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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
56/321

56.美容師~木の棒を避けたら怒られる

今回は短くて、すみません。





「こんにちは」

 

 表にはグラリスさんがいなかったので、工房の奥に声をかけてみると、ガシャンガシャンっと音がして、グラリスさんが勢いよく飛び出してきた。

   

 僕の目の前で立ち止まり、頭の先から足のつま先までを眺めると、持っていた木の棒を振りかぶり、思いっきり振り下ろしてきたので慌てて飛びのいた。


「何するんですか!?」


「何するんですかじゃねーよ! それに避けるな!」

 

 確実に相手が悪いのに、より強く言われると自分が悪いような気がしてくるから不思議だ。


「いきなり殴りかかられたら、誰でも避けるに決まってるじゃないですか」

 

 木の棒を手ににじり寄ってくるのを、後退しながら《観察》スキルで警戒する。

 

 しばらくそのまま相対したが、諦めたようにグラリスさんはため息をついて木の棒を手放した。


「一発くらいぶん殴らせろよ。まったく……心配かけやがって」

 

 背を向けて工房の入り口まで戻り、テーブルの上に腰かけた。

 

 マリーにでも聞いたのだろうか?

 どうやら心配してくれていたようだ。

 

 心配かけたのは悪いとは思うけれど……、

 だからって、あの勢いで木の棒で殴られたら怪我をしてしまうので、おとなしく殴らせてあげるわけにはいかない。

 

 せめて拳で殴りかかってくれていれば……やっぱり痛いのは嫌なので必死で避けてしまう気がする。


「心配をおかけして、どうもすみませんでした」

 

 せめて言葉でお詫びはしておこう。


「ふんっ、弱いくせに無理するんじゃねーよ! 防具だってボロボロじゃねーか。マッドウルフ2匹とやりあったんだってな」


「ええ、よく御存じで」


「今朝方、マリーが血相変えて飛び込んできたからな……あんまり心配かけるなよ。お前だって死にたいわけじゃねーんだろ?」


「それはもちろん死にたくないですけど」


「なら、今後は気をつけろ。それで、どうする? 

 胸当てはもう駄目だな。修理するより買いなおした方が早いし安いぞ。

 肘当てと脛当ては傷くらいだから直してやる。

 右の革の籠手もダメだな。新しいのと交換だ。

 左の籠手は傷が結構ついてるな。その籠手がそこまで傷つくなんて、かなり無茶な使い方をしたんだろう?」


「はい。正直この黒曜の籠手がなかったら何度か死んでましたね。グラリスさんに言われた通り、使い潰すつもりで使わせてもらいました。

 でも、お陰様で生きて戻ってくることができました」


「そうか……それも外して置いておけ。明日の朝までに綺麗に直しておいてやる」

 

 外した黒曜の籠手を大事そうに受け取り、グラリスさんが感慨深げにそっと撫でいていた。


 なんだか邪魔しちゃいけないようなを空気を感じ取り、


「では、お願いしますね」

 

 頭を下げて冒険者ギルドに足を向けた。

 

 背中越しに《聴覚拡張》が、小さな呟きの一部を拾ってくれた。


『……ソーヤを守ってくれてありがとうな』

 

 それは、いつものグラリスさんらしくない、とても優しい声だった。




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