ちょっといいですか?」


「あ、なんだ? なんか用か?」


 30台くらいの襟足で切り揃えた髪型の男。

 編み込みにでもしてみるか。

 想像しつつ、


「よければあなたの髪型をかっこよく編ませてもらえないでしょうか?」


 男は首を傾げて(いぶか)しそうに僕を睨み、僕が笑顔のまま動じないでいると、


「なんだ、ただの変態か」


 ふん、と鼻を鳴らし去って行った。

 

 ……変態じゃないし。

 ちゃんと女性が好きだし。

 

 場所が悪いのだろうか。

 ここを通る人はみんな忙しいのかも。

 自分を慰め、移動する。

 

 角を曲がろうとすると、小さな物体が飛び出してきて僕の足にぶつかった。

 5歳くらいの女の子が地面に倒れている。


「いたたっ」


 すりむいてしまったのか、膝をさすっているので、


「ごめんね、大丈夫かな」


 わきを抱えて立ち上がらせてあげた。


「ありがとうお兄ちゃん。大丈夫、もう痛くないよ」


 女の子が泣くのを我慢して笑う。


「泣かなくて偉いね」


 手を伸ばして女の子の頭を撫でると、


「あっ」


 女の子が呟いて僕を見た。



「こっちよ、こっち! ほら、あそこ。あの男! 大変っ」


 大声で誰かを呼ぶ声がする。

 

 目を向けると、通りの向こうで女の人がこっちを指差して叫んでいた。

 早く、早くと誰かを急かすように手招(てまね)きしている。

 その後ろから男が二人出てきた。

 走る勢いを早め、近づいて来る。


「何かあったのかな?」


 ねぇ、と女の子を見ると、女の子は身体を震わせて泣いていた。


「どうしたの? 大丈夫だよ」


 頭に乗せたままだった手を動かして、よしよしと撫でていると、


「今すぐその手を放せ!」


 走り寄ってきた男が僕の腕を掴み捻り上げた。


「ちょっと、いきなり何をするんですか?」


 ステータスが上がっている影響か、そこまで痛みはない。

 力を入れれば振り解けそうだ。


「この変態め! 牢屋にぶち込んでやる」


 もう一人の男が、逆の腕を掴みグイグイと引っ張る。

 両腕を抱え込まれた僕は、後ろ向きでズルズルと引きずられた。

 この状態からは、抜け出せそうにない。


「待って待って、なんで僕が変態なんですか? 僕は何も悪いことはしてない! 放してください」


「うるさい、黙れ変態!」


 男達は聞く耳持たないといった感じに、腕を掴む力を強めた。

 引きずられる僕に見えたのは、泣きじゃくる女の子を抱きしめ慰める女性。


「大丈夫だよ。もう怖くないから。悪い人は捕まって連れていかれたからね」


 そんな言葉が聞こえる。

 (かたわ)らには、ついさっき走り去って行った10歳くらいの男の子がいた。

 女性の服の裾を握りしめ、こちらを睨んでいる。


 ……どうして……こうなった。




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